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21.真珠の天使
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薄暗い湿った地下墓所に見知らぬ声がひびく。
"何をしているのか"と。
「中尉、僕はあなたに話してない事がある。フィオナにもだ」
シノムが言った。ヒンスはランプの灯に照らされた白い彼の顔を見た。
その緑の視線の先を追うと……黄金の階段を降りきったところに、はじめはなかった人影がある。
あれが正体不明の声の主だろうか?
しかしシノムの言う話していない事とは一体何だろう。
「これは僕の友達だ。だから悪いことは何もしてない」
シノムが人影に向けそう言った。
あれは誰だ。そう尋ねようとした時、赤いランプの灯りの中にそれは全貌をあらわした。
……ヒンスはしばし声も出なかった。
なぜならその灯に照らされた人物が、かつて目にした事のないほど怜悧な美貌を湛えた少女だったからだ。
少女と言うが、小柄で細っそりしているだけではっきりとその性別すら判断できない。
白金に輝く長く豊かな髪が小さな顔を囲っている。
その真っ白な顔の中に薄紅色の小さな唇と、黄金の瞳がまるで野生の狼の様に輝いていた。
生地の分厚い厳しい金縁のコートのせいで身体のラインは分からない。
先ほど耳にしたその声さえ低くも高くもなく……どこかガラスの杯を打ったように不思議な響きを残すばかりだった。
だから目の前の人物が少女か少年か……あるいは大人なのか、ヒンスには分からない。
彼人は金縁の黒いジュストコールを揺らして興味深そうに二人に近づいてきた。
「こんばんは、シノム。彼はお友達なんだね」
「そうだよ、ペルル。息災か?」
相変わらずとペルルと呼ばれた人物は小さく膝を折った。薄紅の唇から覗く透けるように白い小さな歯が美しい……。
「伯爵のお知り合いですか……真珠? 金ではなく? 外国から来られたのか?」
「さよう、ペルル。大陸は地続きですから私たちは自由ですよ。時に海原があゆみを阻むけれどその底はまた地続きに違いないでしょう」
シノムは妙に白い顔をしている。
その面差しがどこかペルルと似ている事にヒンスは気が付いた。
「彼女は伯爵の一族のかたですか?」
そう言ったヒンスの顎をペルルの白く細い指先が捕らえた。
大した力もないのに有無を言わさずその黄金の瞳と目を合わされる。渦を巻く虹彩がまるで墓所の金細工にも似ている。
「あなたの名前は?」
「ヒンス……ヒンス・フォーリーヴ」
身元も知らない女に名乗ってしまった。
しかし揺れる波打った銀髪はまるで天使の翼のようだ。
黄金の瞳に見つめられるうち、美貌の亡骸も嘆くミイラもその周囲の事も徐々に遠のいてしまう…………。
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