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第3話 召集
しおりを挟む「えー...只今、国民審査委員会の大臣一行は、帝都の陸軍総本部に到着しました!あ!現在軍より報道管制が発布されました!強力な...ジャミ...グが掛かって...」
砂嵐にかかるテレビ映像は間もなくして政府の管制映像に切り替わった。
そんなカメラの向こうでは、冷たい総本部の床、並ぶ胡散臭い記者たちが集結し記者会見を控え、座ってその時を待っていた。
「総本部に安保理が集結ですか、いよいよ戦時体制に移行しましたね。」
「ああ、これから貴族院から皇后陛下がここに来る。一応統帥権を保持してるからな。各地域の王室も参加の意を表明はしているが、安保理は黙殺している。あくまで帝国本土防衛に焦点を当てるためだろうな。」
「だとしても、以前から世界中から軍部隊の招集がかかってますよね。豪州なんてほとんどの陸上戦力が今や日本じゃないですか。流石にやりすぎじゃないですかね?」
「日本のGDPは今や5000兆円超、GNPは6200兆円。そのほとんどが帝都に集中してるし、守備を固めるのは当然だろうな。」
「地球を守るのも大変っすねー...」
記者はそう言い、ノートPCを指先で軽く閉じた。
一方で本部地下室では佐官達が疲労の色を隠しながら、キーをいつもより少し乱暴にたたいていた。
その音は室内のコンクリートの壁で反射して無数に響き渡り、薄い壁を挟んだ隣の参謀室にもそれは届いていた。
「既存のドクトリンでは対処不可だ。わが軍が保持している現有兵器のみでは宇宙空間での戦闘行為どころか兵站確保すらもままならない。」
参謀連中が資料を手に取り対応策を練っている。
今までにない状況に一同は戸惑い、公機関の資料にとどまらず民間が扱っているものまで分け隔てなく目を急いで通している。
「安保理に先日からそう伝えている。技術者の緊急確保がはじまり日本圏内ではすでに帝都に技術者が集められているそうだ。提案兵器として有人宇宙船がある。連中はEMPをよく利用すると先遣隊が報告している。すでに一部地域で空軍と衝突があり報告があった。」
「私のほうで預かっている資料では機動・攻撃を最優先とし、防御は後回しにするほうがよいとのことだ。」
「しかし、新戦闘機の開発は宇宙空間では対処できない。酸素補給をどうするんだ。酸素がないと飛行機は飛ばんぞ。」
「数年前から研究が進んでいるプラズマ関連の技術を流用するとかの話が上がっている。」
「人型ロボットの提案をいたします。」
千差万別の提案から意見が部屋の中を飛び交い空気を震えさせる中で、突如として一人の言葉が場違いの響きを帯び、喧騒の空間は瞬く間に静寂へと姿を変えた。
「ロボット?君のプラモデルかな?」
若参謀に対して半ば憤慨しつつも、理性が勝る表情を湛えながら、洒脱さを纏った冗談を巧みに繰り出した。
「いえ、私は人型ロボット...名称は何でもいいですから、こちらを強く提案いたします。」
互いに視線を交わして当惑の色を浮かべる者もあれば、資料を貪欲に読み漁る者も存在する。
つまらない冗談と揶揄する者か、興味を示さない者かの二極だった。
「...オタクの趣味をひけらかすのはいいが、ここでの発言は......」
「いいえ!私は真剣です。」
指先で眼鏡を軽やかに持ち上げながら、優雅にボタンへと手を滑らせる。
その動きに焦りはない。
「先日よりシュミュレーションを実施しているのですが、汎用性が驚異的に高く、さらには機動性と攻撃性の双方を見事に兼ね備えているのです……条件が整い、技術的に実現可能であるなら、是が非でも実行に移すべきです!」
思い声がその場を貫く。
「安保理にはすでに提案書を独断で通させていただきました。」
この一言で他の参謀たちからは批判が矢の如く浴びせられたが、それを横目に軽く受け流す。
戦略地図が映し出されたモニターに目を止め、静謐な時間に身を浸しつつ、心を引き締めた。
---統合政府民間委託マツヤマ共同体神奈川厚木工学研究所
「人型有人陸空宇対応の戦闘機開発...?」
「そうだ。君たちは日本中から集められた国家承認の技術者。政府の意向には普段から高い金を支払っているのだから従っていただく。」
軍服を纏った男は、堂々たる姿勢でそう告げる。腕を背後で組み、胸を張り、勇ましい様相を呈している。
先日、衛星の流れ星を眺めていたら急に治安維持隊のドローンが飛来したと思ったら一瞬のうちに連行される運びとなった。
気がつけば、今や神奈川の研究施設へと移送され現在に至る。
田辺は一緒に連行され、後から志願した結が連れてこられた。散々だ。
男は頷き、隣のもう一人の軍人に微妙な合図を送る。
すると室内は徐々に薄暗くなり、男は机の上のタブレットを操作してスクリーンを点灯させた。
