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序 魔剣転生
1転生したら魔剣
しおりを挟む目を開けると、脚の間に剣が突き刺さっていた。
「金ピカの・・・剣?」
黒髪の青年は台座のような物に横たわっていた。最初に目にしたのは、眩いほど黄金に輝く剣。そして青年は、裸だった。
「うわっ!オレ、真っ裸!?」
慌てて身を起こそうとすると、喉元にピタリと何かが触れた。
「動くな、首を落とすぞ」
「え・・・ぁ」
いつの間にか横には甲冑姿の何者かが立っており、フルフェイスで顔は分からない。その手にしている物は剣で、自身の喉元に当てられているのだと青年は顔が強張る。
「紫の瞳・・・不吉な。貴様何者だ」
「・・・ぇと・・」
「魔族か」
黒髪で紫の瞳の青年は、困惑しながらも答えた。
「静間伊織・・派遣社員・・です」
「どれが名前の部分かわからんな」
「あの、オレはなんで横になってるんですか?なんか脚の間に剣が刺さってるし」
「貴様は我がクラリシス王国の聖剣と共に出現したのだ」
「聖剣・・・あぁ、もしかして劇団の稽古中とかでした?オレ酔っ払ったとかで、稽古場に入っちゃったんですか・・・ね」
静間伊織と名乗る青年は、先程までの行動を思い出していた。定時で勤務先の会社を上がり、少し飲んで帰ろうとした所までは覚えている。
「我らを愚弄しているのか?誇り高き王国の聖騎士団を」
「騎士のお話しですか?いやいや、本当にすみません!お邪魔するつもりじゃなかったんで、すぐ帰りますね!あのオレの服は・・」
「そやつを捕らえよ!」
「はっ!」
「えっ、あっ、何するんだ!?」
どこからか声が投げかけられると、甲冑騎士は伊織の腕を掴む。上体を起こされ、慌てて目の前の聖剣の柄を掴んでしまう。
『おぉ、我が王よ・・・ようやく・・』
「誰・・・」
どこからか声が聞こえると聖剣から黒い霧が立ち込め、突風のような黒い風が巻き起こる。伊織の腕を掴んだ甲冑姿の騎士も風で吹き飛ばされていた。
「くっ!魔族め、ついに正体を現したか」
「皆、武器を構えよ!」
フルフェイスの甲冑騎士の他にも同じ甲冑姿の騎士が数名居たようで、剣や槍などの武器を構える。
やがて黒い風は静まり、剣の柄に捕まったままの伊織が姿を現した。
「な、なんと言うことだ、聖剣が・・・」
聖剣は金色の輝きを失い、柄も刀身すらも闇より深い漆黒に染まっていた。
気付いた伊織も、剣が黒くなっている事に驚く。
「コレって、弁償?」
伊織は弁償金いくらだろうと考えているうちに、騎士に囲まれてしまう。
「やはり、魔族か」
剣先で顎を持ち上げられ、正面を見るとフルフェイスが外れ顔があらわになった騎士と目が合う。
騎士は外国人のような端正な顔立ちで、灰青色の髪にラピスラズリのような青い瞳をした美丈夫だった。
「が、外人さんですか?日本語できてよかった、あのオレ・・・っ!」
「貴様、聖剣に何をした。返答次第ではここで叩き斬る」
「ええっ!」
「待て、ヴェルジーク」
ヴェルジークと呼ばれた騎士が、伊織の喉元にさらに剣を押し付けると誰かが呼び止めた。
騎士達の間から、サラサラの金髪を真ん中から分け碧眼の美形が近寄って来た。金髪碧眼美形は青いマント付の白金の甲冑を纏っている。
「陛下、危険です。お下がりください」
「真っ裸で丸腰の男のどの辺が危険なのか。うーむ、予の好みではないな。容姿はまぁまぁだが、弱そうだ」
陛下と呼ばれた金髪碧眼美形は、伊織の上から下まで見ると好みでないと興味をなくしたようだ。伊織も自分の容姿は平々凡々と認識しているが、はっきり言われると心苦しい。
「オレは男なんですが・・・」
「予はどちらもイケるぞ。それより困った事をしてくれた。せっかく降臨させた聖剣を、魔剣に変えてしまうとは。とりあえずこの者を城の地下牢にぶち込んでおけ、尋問せよ」
「はっ!おい、立て」
「あっ、や、止めて下さい!」
その瞬間、黒い魔剣を握っていた伊織の手が振り上げられる。ヴェルジークは間一髪で、魔剣を受け止めるが物凄い剣圧で剣を弾き飛ばされてしまう。
だが冷静に判断し、大きく振りかぶりすぎて2撃目が来ないと読み伊織の項に手刀を繰り出した。
「ぅッ」
伊織は魔剣を離し、台座の床に転げ落ちる。気絶させられたのか動く様子はない。ヴェルジークは、伊織の鼻と口に手を当て呼吸を確認する。
「呼吸はあります、気絶したようです。陛下、お怪我はありませんか」
「大事ない。それより、この者・・・好みだ」
「は?」
先程は好みじゃないと言い切った金髪碧眼陛下は、伊織の身体を舐め回すように見ている。
「見たか、この者の剣撃!国で1、2位を争うヴェルジークの剣撃を弾いたぞ。是非、欲しい」
「陛下の悪い癖ですね。ですがこの者は危険です。まずは何者か調べてからに致しましょう」
「では、ヴェルジーク。お前がこの者の身体を隅々まで調べたら、予の所に持って来い」
「・・・」
ウキウキした顔で楽しそうな陛下を、ヴェルジークは男前な眉を曲げて困った目で見た。
気絶したままの伊織を布にくるみ肩に担ぐと、魔剣も持って行こうとするが陛下に止められる。
「待て、魔剣に触れてはならぬ。魔力に穢されるぞ」
「しかし、この者は触れておりましたね」
「そこが問題だ。この者に魔剣を何とかさせねばならないな。上手く手回れよ、ヴェルジーク」
「承知いたしました」
ヴェルジークは陛下に頭を下げると、踵を返し城の地下牢を目指すのだった。
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