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15.将軍の思惑 2
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今回、アイリーンは遠く離れた場所から彼らを観察することにした。
今日は予告なしの訪問ではないこと、あとで帝国の使者たちと面通りする予定があることから、アイリーンはエルヴィラと意匠をそろえた服を用意してもらっていた。といっても、女性らしい体つきを強調するエルヴィラの装束に対し、アイリーンは相変わらずチュニックに細身のズボンだ。生地と刺繍、飾りなどで雰囲気を似せているが、アイリーンはアイリーンらしいデザインの服だった。
予告通り、あの偉そうな男が現れる。前回は飛行艇から兵士たちがわらわらと飛び出してきてずらりと並び、小銃を一斉に構えてきたが、今回は偉そうな男が真っ先に降り、兵士たちはその後に続く。前回と逆だ。
偉そうな男が、出迎えたエルヴィラと言葉を交わしている。
あの偉そうな男の名前はジェラルド。ジェラルド……なんとか。長い名前だった。覚えられない。
そのジェラルドなんとかは皇帝の皇子の一人で、帝国軍の将軍なのだとエルヴィラに教えてもらった。
武人だったわけか。どうりで体も大きいし、飛び掛かったアイリーンに焦ることなく、手加減しつつ対処もできたわけだ。
――こういう人間ばっかりだったら、そりゃこの国はかなうわけがないよね……。
アイリーンは、ジェラルドとその向こう側にずらりと並ぶ兵士、そして神殿に横付けされた飛行艇を見つめた。
この国の人が持っている武器はせいぜい剣、そして弓やボーガン程度だ。
評議会の「人質を出す」という決断は正しい。帝国が竜の国を潰すと判断したら、一瞬で消し飛んでしまう。アイリーンにもわかる。
ふと、そのジェラルドが自分を見つめていることに気づいた。
――なんで僕を見てるんだ?
前に斬りかかったからだろうか。
ジェラルドもアイリーンが見返していることに気づいたようだ。不意にニヤリと笑う。
――ッッッ。ムッカつくううう!!
ばかにしてた。今のは絶対にばかにしてた!
アイリーンは両手で唇を引っ張り、「イーっ」と舌を出してみせた。十九歳のやることではない。わかっているが、この距離で「ムカついた!」を表現する方法がほかに思いつかない。
アイリーンの仕草の意味は、ジェラルドにも伝わったようだ。思わずといった感じで小さく噴き出す。
――あいつ、笑うんだ……。
アイリーンの仕草を理解して笑ってくれるなんて、なんか、意外だ。
「どうかしましたか?」
エルヴィラが怪訝そうに問いかける。おっと、やりすぎた。アイリーンは指を離して顔を取り繕った。
――あいつは僕たちを服従させることが目的で……敵で……でも……。
一瞬だけ浮かんだ笑顔は、何度か見た偉そうな笑い方とは違っていた。
優しそう、なんて思っちゃいけないんだろうけど、でも、とても優しそうに見えた。
あんな笑顔を見せられるなんて思っていなかったから、胸がドキドキする。
そのアイリーンの前を、挨拶を終えたエルヴィラと帝国の使者たちが通り過ぎる。アイリーンは、ドキドキしているのを悟られないように、おとなしく彼らを見ていた。ジェラルドが通り過ぎざま、突然こちらに視線を向ける。
驚きのあまり固まってしまったが、見返したジェラルドの顔はどこかからかっているような表情だった。アイリーンは慌てて「フンッ」とそっぽを向く。
さっきの「イーっ」への意趣返しだろう。からかわれたのだ。
――おもしろくない。おもしろくないぞ!
今日は予告なしの訪問ではないこと、あとで帝国の使者たちと面通りする予定があることから、アイリーンはエルヴィラと意匠をそろえた服を用意してもらっていた。といっても、女性らしい体つきを強調するエルヴィラの装束に対し、アイリーンは相変わらずチュニックに細身のズボンだ。生地と刺繍、飾りなどで雰囲気を似せているが、アイリーンはアイリーンらしいデザインの服だった。
予告通り、あの偉そうな男が現れる。前回は飛行艇から兵士たちがわらわらと飛び出してきてずらりと並び、小銃を一斉に構えてきたが、今回は偉そうな男が真っ先に降り、兵士たちはその後に続く。前回と逆だ。
偉そうな男が、出迎えたエルヴィラと言葉を交わしている。
あの偉そうな男の名前はジェラルド。ジェラルド……なんとか。長い名前だった。覚えられない。
そのジェラルドなんとかは皇帝の皇子の一人で、帝国軍の将軍なのだとエルヴィラに教えてもらった。
武人だったわけか。どうりで体も大きいし、飛び掛かったアイリーンに焦ることなく、手加減しつつ対処もできたわけだ。
――こういう人間ばっかりだったら、そりゃこの国はかなうわけがないよね……。
アイリーンは、ジェラルドとその向こう側にずらりと並ぶ兵士、そして神殿に横付けされた飛行艇を見つめた。
この国の人が持っている武器はせいぜい剣、そして弓やボーガン程度だ。
評議会の「人質を出す」という決断は正しい。帝国が竜の国を潰すと判断したら、一瞬で消し飛んでしまう。アイリーンにもわかる。
ふと、そのジェラルドが自分を見つめていることに気づいた。
――なんで僕を見てるんだ?
前に斬りかかったからだろうか。
ジェラルドもアイリーンが見返していることに気づいたようだ。不意にニヤリと笑う。
――ッッッ。ムッカつくううう!!
ばかにしてた。今のは絶対にばかにしてた!
アイリーンは両手で唇を引っ張り、「イーっ」と舌を出してみせた。十九歳のやることではない。わかっているが、この距離で「ムカついた!」を表現する方法がほかに思いつかない。
アイリーンの仕草の意味は、ジェラルドにも伝わったようだ。思わずといった感じで小さく噴き出す。
――あいつ、笑うんだ……。
アイリーンの仕草を理解して笑ってくれるなんて、なんか、意外だ。
「どうかしましたか?」
エルヴィラが怪訝そうに問いかける。おっと、やりすぎた。アイリーンは指を離して顔を取り繕った。
――あいつは僕たちを服従させることが目的で……敵で……でも……。
一瞬だけ浮かんだ笑顔は、何度か見た偉そうな笑い方とは違っていた。
優しそう、なんて思っちゃいけないんだろうけど、でも、とても優しそうに見えた。
あんな笑顔を見せられるなんて思っていなかったから、胸がドキドキする。
そのアイリーンの前を、挨拶を終えたエルヴィラと帝国の使者たちが通り過ぎる。アイリーンは、ドキドキしているのを悟られないように、おとなしく彼らを見ていた。ジェラルドが通り過ぎざま、突然こちらに視線を向ける。
驚きのあまり固まってしまったが、見返したジェラルドの顔はどこかからかっているような表情だった。アイリーンは慌てて「フンッ」とそっぽを向く。
さっきの「イーっ」への意趣返しだろう。からかわれたのだ。
――おもしろくない。おもしろくないぞ!
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