もしも目の前に神が現れたら

希京

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病院

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夜、静かな病室に「肉体」の慎吾が横たわっている。

病室には面会時間をすぎているのに慎吾の両親がいた。

その正面に、慎吾が立っている。

「病気には勝てないね」

後ろの死神に慎吾が言う。

「早く僕の魂を食べたい?」

挑発する目で慎吾は後ろの死神を振り返って笑顔を見せた。

「お前、死ぬのが怖くないの?」

「死ぬ瞬間って脳が快楽物質をいっぱい出してすごくいい気持ちになるって聞いたから期待してたんだけど、死神が見えるだけか。つまんねえ」

笑顔が失望に変わる。

「願い事ねえ…。世界中の人間が幸せになれますように」

「そんな事出来るか」

「紛争が終わって、全世界の核兵器が無くなって、この国の政治がよくなりますように。こんなんでどう?」

「国連に言え」

「出来ないのかよ」

「自分の欲望を言えっつってんの」

「今言ったよ」

両親が横たわる慎吾の手を握っている。

「生き返りたくないの?」

「それを言ったらお前が僕の命を奪うんだろ?死ぬことは変わらない。だったらお前なんかに魂はやらねえよ」

もう我慢の限界だった。

まずくてもいい。この性格の悪い男を食ってやると死神はやる気を出そうとした。

「…楽しかった」

「はい?」

「僕は友達いなかったから、こんなにしゃべった事がない。ゲンゴロウが来てから楽しかったよ」

その性格じゃあ友達出来ないだろ、と死神は思った。

「ここで生き返ったらまた生き地獄だ。僕は死にたい」

ぼんやりしている死神に、慎吾は不機嫌になる。

「聞こえた?望みは言った」

「え?」

「僕は死にたい!」

慎吾は死神の胸ぐらとつかんで窓に叩きつけた。

「きゃあ!」

突然大きく揺れたカーテンを見て母親が悲鳴を上げた。

「神様、まだ慎吾を連れていかないで…」

母親が悲痛な願いを口にした。





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