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プロローグ
東暦二〇五八年 十一月二十四日
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「この子達は、一体どんな能力に目覚めるのでしょうね」
「炎や影を操ったり、場合によっては天候すら変えることの出来る者も出てくるかもしれないな」
「ふふ、この国の未来を考えると胸が踊りますね」
意気揚々と話す白衣を纏う研究員達の前に、拘束具付きのベッドが等間隔に並んでいる。カプセルのように丸みを帯びたベッドの数は十。個体を識別する為か番号が振られており、それを囲うように複雑な造りをした機械が並んでいる。
全裸の状態で拘束されているのは、鎖のチョーカーを装着された老若男女の十人であり、性別や年齢に規則性は見受けられない。麻酔を施されているのか、その誰もが虚ろな瞳で天井を見上げていた。
「間もなく始まります」
腕時計を確認した男性が周囲に合図する。空気が一瞬で張り詰めるも、みな希望に満ち溢れた表情を浮かべている。壁面最上部には巨大なアーチ状の窓。研究員はそこにも数人おり、部屋を見下ろしながら実験の行く末に目を光らせていた。
「この方達を発端として、国の未来が大きく変わりゆくかもしれません。身体能力の向上は生活を豊かにし、選ばれた者達は、きっと平和に貢献して下さることでしょう」
男は小さく合図をする。一人につき一つのベッドを見る研究員は、目の前で拘束される者の首筋に注射器で黒い液体を流し込んだ。
「これは国の繁栄の為に作られた薬。だから様々な世代の人に託すのです。明るい未来に……なるといいですね」
研究員達は仕事を終えて安堵の表情を浮かべるも、心電図を映しているであろうモニターが異常音を発した。その数、十台のうち八台。安定して推移していた筈の波が歪な上下を繰り返す。
「これは……どういうことですか!?」
波はそのまま画面を振り切り、それでも尚、意味不明な上昇と下降を繰り返す。取り乱した者達は誰一人として対策を打てず、皆、目の前で吐血しながら嘔吐く被験者に釘付けになっていた。
注射を打たれた者達は悍ましい化け物へと姿を変え、容易く拘束具を引き千切り、周囲の者達を惨殺する。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。分厚く肥大化した身体は濡れた大木のようにドス黒く爛れ、最早ヒトでなくなったことは一目瞭然だった。
そんな中、人の姿を留めたままの者が二人だけ存在した。ベッドに書かれている番号の羅列は『六』と『七』、若く歳も近いであろう少年と少女だった。
──適合者だった。
拘束具を破壊した少年が起き上がり、隣の少女に手を差し伸べる。少女もまた、理解不能な力の強さで自身を縛り付けている鎖を引き千切った。
そして、伸ばされた手を取る。
身形は人を留めたままだが、形容し難い嫌悪感が精神を汚染する。湧き上がるは抑制不能の殺戮衝動。少年と少女は上塗りされゆく自我に抗うことも出来ず、ただ静かに──堕ちた。
東暦二〇五八年十一月二十四日、この日の人体実験は後の世を大きく変える悲劇を生んだ。
「炎や影を操ったり、場合によっては天候すら変えることの出来る者も出てくるかもしれないな」
「ふふ、この国の未来を考えると胸が踊りますね」
意気揚々と話す白衣を纏う研究員達の前に、拘束具付きのベッドが等間隔に並んでいる。カプセルのように丸みを帯びたベッドの数は十。個体を識別する為か番号が振られており、それを囲うように複雑な造りをした機械が並んでいる。
全裸の状態で拘束されているのは、鎖のチョーカーを装着された老若男女の十人であり、性別や年齢に規則性は見受けられない。麻酔を施されているのか、その誰もが虚ろな瞳で天井を見上げていた。
「間もなく始まります」
腕時計を確認した男性が周囲に合図する。空気が一瞬で張り詰めるも、みな希望に満ち溢れた表情を浮かべている。壁面最上部には巨大なアーチ状の窓。研究員はそこにも数人おり、部屋を見下ろしながら実験の行く末に目を光らせていた。
「この方達を発端として、国の未来が大きく変わりゆくかもしれません。身体能力の向上は生活を豊かにし、選ばれた者達は、きっと平和に貢献して下さることでしょう」
男は小さく合図をする。一人につき一つのベッドを見る研究員は、目の前で拘束される者の首筋に注射器で黒い液体を流し込んだ。
「これは国の繁栄の為に作られた薬。だから様々な世代の人に託すのです。明るい未来に……なるといいですね」
研究員達は仕事を終えて安堵の表情を浮かべるも、心電図を映しているであろうモニターが異常音を発した。その数、十台のうち八台。安定して推移していた筈の波が歪な上下を繰り返す。
「これは……どういうことですか!?」
波はそのまま画面を振り切り、それでも尚、意味不明な上昇と下降を繰り返す。取り乱した者達は誰一人として対策を打てず、皆、目の前で吐血しながら嘔吐く被験者に釘付けになっていた。
注射を打たれた者達は悍ましい化け物へと姿を変え、容易く拘束具を引き千切り、周囲の者達を惨殺する。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。分厚く肥大化した身体は濡れた大木のようにドス黒く爛れ、最早ヒトでなくなったことは一目瞭然だった。
そんな中、人の姿を留めたままの者が二人だけ存在した。ベッドに書かれている番号の羅列は『六』と『七』、若く歳も近いであろう少年と少女だった。
──適合者だった。
拘束具を破壊した少年が起き上がり、隣の少女に手を差し伸べる。少女もまた、理解不能な力の強さで自身を縛り付けている鎖を引き千切った。
そして、伸ばされた手を取る。
身形は人を留めたままだが、形容し難い嫌悪感が精神を汚染する。湧き上がるは抑制不能の殺戮衝動。少年と少女は上塗りされゆく自我に抗うことも出来ず、ただ静かに──堕ちた。
東暦二〇五八年十一月二十四日、この日の人体実験は後の世を大きく変える悲劇を生んだ。
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