もしも目の前に神が現れたら

希京

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違う世界

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「死神は生まれた時から死神なの?」

慎吾は手を離しながら質問する。

「わからん。気がついたらこうなってた」

「ノルマとかあるの?今月は何人の魂を狩りましたとか」

「ないよ。腹減ったら死にそうな人間に取り憑くだけだ」

「じゃあさっさと僕を死なせてくれ」

「親を泣かすもんじゃない」

「…お前ウソついたな。そんな事人間じゃなきゃ思いつかない発想だ。元は人間なんだろ?それも結構年寄り」

狂ったような目をしている慎吾に、死神も降参するしかなかった。

「もういい。お前の魂はいらない。ほかの死神に見つけてもらえ」

慎吾を振り切って死神は閉じられている窓から外に消えていった。

ひとり残された慎吾は、肉体の自分を見下ろす。

それにすがりつくように泣いている母親を見ながら、自分の願いと、親の願いの違いに困惑する。

どれくらい時間がたっただろうか。

まわりの機械からけたたましい警告音が鳴り、看護師が数人走ってきた。

「慎吾!」

父親が母を引き離す。

医師が到着する頃には、波を作っていた線がまっすぐになり、一定の音を出していた。

その一部始終を、慎吾は少し離れた場所から眺めている。

肉体は死んだけど、この僕の状態って、もしかして地縛霊とかそんな感じ?

それはちょっと嫌かも。

ゲンゴロウ、まだ近くにいないかな。

仕方ない。適当に霊現象を起こして霊能者を呼んで払ってもらえば…。

僕は完全に死ねるの?

嫌だ。死にたくない。

こんな状況では死にたくない。

消えたいんだ。

葬儀屋が到着してどんどん自分の肉体が消える手続きが進んでいくのを慎吾は焦りながら見ていた。
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