fの幻話

ちゃあき

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8. 足止め

1

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「アンネースさまの綺麗な金髪が羨ましいわ」

「……そう? 私はあなたが羨ましい。だって……」

 そこでまたハッと目が覚めた。

 そこはあのアンネースの部屋のベッドの上だった。ただし彼女の姿はない。

 先程まで寝室でシノムに見守られて眠っていたはずなのに。

 日も暮れかけ、部屋はどんどん暗くなって行く。フィオナは恐ろしくなって部屋から逃げ出そうとした。


「フィオナ!」

「……シノム!」


 廊下からシノムの声が聞こえて、フィオナは急いで部屋から飛び出し驚くシノムの胸へ飛び込んだ。


「フィオナ? ……なぜこんな所へ? 心配してたんだ……」

「分からないわ! 気が付いたらあの部屋にいたの。アンネースさまが……!」

「フィオナ、ドレスに何を引っ掛けてる?」


 シノムがドレスの裾から掴み上げたものを見て、フィオナは唖然とした。

 それは見覚えのある編み棒と編みかけの見事なレース網だった。先ほどアンネースの手ずから作られていたそれに違いなかった。


「……それ、アンネースさまのだわ」

「何だと……?」


 伯爵夫妻は顔を見合わせ、背後のかつての開かずの間を見た。

 ドアはやはり打ち砕かれたままで、その向こうの開け放たれた真珠色のカーテンを透かして、西日が城壁の向こうへ落ちて消えて行く所だった。


□□


 夕方まであんなに晴れていたのに、夜が深くなるにつれ雨風が強くなってきた。

 ついにそれは嵐になって、人も馬も先に進む事は不可能になる。ヒンスとザラは森に入るのを諦め、シューベルグ伯が口座と私書箱を置いている街で宿をとった。


「伯爵は百年生きているんだろうか? …噂では千年か」

「さぁ。会った時には若い男に見えたし、まともな奴に見えたんだがな」


 手近な酒場で窓を打つ雨音を聞きながら、まんじりともせず過ごしていた。

 愛想のいい店だが、こんな天気の日は二人の他、仕事上がりらしい男たちがまばらにかけているだけだった。


「しかし最初からおかしかっただろ? たかだか二十年前に生まれた男の噂が、俺たちの父母の代から存在していた事がさ」


 ヒンスは確かにそうだと思った。たとえばシューベルグ伯爵が老人であれば、そういう噂も納得できる。

 しかしあの時は美点に見えた若さが、今は不安材料でしかなくなった。


「なぜ若く美しい男なのだろう……シューベルグ伯爵は」


……——「おい、シューベルグは男じゃないぞ」


 カウンターにかけていた白髭の老人が突然声を上げた。

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