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忌み子
出生
しおりを挟む「忌み子じゃ、忌み子!」
助産婦のヤーガ婆が、17歳のエリが24時間かけて産んだ子供を取り上げて発狂し、騒ぎ始めた。
「忌み…?」
「忌み子。お前さんの産んだ子は双子じゃ。不吉なんじゃ。それに…」
「?」
確かに妊娠が発覚した時から、エリ・キムジンの腹は普通の妊婦よりは大きかった。エリは死にそうになりながらも双子を産めたことに喜びを感じていたが、ヤーガ婆や周りの村人があまりにもざわざわとするので、次第にその喜びも大きな不安となって膨らんでいった。
「しかもこの兄の方は、白いのお。益々不吉な男児じゃ」
先に産まれた男児は、既に真っ白な髪が薄く生えており、肌も透き通るように白かった。一方後に産まれた弟は、健康そうな黒髪で、頬はピンク色に染まっていた。二人とも、大きな声で泣いていた。
「エリには悪いが、忌み子を産んだ以上、お前と子供には出て行ってもらわんといかんな」
「え…」
エリは狼狽した。ふいに何故か咳が止まらなくなった。ヤーガ婆はエリの背中をさすった。
「そうね。こんなふしだらな女には」
エリの出産を傍観していた、シラという髪の長いエリの隣の家の女性が、小屋の柱に寄りかかりながら突然笑った。口には村独自のタバコをくわえている。シラはヤーガ婆の孫だった。
「シラ、そんな言い方…」
エリの従妹、ビスタがエリにそっと近づいて、寄り添うように手をエリの肩に置いた。
「は?ビスタ、この子がどいつの子を産んだと思ってんの?」
シラはタバコを手に持ち、エリに一歩一歩近づいた。ギシギシと小屋の床が鳴った。エリは恐怖を感じた。エリは自然と産んだ双子を二人とも、守るように抱きしめた。
「ナハダ・マヒ。連続強姦殺人鬼。私の姉を殺した男よ」
エリはウッと目をつぶった。あの地獄が、エリの頭の中で嫌でも再生された。
「あんたの産んだのは、犯罪者の子なのよ。わかる?」
シラはエリの耳元でそう囁いた。そして、エリが大切に抱きかかえていた子供の兄の右胸と、弟の左胸に、それぞれタバコの吸い口を押し付けた。ジュッと柔らかい肉が溶ける音がした。二人は大きな声を上げた。
「シラ!なんてことするんだい!」
ヤーガ婆は子供を守るようにシラの顔を引っぱたいた。顔には怒りの皺が刻まれていた。エリは無力にうううと泣いた。子供を抱きながら泣くことしかできなかった。
「あーらあーらオババ。あんただって忌み子忌み子ってうるさかったじゃない!」
「それは村の掟を守るために…」
「じゃあなんでナハダを村に入れたのよ!他の国の男を簡単に入れたから大変なことになったんでしょ!姉を、サラを返してよ!」
「もう起こったことは戻せん…国の役人にもあの男は連れていかれた。もう悪さをしてくる男はいない」
「でも平和は返ってこない!」
「シラ!いい加減にせい!」
「うるさいっ!」
シラは吸い終わったタバコを床に落とし、走って小屋を出ていった。
「エリ、大丈夫?」
ビスタはエリのことを子供ごと抱きしめた。エリは涙が止まらなかった。子供も叫び声をあげていた。
「シラ、サラ…」
ヤーガ婆は呟くと、顔を床に伏せ慟哭した。エリはヤーガ婆が泣くところを初めて見た。
「行く…ね」
次の日の早朝、エリはチーズとパンとミルクとナイフだけ袋に持たされて、村から出ることになった。
「姉さん、本当に?」
エリの弟のマッチが、ひきつった顔をした。
「マッチ、母さんをよろしくね」
「俺だけじゃ全然わからないよ!世話とかさ、できないよ…」
「マッチは男の子だから強いでしょ。大丈夫だよ。それにヤーガ婆もいる」
「寂しいよ…」
「私も寂しい。でも村の掟だから」
エリはマッチを抱きしめた。マッチは激しく泣いて、涙がエリの服に染みた。
「ねえ、エリ、エリは子供に名前を付けたの?」
「あ…」
ビスタに言われて、エリは背中に背負った二人を見せた。
「前、違う国から来た宣教師の方が残した本に載っていた名前にしたよ」
「どれ?」
「お兄ちゃんはカインで、弟はアベル」
「そう…カインとアベルね」
「うん」
エリは前に向き直って、村人の前で最後の別れをした。
「じゃあ、行ってく…」
「エリ!」
「!」
シラがヤーガ婆を連れて走ってきた。
「エリ、エリごめんなさい。子供傷つけて、ごめんなさい。サラが死んで頭が飛んでいた。憎しみで、心がどうにかなりそうだった。でもエリも同じよね。苦しかったでしょ、ごめんね…」
「シラ、子供のことは、許せない、よ…」
「う…」
「でも、サラのことも、私忘れてない。ねえ、誓わない?ナハダ・マヒにいつか復讐しよう」
「…殺すの?」
「いいえ、それ以上のことをする。約束ね」
「約束、するわ」
シラとエリは、抱き合って泣いた。
「エリ…」
「ヤーガ婆…」
「丈夫に育てるんじゃぞ、カインとアベルを」
「はい…」
エリは村を出ていった。兄弟のそれぞれの運命が、今回り始めた。
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