福引きで当てた魔獣王の愛し子

れく高速横歩き犬

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10ヴァルハーゼン伯爵家

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 数日後、オレは迎えの馬車でヴァルハーゼン伯爵家に到着した。ちなみに馬車は今度は牛の魔獣じゃなくて、馬だった。・・・・よかった普通で。ロギアは屋敷で待ってるらしく、同行者のアラデア君が途中四星花について話してくれた。「お前は自国の情勢も知らないのか」って呆れられた。

 ヴァルハーゼン伯爵家は、帝都の北の国境付近に位置したいわゆる辺境伯だ。分かりやすく言うと北からの敵に備えた防衛役だ。
 そもそも四星花は、南に勇者の家系クォデネンツ侯爵家。東に魔導士長のノーグ伯爵家、西に大商人ダルファム伯爵家と各々の役割で配置されている。どんな役割かはあまり知らないけど。

 そのうちの一つであるヴァルハーゼン伯爵家に来たわけだが、外観は黒塗りの屋敷で魔王城かここはって感じの重圧感を感じた。まぁ、魔族と人間の血を引く人達が住んでたからそうなったのかもしれない。
 これまた冥界の門って感じの鉄の扉をアラデア君が開けてくれると、中は冥界だった。


「オレ、何も悪いことしてないのに冥界行きか」
「何言ってるんだ、お前は。闇より深い麗美さと魔族の誇りの詰まった偉大さを兼ね備えた完璧なる屋敷だぞ」
「う、うん・・・・そうだね」


 中は確かにそんな感じで人間より魔族が住んでますって雰囲気が確かにある。基本的黒で構成されてるし。ちょっと暗いし。オバケ出たらやだな。


「ユトさん!お待ちしてましたでしゅ!」
「あ、ウルベル君!」
「我が主の屋敷へようこそ、歓迎しましゅ!まずは身を清めてお召し物を・・・うキャーーー!?」
「癒やされるーーーーー!!!スーハースーハー、ちょっと獣臭いけどいい感じだ」
「あ!おい、兄さんを軽々しく抱きしめるな!僕だってした事ないのに!」


 オバケ屋敷に癒やしのオアシスがあった。オレは全身ケモ属性のウルベル君を抱き締めて、癒やされる。というか、アラデア君はウルベル君を抱きしめた事なかったのか。兄弟なのに。


「ユト、私より先に他の男を抱きしめるな」
「あ・・・」


 後ろから大きな身体に包まれて、ウルベル君ごと抱き締められてしまった。


「ロギア、重い」
「ユトが悪い」
「苦しいでしゅ・・・」
「・・・・兄さん、ズルいよ」


4人の思ってる事がみんなバラバラだ。


「私の屋敷へようこそ。今日からお前の家だと思って気軽に過ごせ」
「もう自分の物みたいに・・・・ん?オレの家って?」
「今日からユトはここに住む。サライ・レイフォードに許可も取ってある」
「う、ウソだ!先生があっさりオレを売るわけな・・・」
「帝都に近く安全な土地に新しく孤児院を建設し、資金援助と子供達の職の斡旋や里親探しを申し出た。もちろんお前とすぐ連絡を取れるように魔獣の貸し出し付きでな」
「すでに売られた!!!」
「と言うわけだ。心置きなく住むといい。ユトの部屋もあるぞ」
「いや、待て、オレはまだ諦めないぞ!騎士の職務はどうするんだ?ここから帝都まで往復で通える距離じゃないだろ?それに皇帝陛下や騎士団の許可だって・・・」
「四星花は皇帝に等しい権限を持っている。もちろん私も相応の対価を払ったが、一介の見習い騎士の一人くらい城に居なくても十分回るからな」
「・・・・・」


 絶句した。家も職も失いロギアの腹の中状態だ。束の間の飼い主という立場はもはや逆になっているのか。諦めよう。腹いせに悪徳令嬢のように散財してヴァルハーゼン伯爵家お取り潰しにしてやろう。
 オレは明後日の方を見ながら脳内で計画を立てていた。


「まぁ、落ち着け。ユトには別の仕事がある」
「え、そうなのか?無職回避は有り難い」
「私の護衛騎士だ」
「護衛騎士・・・うーん、微妙」
「なぜだ」
「オレ、強くないし」
「ユトは十分強いぞ」
「心の強さとか言うなよ。物理的にってこと」
「なるほど。それは追々鍛えるといい。腹は減っているか?」
「気力は確実に減ったな。まぁ、うん、お腹は空いてるよ」
「なら先に身を清めて来い。食事の用意をさせよう」
「身を清める?あぁ、風呂ね」
「ぷはぁ~!・・・・苦しかったでしゅ。わたくしは食事のご用意をしてきましゅ」


 やっと離してくれたロギアの腕から逃れると、一緒に押しつぶされていたウルベル君も安堵した様子だった。
 権力と財力を手に入れたロギアにもはや勝ち目がない気がする。そのうち飽きるかもしれない、諦めてハイクラスホテルに泊まってると思う事にしよう。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


やっぱり諦めるのやめよう!


 オレは絶賛浴室で全裸の侵入者と決死の攻防を繰り広げている。


「ヤメロー!来るな!変態!」
「ユト、なぜ逃げる。一緒に裸の付き合いをした仲だというのに」
「それはロギアが可愛い魔獣の姿だった頃の話だ」
「なら魔獣の姿ならいいのか?」
「魔獣の姿なら・・・・多分?」
「わかった」


 オレを追いかけるのをやめたロギアは、黒い霧に包まれると魔獣の姿になった。


「キャウン」
「これだよ、コレ!ロギアのモフ加減最高だ・・・」
「フンッ」
「今ちょっと鼻で笑っただろ」
「キュウ」
「それにしても魔王になると声まで可愛いくなるとか反則の可愛いさだよな」
「フンッフンッ」
「よしよし、久しぶりに身体を洗ってやろう」


 魔獣姿のロギアは見た目が小さくて丸っこいオオカミだから可愛いが、声まで幼体のように甲高くなる。もはや可愛いしか言えない。
 出会った日に風呂で洗ってやったが、またこんな日が来るとは思わなかった。オレはウキウキしながら泡を泡立て過ぎて、モコモコの羊みたくなった魔獣ロギアを堪能した。ロギアも大人しくオレに洗われて、目をつぶってトロンとした顔つきになっている。


 しっかり洗ってやり、一緒に浴槽に浸かろうとしてやったのがまずかった。してやったりとロギアが人型に戻り、逃げようとしたオレを背中から羽交い締めにした。


「ギャーーーー!!!」
「暴れるな、ユト。気持ちよかったぞ、今度はお前を洗ってやろう」
「すでに浴槽の中で何を洗っちゃうのかな!?うわっ、ぁ、・・っ、くすぐったいって」


 オレの腹を手で上下に擦られくすぐったくて逃げようとすると、片手でがっしり抱き込まれた。


「うっ、ロギア・・・力強いって・・ひゃっ!?」


 うなじに何か生暖かい感触がした。しかもいろんな方向に何かが動き回り、時々耳が舐められる。もう言うまでもなく舌だよな・・・・ロギアの舌。
 自分勝手に動くロギアの舌がちょっと離れたと思うと、今度はうなじがすっぽりと何かに覆われた。


「うアッ!?ろ、ロギア、何・・・ぁッ、あっ」


 一瞬チリッとした痛みの後、ロギアはオレのうなじを甘噛みし始める。


「暴れるとユトは可愛いからうっかり噛み付いてしまうかもしれないな」
「ヒイイッ!?」


 犬歯を肌に当てながら優しく恐ろしい事を口にするロギア。さすがに本当に噛まないとは思うけど、やたらとカプカプ歯を当ててくるからやっぱり怖いし動くに動けない。
 ロギアはオレのうなじをしばらく堪能すると満足したのか口を離した。そしてまた身体を密着させてくる。オレなんかよりぜんぜん男らしくてたくましい腕に抱き込まれると、男としてはちょっと複雑だ。


「男なんて抱きしめて楽しいか?」
「性別で判断しているわけではない。ユトだから抱きしめたいし、キスもしたいし身体にも触れたい」
「・・・ぅ」
「ユトは私の愛し子だからな、慈しんでやらねばならない」
「いや、あのさ・・・百歩譲ってオレのこと気に入ってくれてるのは嬉しいけど、どこら辺が好きなわけ」
「そうだな、初めて目があった時美しい銀の瞳に惹かれた。そしてよく喋り動くお前は面白い。可愛いものが好きなところも可愛いな。なにより命を大切にしている」


 真面目な答えに、オレは面白いとか可愛いとか言われてるのにいつものように反論出来ないでいた。ロギアが先を口にする。


「私の配下はもう、ウルベルとアラデアだけになってしまったからな」
「あ・・・・・・」


 そうか・・・500年も経てば長寿の魔族が居ても数は確実に減る。しかも勇者と激戦の時代だ、失われたモノも多いだろう。
 例えどんなに絶大な力を誇るロギアでも、寂しい時は寂しいのだ。オレはそっと腕を外して向かい合う。そして寂しいと泣く孤児院の子供達と同じように、抱き締めてやった。


「大丈夫だ、ウルベル君もアラデア君もここに居る。オレも・・・まぁ、一応ここに住むんだから・・・その、今は一緒だ」
「・・・・・」
「ィアーリウェアに生きる命は同じだ。それに屋敷も広いし、これから家族とか増やしていこうな」
「・・・・・それは、ユトが私の子供も生むということか?」
「ちがうッ!そもそも人間の男は生めません。そこは記憶の彼方に閉まっておけ」
「それは残念だ、フフフ」
「人が真面目に心配してやってるのに・・・」
「ユト、ありがとう」
「ぉ、おお・・・うん」


 ロギアはやっぱりロギアだけど、素直に礼を言うとまた抱きしめてきた。今度は抱きしめる力が優しくてつい大人しくすっぽり包まれてやった。

 ・・・・が、しかしオレの腹辺りにちょっと固いナニかが当たっている。

ナニかがな・・・


「おい、当たってるんだけど」
「まぁ、当ててるからな。ワザと」
「ッ!!!」


 その後全力でロギアを引っぺがし、風呂から脱兎のごとく上がる。
 ウルベル君の用意してくれた美味しいご飯に、すっかり絆されてしまったけどな。


 オレはロギアの護衛をする前に、自分自身をしっかり護衛しないといけないのでは?としみじみ思うのだった。
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