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14.将軍の思惑 1
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山の天候は変わりやすい。七日後にまた来る、とジェラルドは竜の国の女王には告げたが、七日後に行けるかどうかはわからなかった。
しかし、きっちり七日後の同じ時刻。ジェラルドの乗った飛行艇は標高一千メートルを超える場所にある竜神の湖に着水していた。
高地にある湖は凪いで、非常に透明度が高い。覗き込めば底まで見えそうだが、相当に水深があるらしく、湖の底は真っ暗だった。
この湖には竜神が住むという。その竜神と人の子孫……それが竜の国の人々。外界との接触を断って生きているのは不思議な力を持つためだと言われているため、過剰なくらい武装した兵士を護衛として連れていったのだが、ざっと見た感じ、彼らには噂されているような恐ろしげな力などはなさそうだった。
そんな力があるのなら、銃を向けた時点で発動していてもよさそうだからだ。
自分たちに驚いて集まってきたとき、構えていたのは長剣だった。女王もそこにいたし、女官たちの姿もあった。
見ず知らずの武装組織が乗り込んできたのに、女たちが逃げ出さないなんて、危機感がなさ過ぎる。
そして今日もまた、背後に剣を持つ男たちが控えているとはいえ、女王が先頭に立って出迎えてくれる。こちらの兵士が手にしているのは小銃だ。
――まさか小銃を知らない、なんてことはない……よな?
「お待ちしておりました」
女王エルヴィラが軽く頭を下げる。
ジェラルドは横柄に頷きながら、サッと周囲に視線を走らせる。
出迎えの集団とは少し距離を置き、広間の壁際に、女王によく似た藍色の髪の毛と瞳のほっそりした少年が立っていた。
前は普段着といった質素な装いだったが、今日は女王の意匠に合わせた装いをしている。女王は体の線に沿ったロングドレス、彼はチュニックに細身のズボン。前に見た時とは違い、襟が四角く切り取られた感じのデザインなので、首筋から鎖骨にかけての肌の白さや華奢さがより際立つ。
色づきのいい唇と、紺色の髪の毛。どちらとも白い肌に映える。
男にしておくにはもったいない。
なぜかそんなことを考えてしまう。
ふと、ジェラルドの視線に気づいた少年が、ムッとした顔になる。
招かれざる客に対してムカついているというのがよくわかる。なんて素直なんだ。
なぜだか嬉しくなり、ジェラルドは返礼とばかりに笑顔を浮かべてみせた。まあ、あまり印象のいい笑顔でなかったことは認めよう。荒くれものが多い軍隊をこの年齢で統率するため、尊大に振る舞うことは習い性となっている。
少年の神経を逆撫ですることには成功したようだ。大きな瞳でこちらを睨みつけてきた。
思わず小さく噴き出す。
「どうかしましたか?」
正面で歓迎の口上を述べていた女王が不思議そうに聞いてきた。
「いえ、なんでもありませんよ」
至極真面目に対応する女王のはるか後方で、よく似た弟が「イーッ」と口の端を両手で引っ張って舌を出しているなんて、この女王は予想だにしていないのだろう。
おもしろい。実におもしろい。
一通り歓迎の言葉を述べた女王に案内されながら、先日通された応接間に向かう。
少年はついて来ないようだ。
少年の横を通り過ぎる時にちらりと目を向けたら、フンッ、とそっぽを向かれた。短い藍色の髪の毛がパッと広がり、雪のように白い頬にぱらぱらとかかる。
その色彩の対比の美しさに、気持ちが固まる。
――姉と一緒に連れて行こう。
これは決定事項だ。
あれが近くにいたら、絶対楽しい。こんなにわくわくする気持ちは久しぶりだ。
だがジェラルドの思惑は、女王との話し合いでおかしなことになる。
しかし、きっちり七日後の同じ時刻。ジェラルドの乗った飛行艇は標高一千メートルを超える場所にある竜神の湖に着水していた。
高地にある湖は凪いで、非常に透明度が高い。覗き込めば底まで見えそうだが、相当に水深があるらしく、湖の底は真っ暗だった。
この湖には竜神が住むという。その竜神と人の子孫……それが竜の国の人々。外界との接触を断って生きているのは不思議な力を持つためだと言われているため、過剰なくらい武装した兵士を護衛として連れていったのだが、ざっと見た感じ、彼らには噂されているような恐ろしげな力などはなさそうだった。
そんな力があるのなら、銃を向けた時点で発動していてもよさそうだからだ。
自分たちに驚いて集まってきたとき、構えていたのは長剣だった。女王もそこにいたし、女官たちの姿もあった。
見ず知らずの武装組織が乗り込んできたのに、女たちが逃げ出さないなんて、危機感がなさ過ぎる。
そして今日もまた、背後に剣を持つ男たちが控えているとはいえ、女王が先頭に立って出迎えてくれる。こちらの兵士が手にしているのは小銃だ。
――まさか小銃を知らない、なんてことはない……よな?
「お待ちしておりました」
女王エルヴィラが軽く頭を下げる。
ジェラルドは横柄に頷きながら、サッと周囲に視線を走らせる。
出迎えの集団とは少し距離を置き、広間の壁際に、女王によく似た藍色の髪の毛と瞳のほっそりした少年が立っていた。
前は普段着といった質素な装いだったが、今日は女王の意匠に合わせた装いをしている。女王は体の線に沿ったロングドレス、彼はチュニックに細身のズボン。前に見た時とは違い、襟が四角く切り取られた感じのデザインなので、首筋から鎖骨にかけての肌の白さや華奢さがより際立つ。
色づきのいい唇と、紺色の髪の毛。どちらとも白い肌に映える。
男にしておくにはもったいない。
なぜかそんなことを考えてしまう。
ふと、ジェラルドの視線に気づいた少年が、ムッとした顔になる。
招かれざる客に対してムカついているというのがよくわかる。なんて素直なんだ。
なぜだか嬉しくなり、ジェラルドは返礼とばかりに笑顔を浮かべてみせた。まあ、あまり印象のいい笑顔でなかったことは認めよう。荒くれものが多い軍隊をこの年齢で統率するため、尊大に振る舞うことは習い性となっている。
少年の神経を逆撫ですることには成功したようだ。大きな瞳でこちらを睨みつけてきた。
思わず小さく噴き出す。
「どうかしましたか?」
正面で歓迎の口上を述べていた女王が不思議そうに聞いてきた。
「いえ、なんでもありませんよ」
至極真面目に対応する女王のはるか後方で、よく似た弟が「イーッ」と口の端を両手で引っ張って舌を出しているなんて、この女王は予想だにしていないのだろう。
おもしろい。実におもしろい。
一通り歓迎の言葉を述べた女王に案内されながら、先日通された応接間に向かう。
少年はついて来ないようだ。
少年の横を通り過ぎる時にちらりと目を向けたら、フンッ、とそっぽを向かれた。短い藍色の髪の毛がパッと広がり、雪のように白い頬にぱらぱらとかかる。
その色彩の対比の美しさに、気持ちが固まる。
――姉と一緒に連れて行こう。
これは決定事項だ。
あれが近くにいたら、絶対楽しい。こんなにわくわくする気持ちは久しぶりだ。
だがジェラルドの思惑は、女王との話し合いでおかしなことになる。
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