黒い空

希京

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密談

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律だけを連れて客間に向かう。

部屋の中にいる赤い直衣姿の男は、静に気がついて頭を下げる。

一段高い上座に座り、静は脇息を引き寄せて座り、檜扇を開いた。

「お久しぶりでございます」

高く巻き上げられた御簾の下、静は何も言わずに晴明を見ている。
後ろにある豪華な屏風に写る影も動かない。

「葬儀に参列したかったのですが、ご一族みなさまお揃いでしたのでしばらく遠慮しておりました」

傍らに侍る律も、晴明をじっと見ていた。

今さら何の用があるのか、やってきた意味がわからない。
静が黙ったままなので律も発言しにくい。

「アルノ殿はいかがお過ごしですか?」

「総帥だ」

呼び方に過敏に反応して、静が訂正する。

「申し訳ありません。前の総帥が亡くなって早々に夫を総帥と呼んでいるとは知らず」
多少の嫌味を込めて晴明が言うが、扇の向こう側にある静の表情がわからず、心の底が読めなかった。

「総帥は体調不良で部屋に籠もっているとか」

「……」

「何でも恐ろしい死体を見た衝撃で起き上がれなくなったと噂を聞きました」

見えない静の顔を凝視しながら晴明が続ける。
女同士の密室での争い、どこから情報が漏れているのだろう。
あの灰色の侍女群から、間者を見つけるのは骨が折れそうでうんざりする。

律は話の流れがどうなるか、静が無言なのではらはらしている。

「最近また木のような死体がこの辺りで見つかりましてね」

上半身を起こして、一呼吸してから晴明は本題をぶつけてきた。

「まだ犯人が見つからないのですか?」

驚いた律が自然に口を開いた。

「ここに来れば答えが見つかるかと思ったのですが…。総帥は伏せったままですか。そうですか…」

静は檜扇をゆっくり扇ぎながら、この陰陽師をじっとみつめている。
何を考えているのか、晴明も律もわからない。

まどろっこしい湾曲な言い方には付き合わないということだろうか。

ぱし、と音をたてて静が扇を閉めて手の平に握った。

「総帥は別宅だった屋敷にいる。そこをしばらく封印して木の死体が見つからなければ、晴明どのの疑惑のひとつが消えるだろう」

「それは…」
律の表情がこわばる。

「ご病気の方を閉じ込めて、栄養源を絶てば総帥は死ん…‥」

「律」
全てを言い終わる前に、静が厳しい言葉で止めた。

「あなたも木の死体の原因が総帥にあると思いますか?そんな発言に聞こえる」
晴明は律を言葉で追い詰めていく。

「奥方さまの代弁ということでよろしいですか?」

「いえ、そんな事は」

ふたりは静の顔色をうかがう。

再び開いた扇で顔を隠した静は何も言わない。

「私も聞きたいことがある」
少し身を乗り出して、静は口を開いた。

「答えが納得するものだったら、今から総帥の元に行って様子を見てこよう」

「はい」

唯一見えている静の眼がきつくなる。

「クルト様を殺したのは誰?」

今度は晴明が黙る番だった。

「自分が見たわけではないので不確かな事は言いたくないのですが、推測でしたら申し上げられます」
しばらく沈黙が続いたが、静の無言の圧力に汗が顔をつたい、手の甲に落ちた。

「私の上司たちです」

「…!」

ぐしゃり、不気味な音をたてて静は持っていた扇を握りつぶした。

「よくのうのうと私の前に現れたな」

す、と折りたたまれた紙を床に置いて、静のほうへ滑らせる。

「上司の名前を書き出しました」
律が受け取って一読してから静に渡す。

受け取った紙を、静は一瞬で燃やした。

灰も残らず、それは空に消えていく。

「出世に邪魔な上司を私たちに殺させて自分はおいしい思いをする。なるほど頭の回転はいいほうだな」

「晴明どの!」
我ら一族を利用して出世に邪魔な上司を消そうという企みに律は怒りを露わにした。

立ち上がりかけた律を制して、静は続ける。

「総帥のお体が心配だ。私では会ってもらえないから晴明どのに仲介を求めたい」

「かしこまりました」

「犯人を見つければ昇進もするだろうよ」

にやりと笑って静は立ち上がって御簾をくぐり、晴明を横切って部屋の外に出た。

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