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19.美貌の亡骸
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「足元に気をつけて。よく滑るはずだ」
「ああ……」
金の階段はその材質より、ランプの照り返しで視覚的に平衡感覚を奪ってしまう。
またあの繊細な模様がぐるぐると渦を巻き、視界に何度も虹を走らせた。
外界の雨の音はもうやや遠のいている。
「これだ」
入り口近くを見渡し、シノムが声を上げた。
地下墓地には装飾を施された棺がほぼ等間隔に並べられていた。
この暗室は広々としてはいないがまだ奥が深い……いったい何代の亡骸が葬られているのだろうか。
シノムの示した先には、確かに同じ時代のものと思われる棺が3つ並んでいた。金と宝石で彩られた蓋の上に枯れたリースが打ち捨てられている。
二人は頷いてバールで真ん中の棺の蓋を剥がした。
「……祖父だ」
奔放で悪辣なるシノム・シューベルグの成れの果てがそこに横たわっていた。
口を開いたそのミイラは嘆いているようにも、助けを乞うようにも見える。
その傍に茶色い表紙のノートが目に入った。
取り上げページをめくる。劣化が酷くインクは滲んで殆ど判読は出来なかった。
雨は比較的少ないが、水を蓄えやすい柔らかな腐葉土の土壌がこの地下を湿っぽくけぶらせている。
……——しかしほぼすべてのページを埋めたそこには、確かに見覚えのある文字が断片的に見てとれる。
「あのノートだ」
「まさか同じ本?ノートが同じだけだろう」
「ああ、きっとそうだ……」
ドキリとした。祖父は同じ装丁のノートを終生愛用したのかも知れない。
続いて隣の棺に手をつけた。"シノム・シューベルグの貞淑なる妻ヘルミ"と書かれた金のプレートが嵌め込まれている。
中には長い白髪を広げる女の屍が横たわっていた。
残念ながら、これが本当にヘルミなのか……もしかすればアンネースなのか二人には分からない。
残る棺は一つだ。本来ならシノムの伯父伯母にあたる嬰児の遺体が葬られているはずだ。
しかしもうそれは明らかに大きく、また女性的に優美な装飾を施された棺だった。
何だか嫌な動悸がして呼吸が苦しくなってくる……。
バールが最後の棺の蓋を破った。
……——二人は息を呑んだ。
なぜならそこには美しい金髪の女がまるで眠るように指を組んで目を閉じていたからだ。
その肌は血が通っているかのようにみずみずしく艶やかだ。
2、3日はあれど間違っても100年近く昔に葬られた亡骸とは到底思えない。
いったい何が起こっている。これがヒンスの大叔母の姉アンネース・バンフィールドなのか。ならばなぜ……?
……————「何をしてるの?」
ふいにどこからか声が掛かった。ヒンスの額から冷汗の玉が溢れて青い瞳に染みた。
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