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二人の天才作家
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翌日は無事に小説の投稿も終わり、時間もできたので、自分の小説をネット投稿しているサイトをチェックしていた。
私はよくこのサイトに自分の小説を投稿していた。規模が大きいという事もあったが、このサイトの面白いところは、投稿した作品には毎週順位が付き、よく読まれていたり、面白いと思われる作品には評価が集まり、サイト内では少なくとも話題になった。私の作品もそれなりに読まれているもので、それでも面白がってくれる人がいて、わたしも自分の作品を夢中で投稿する事が当たり前になっていた。これはプロになる為の布石だ。
「……さあ、今週の一位は誰かしらね……」
『慈しみあげく腐った月』 風見詩経、サイトにはそう名前が載っていた。
「……やっぱり圭介が上位、しかも一位とは、流石だなぁ……あたしの順位は、と」
「……順位的には悪くもないけど、良くもない、可もなく不可もなく、と言ったところかしら」
風見詩経は、圭介のペンネームだ。学生の頃からこのペンネームは変わってはいない……憧れている彼の作品は逸品だ。
逆に私のペンネームは、樒 麓といった。
ピロロロロ‥‥
PCの前に座って画面を眺めていると、突然、私のスマホの呼び出し音が鳴った。
噂をすれば圭介からの着信だ。
「もしもし? 夏樹?」
電話口からしっかりとした男らしい圭介の声が聞こえる、スマホの先からあまりにも男らしい圭介の声色に一瞬ドキッとしてしまうが、気持ちが悟られないよう振る舞う。
「あ。圭介、ネットの投稿小説読んだよ、相変わらず凄くいい作品。毎回上位を取れる訳が解るわ」
「小説? ……え、俺最近ネットに小説なんて投稿してないけど」
「えっ、だって風見詩経って圭介でしょ?」
「あたりまえだろ。風見詩経は俺だろう。昔そのペンネームでネットによく書いて小説を投稿してたよな、いきなりどうしたんだよ、そんな昔の事をほじくり返してきて」
「……昔? 圭介って今、毎週小説投稿してるんでしょう? 順位トップじゃない」
「……いや、三年前くらいからオレはもうネットで小説は投稿していない、勿論、風見詩経というペンネームだけは今も使っているけどね、……それは俺じゃないんじゃないかな、それに作家のペンネームのかぶりなんてよくある事だしな」
……えっ?
「ところで昨日はちゃんと投函できたのか? 急に走っていったから心配で確認しとこうと思ってな」
私は困惑した。圭介は……三年前から小説を投稿していないと言った。では私が今まで圭介だと妄信してきた風見詩経の美しい、素晴らしい数々の小説は、一体誰なの? 何者なの? まさか圭介が小説の投稿を辞めたタイミングで、偶然にもその人は、ペンネームを風見詩経として投稿を始めたというの? そんな馬鹿な……。
私は混乱した。
「ねぇ、圭介、私の事をからかってるだけだよね? 風間詩経は圭介でしょう?」
「夏樹、さっきから何訳の分からない事いってるんだよ、確かに風間詩経は俺のペンネームだし、俺の事だけど、さっきも言った通り、ネット小説は三年前から投稿はしていない、別に投稿用の小説は書いているけどな、今回だってちゃんと新人賞作品は投函したんだよ。むしろお前が昨日締め切りギリギリで出し忘れていないかとヒヤヒヤしていたくらいだよ、だが俺はネット投稿にはもう期待していないし投稿もしない、お前も知っているはずだろ? だから今投稿はしていないよ、残念だがその風見詩経は、俺じゃあない」
「……わ、わかったわ、あ。新人賞の投函はちゃんとしました。圭介もちゃんと投稿していたんだね、お互い、結果楽しみだね」
「よかったよ。それだけ確認しておきたかったんだ……でも、その風見詩経の件はちょっと気になるな。あのサイトで上位を取り続けるって事は只者じゃあないのは確かだ。俺とペンネームが被ってるって事も気になるし、後で俺もそいつの小説を読んでみるよ」
「そうしてみて。感想よろしくね」
「わかった」
そう言って紗希は電話を早々に切った……
なんだろう……この罪悪感というか、申し訳ない感。いや違う、まるで恋人に対して私が浮気をしていたかのようなバツの悪い感覚にも近いとする違和感、しかも限りなく恋をする相手を間違えてました、的な感じにも似た心境に限りなく近い感覚。
そう……私はネットの風見詩経の小説に惹かれていた。
彼の小説は美しかった
類稀な言語感覚、表現、耽美で甘い作品
恋に落ちるような感性を刺激するような作品達……
彼の小説に恋心にも似た尊敬と慕う気持ちもあった。
淡い恋心を我慢してまで隠したままに……
でも、それはこの三年間ずっと。それは圭介だと思っていた安心感からくる気持ちが手伝っての事に違いないと思っていた。
それでもあたしは彼の小説に強く恋をしていた……。だが圭介ではなかった。
ネットに存在している風見詩経は圭介ではなかった……
一瞬、自分の気持ちに迷いが産まれてしまった。うかつにも自分の気持ちが迷子になってしまいそうになる。この三年間、あたしは違う人の小説に心奪われ浮気をしていたの?
