楽園

たんぽぽ。

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土蔵

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 高い窓から差すひと筋の光に、埃がキラキラと輝いている。

 埃の粒はゆっくりと絶え間なく舞い降りるが、後から後から無限に湧き出てくるのか際限がない。
 冷たい壁に寄りかかり、動かずにもうずっとそれを眺めている。
 永遠を見るようだった。

 あれは何という現象だっけ? あとで彼に聞いてみよう。

 ずれ落ちた毛布を肩まで引き上げる。

 やがて光の線は細くなって消えた。私はひとつ咳をした。

 土蔵の中は狭いし暗いし喉がイガイガするし、スマホを取り上げられたから暇つぶしもできない。けれど、リョウちゃんが会いに来てくれるから苦にはならない。
 見えないだけで永遠は存在すると知った。

 ここは楽園。

 車が故障した翌朝、リョウちゃんは家まで迎えに来てくれた。でも彼が向かったのは養魚場じゃなくて、廃墟と化した本家の裏庭。

 本家には、私たちと同年代の男児が生まれなかった。時代が時代だから養子は取らず、娘達はみんな県外に嫁いだから、広い日本家屋に住むのは年寄りだけとなった。やがて彼らは死んでしまい、朽ちかけた廃屋だけが残された。

 リョウちゃんはここ、家の裏手の土蔵で待つよう私に言ったのだ。そしてどこかへ出かけ、戻ってきて私に告げた。やっぱりハナと結婚することにしたから、話がまとまるまで隠れてろ、と。

 母ももう年だから、早く安心させてやりたい。リョウちゃんが迎えに来た時、ちょっと変なことを言っていたし。
 彼に言われて「しばらく家を空ける」と電話で伝えたけれど、やっぱり心配だ。


 ……ここに来て、もう何日経つだろう。

 パキ、と枝を踏む音がした。私は立ち上がった。

 重たい扉がつかえながら開く。逆光に彼の影が浮かび上がる。
「大丈夫か?」
「おかえりリョウちゃん!」
 私たちは抱き合った。

「ねぇ、光を浴びて埃がキラキラするの、何現象?」
「チンダル現象」
 腕の中で尋ねると彼はさらりと答えた。ちょっと悔しい。理科の成績は私の方が良かったのに。

「昼間に来るなんて珍しいね。仕事はいいの?」
「葬式あるから」
「葬式……誰の?」
「お前の知らないヤツだよ。それよりほら」
 リョウちゃんの肘にはビニール袋が下がっている。
「デザート買ってきた。昼飯もう食ったか?」

「食欲なくて」
「……少しでもいいから食べてくれよ」
 悲しそうに言った。

 リョウちゃんは扉をしめた。私たちを甘い暗がりが包む。
 床板が抜けている場所を慎重に避けて座った。

「プリン好きだったろ」
 リョウちゃんは持ってきた袋をガサガサさせている。
「食べていいよ、甘いの好きでしょ」と言うと、彼はそれをひと口含み、私に口移しで食べさせた。
 とろりと甘い中にほんのりした苦味を感じる。

「……リョウちゃん、タバコ始めたの?」
「ハナが嫌ならやめる」

 リョウちゃんはもうひと口くれた。熱い舌の感触。

 きしむ床の上で、私たちは深く交わった。

 ここは楽園。
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