「君たちには、これからの活動において法律に基づく守秘義務が課せられることを理解してほしい。秘匿情報の重要性に比例して、終身刑に処される可能性が著しく高まることにも、細心の注意を払うよう願いたい。」
男は研究者たちを睨みつける。レーザーポインターをポケットから取り出して説明を始めた。
「まず、公表はされていない敵勢力についてだ。」
ページが切り替わり、特務委員会の承認ページが一瞬表示される。
見たことのない画面で新鮮に思いつつ、ちょっとした恐怖心に近い不気味さを感じた。
「敵勢力は...宇宙人。グレイ・UFOとは違う。どこから来たかも、文化も不明。空軍が南米で一機の宇宙船を撃墜しそれを回収。基本的にはチタン合金が使用されているようだが、それ以外は検閲されて詳細不明だ。」
「宇宙人の名称は何ですか?」
一緒に連れてこられた...というよりは道ずれにした結が挙手して質問する。
「正式名称は正体不明地球外高知能生命体。通称はクリプトス。ギリシャ語で隠されたという意味だそうだ。」
結は手元の資料に目を落としその場に静寂が訪れる。
男はそれを一望してから説明を再開した。
「さてと...次に君たちにやってもらうことだ。さっきも言ったが人型戦闘機を作ってもらう。一応、シュミュレーションされたデータも君たちに渡す。今日はゆっくりとしていい。リーダーと各部屋を自分たちで決めろ。リーダーはそれを担当者へ報告すること。」
男は手招きして一人の若い女性を前に立たせた。緊張しているのかその手先はかすかにふるえて残像を残していた。
「柿塚連です。本日よりあなた方の監督官に背任されました。」
頬がだんだんと赤くなって冷や汗を搔いている。
男はそれを見てあきれ顔をしていたが、電気をつけて声をかける。
「フム...君は新人かね?」
「あ...はい!行政試験で受かったはいいものの、能力不足ということで臨時要員となって職を探していたところで有事になって...ここに来ました!」
男は驚いた顔で柿塚を見つめる。
「...上層部は何を考えているんだ...普通ベテランを配置するよ...まぁいいだろう。私に定期報告は忘れぬようにな。では失礼する。この後は会議があるのでそこの加山君に何かあれば聞きたまへ。」
そういうと軍帽をかぶり部屋を後にする。
扉で押された少しひんやりとした風が頬をかすめ、部屋の中は柿塚の次の動きを待っているかのように静まった。
「で、では!私たち...あ、チームの研究室へ向かいましょう!荷物を持って仕度を5分で整えてください!」
新人の担当者は硬直している緊張しているのだろう。
「にしても同意なしにお前と一緒になるとはなぁ...驚きだよ~」
「すまないって...結さんは志願ですよね?なんでこんなプロジェクトになんか...」
田辺と何百何千とおなじ会話を交わして飽き飽きしていたのでとっさに結に話を振る。
「慶一君は大きいプロジェクトをするときいつも雑務を私に割り振るでしょ?ついてきただけよ」
そっけなく資料を見ながら返事をする。その表情は何を考えてるかわからなかった。
「結ちゃんはいつもそっけないんだから~鈴木も泣いてるよ~」
田辺が茶化しに入る。いじりが好きなのでいつもこんな感じでふざけあっているが、女性の前ではやめてほしい。
「あのー蝦夷から来た柴山ですー。あなた方はどこからでしょう?」
一人の若い研究員が声をかけてきた。後ろにはその連れと思われる研究員もいる。
見た感じではおとなしい雰囲気だ。
「静岡から来た鈴木と申します。」
名刺ケースがないことに気づき、胸ポケットを手荒く漁ると一枚だけ残っていたのでそれを交換する。
「蝦夷ですか...大丈夫なんですか?テロリストがいるでしょう?あそこは」
「まぁ、ピンキリですよね。巻き込まれたことはあまりないです。ただ、たまに爆発音が聞こえることはありますね。僕たちはみんな郊外に住んでいるので市街地はしょっちゅう戒厳令敷かれてます。」
「そうなんですね......」
蝦夷チームと雑談をしていると、まもなく時計の短針が5周し、各人は荷物をまとめる。
「それでは移動します!」
柿塚はまるで観光バスのガイドのように緊張している。誰もいなくなった部屋は薄暗くて少しだけ不気味さを感じた。
「あ、大佐......」
柿塚は敬礼をして技術者たちを壁に寄わせるように手招きした。
「君が技術室の担当者だね。今日は散々だった。参謀からとんぼ返りだ。じゃ、頼むよ。」
重厚感と緊張感が入り混じった佐官の男は技術者たちを横目に見ながら足早に奥へといった。
鈴木はその後姿を見ながら何となく、使命感に近いものが心の中で火の粉を上げたような気がした。
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