私が好きなのは圭介だった?
風見詩経の小説だった?
私の中で微妙に女心が揺れる錯覚に溺れ始める
私はよくこのサイトに自分の小説を投稿していた。規模が大きいという事もあったが、このサイトの面白いところは、投稿した作品には毎週順位が付き、よく読まれていたり、面白いと思われる作品には評価が集まり、サイト内では少なくとも話題になった。私の作品もそれなりに読まれているもので、それでも面白がってくれる人がいて、わたしも自分の作品を夢中で投稿する事が当たり前になっていた。これはプロになる為の布石だ。
「……さあ、今週の一位は誰かしらね……」
『慈しみあげく腐った月』 風見詩経、サイトにはそう名前が載っていた。
「……やっぱり圭介が上位、しかも一位とは、流石だなぁ……あたしの順位は、と」
「……順位的には悪くもないけど、良くもない、可もなく不可もなく、と言ったところかしら」
風見詩経は、圭介のペンネームだ。学生の頃からこのペンネームは変わってはいない……憧れている彼の作品は逸品だ。
逆に私のペンネームは、樒 麓といった。
ピロロロロ‥‥
PCの前に座って画面を眺めていると、突然、私のスマホの呼び出し音が鳴った。
噂をすれば圭介からの着信だ。
「もしもし? 夏樹?」
電話口からしっかりとした男らしい圭介の声が聞こえる、スマホの先からあまりにも男らしい圭介の声色に一瞬ドキッとしてしまうが、気持ちが悟られないよう振る舞う。
「あ。圭介、ネットの投稿小説読んだよ、相変わらず凄くいい作品。毎回上位を取れる訳が解るわ」
「小説? ……え、俺最近ネットに小説なんて投稿してないけど」
「えっ、だって風見詩経って圭介でしょ?」
「あたりまえだろ。風見詩経は俺だろう。昔そのペンネームでネットによく書いて小説を投稿してたよな、いきなりどうしたんだよ、そんな昔の事をほじくり返してきて」
「……昔? 圭介って今、毎週小説投稿してるんでしょう? 順位トップじゃない」
「……いや、三年前くらいからオレはもうネットで小説は投稿していない、勿論、風見詩経というペンネームだけは今も使っているけどね、……それは俺じゃないんじゃないかな、それに作家のペンネームのかぶりなんてよくある事だしな」
……えっ?
「ところで昨日はちゃんと投函できたのか? 急に走っていったから心配で確認しとこうと思ってな」
私は困惑した。圭介は……三年前から小説を投稿していないと言った。では私が今まで圭介だと妄信してきた風見詩経の美しい、素晴らしい数々の小説は、一体誰なの? 何者なの? まさか圭介が小説の投稿を辞めたタイミングで、偶然にもその人は、ペンネームを風見詩経として投稿を始めたというの? そんな馬鹿な……。
私は混乱した。
「ねぇ、圭介、私の事をからかってるだけだよね? 風間詩経は圭介でしょう?」
「夏樹、さっきから何訳の分からない事いってるんだよ、確かに風間詩経は俺のペンネームだし、俺の事だけど、さっきも言った通り、ネット小説は三年前から投稿はしていない、別に投稿用の小説は書いているけどな、今回だってちゃんと新人賞作品は投函したんだよ。むしろお前が昨日締め切りギリギリで出し忘れていないかとヒヤヒヤしていたくらいだよ、だが俺はネット投稿にはもう期待していないし投稿もしない、お前も知っているはずだろ? だから今投稿はしていないよ、残念だがその風見詩経は、俺じゃあない」
「……わ、わかったわ、あ。新人賞の投函はちゃんとしました。圭介もちゃんと投稿していたんだね、お互い、結果楽しみだね」
「よかったよ。それだけ確認しておきたかったんだ……でも、その風見詩経の件はちょっと気になるな。あのサイトで上位を取り続けるって事は只者じゃあないのは確かだ。俺とペンネームが被ってるって事も気になるし、後で俺もそいつの小説を読んでみるよ」
「そうしてみて。感想よろしくね」
「わかった」
そう言って紗希は電話を早々に切った……
なんだろう……この罪悪感というか、申し訳ない感。いや違う、まるで恋人に対して私が浮気をしていたかのようなバツの悪い感覚にも近いとする違和感、しかも限りなく恋をする相手を間違えてました、的な感じにも似た心境に限りなく近い感覚。
そう……私はネットの風見詩経の小説に惹かれていた。
彼の小説は美しかった
類稀な言語感覚、表現、耽美で甘い作品
恋に落ちるような感性を刺激するような作品達……
彼の小説に恋心にも似た尊敬と慕う気持ちもあった。
淡い恋心を我慢してまで隠したままに……
でも、それはこの三年間ずっと。それは圭介だと思っていた安心感からくる気持ちが手伝っての事に違いないと思っていた。
それでもあたしは彼の小説に強く恋をしていた……。だが圭介ではなかった。
ネットに存在している風見詩経は圭介ではなかった……
一瞬、自分の気持ちに迷いが産まれてしまった。うかつにも自分の気持ちが迷子になってしまいそうになる。この三年間、あたしは違う人の小説に心奪われ浮気をしていたの?
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風見詩経の小説だった?
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