16 / 73
6. 100歳の伯爵夫人
1
しおりを挟むヒンスの大叔母のイドラ伯爵夫人アイリーンは御年112歳を迎え、その驚くべき長寿と壮健には主治医も舌を巻くほどだった。
彼女を囲う晩餐会には毎年華やかな顔ぶれが揃う。国王からも祝辞が届いて、その朗読も名物になっていた。
豪華な食事と美酒に酔い、久々に顔を合わす年も近い青年貴族達とも酒を酌み交わして、ヒンスは束の間楽しい時を味わった。
思えば色んなことのあった年だった。
西方国境で反乱があり、昇進して、好きな女の突然の結婚も——……。
フィオナの事を考え、ふと例の夢と手紙の話を思い出した。
「そういえば、なぁ誰かバンフィールド子爵というのを知らないか? ヘンリクス・バンフィールドというらしい」
「誰だい?」
「お前、女に振られたからって男に宗旨変えしたのか?」
乾いた笑いはおこるものの、目星い収穫はない。
やはりバンフィールド子爵など、マリッジブルーのフィオナの見た悪夢の一部に過ぎないようだ。
「おいヒンス? なんて言った? 何て男だ?」
「いいんだもう…」
「いいから! 何だか聞き覚えがある気がした」
声をかけて来たのは上座にいた大叔母のひ孫で、ザラと言う同じ歳の男だ。
「嘘だろ? バンフィールドだ」
「ファーストネームは?」
「ヘンリー……なんだっけ……ああ、ヘンリクス! ヘンリクス・バンフィールド子爵だよ!」
——「なぜお父さまの名前を知っているの?」
ヒンスの大声に返事をしたのはザラではなく、それまで黙ってにこにこしていたアイリーン・イドラ伯爵夫人だった。
ふと場が静まったが、しばらくするとまたざわざわと誰からとも無くくだらない話を始めた。
人々の間を縫って、ヒンスとザラはイドラ伯爵夫人の元へ向かった。
「イドラ夫人、バンフィールド子爵をご存知なんですか?」
「ええ……バンフィールド子爵家はわたくしの実家よ」
だからヘンリクス・バンフィールド子爵は私の父ですよとアイリーンはしっかりした様子で語った。
「通りで聞いたことあると思ったよ。バンフィールド子爵家っていえば、旧王朝の血が入ってて高祖父の代まで名家だったと父に聞いた事がある。そうでしょ? おばあさま」
ザラの言葉にアイリーンはそうよと頷く。
まさかそんな家が実在したとは思わず、ヒンスはぞっとして尋ねた。
「ではなぜ今は存在しないんです?」
「…父のヘンリクス子爵が亡くなった後、妹夫婦が跡を継いだけれど子どもが生まれる前に二人して同じ病気を貰って亡くなってね、後継がいなかったのよ。私も姉もまだ一人も子どもに恵まれてなかったの。その後ザラのお父さまのお父さまも生まれて、こんなに子沢山になったのにね」
「姉妹がいらっしゃるのですか?」
「ええ、女ばかり。もう二人ともいなくなってしまったけど」
「お名前は何というんです?」
「婿を貰った妹は当時のエルメ侯爵の三男と結婚して、アドリアナ・バンフィールド子爵夫人よ。もう一人は……嫁いだ姉さんのアンネース」
『アンネース・シューベルグ伯爵夫人よ』とアイリーンは言った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる