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ハマってハメて?
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セイゲルさんの家を出ての感想もまたデカい、ということだった。
住宅街や遠くにあるビル群は人間のそれと変わらない風景。
ただそれが縦も幅も二倍ある。
そしてこれは何となく予想していたが、道行く獣人が物凄くジロジロと私を見てくる。
やはり彼らはすべて雄なのだろうと思う。
「わっ、生の雌だ。 俺初めて見た」
「しかも一人でだぜ。 ちっせえなあ」
「あんなんでホントに出来んのかねえ」
早足で歩くも何人かの暇そうな獣人がのんびり後をついてくる。
「ご主人。 振り向かないで、もう少し早く歩けませんか」
シンがぴったりと横についてくれてはいるが、どうしても怖さで体が強ばる。
彼らは私から一定の距離を置いてはいるようだ。
そのうちにめいめいが話しかけてきた。
「勃っちまうだろこんなの」
「かっわいい。 おーい、どこ行くの?」
「ねえ、ちょっと触ってくんない? 一生に一回でいいんだよ」
本気なのか面白がってるのか。
怖い、怖いよ。
こんなモテ期要らないってば。
彼らにとっての人間の女性。
……それは交尾の対象。
「シン、シン。 何これ、どうしよう?」
「普通は外へは夫婦で連れ立って、雌は顔や体を隠しますからね。 とにかく門まではあと五分です、走りましょう!!」
ああ、セイゲルさんやシリカくんの言っていた話の内容が、ようやく私にも理解しかけてきた。
涙ぐみながら頷いて、必死で走る。
『はあまあ、もう一度門に行くぐらいでしたら』
セイゲルさんの家で話したところ、シンも嫌そうにではあるが、了承をしてくれた。
息を切らせて走っているうちにそろそろ目的地が見えてきた。
────ここの門は二重構造となっている。
メロルくんたちやシンから少しだけ聞いた。
セイゲルさんと出会って話したのは二つの門の間。
一つ目の門。
シンのように二つの世界を行き出来る者。
セイゲルさんのような仕事(元々彼はここの士官らしい)に就いている者。
それから私が今、首から下げている通行証を持つ者がそこに入れる。
二つ目の門。
獣人と人間の住処と隔てる所。
どうやらここを通るのが無理っぽいという話。
だが、門の間でセイゲルさんと話していた時、実は偶然にも私は見付けていたのだ。
植え込みの間。
壁に空いた、私が潜れそうなギリギリの大きさの穴を。
そこから人間界へしれっと戻り、人生をやり直す。
ちょっとだけ癪だけれど、セイゲルさんのためにここの事は黙っておくつもりだ。
彼はちょっとだけ素敵だったし。
ちょっとだけ、あんなに気持ちよかったし。
「私って優しい」
いっそ自分も誰か褒めてくれないだろうかと思いながら一つ目の門の前で歩を緩める。
ついてきた獣人たちも門が近くになるにつれ、諦めて引き返していくようだった。
扉の両脇を固める二人の門番を見上げる。
仕事柄だけあって強面の、キリッとした顔つきの獣人たちのようだ。
「珍しいな。 雌が一人か、通行証は持ってるか」
「一応聞くが、この先に何の用向きで?」
用向き?
顔は平静を装いながらも脳内でぐるぐる考える。
「……こちらとの植生についての違いの研究に」
我ながら意味不明だ。
差し出した通行証を二人が覗き込んで、ほうほうと頷いている。
「全く分からんが、あの方の番だ。 さぞ重要なことなのだろう」
「犬は問答無用で通っていいぞ」
犬とセイゲルさん、強い。
でもなんで見張りの人が私のことを知ってるんだろう?
そんな疑問を頭に置きつつ開かれた両扉をギクシャク通り、遠くなっていく後ろを振り向いた私は、得意になって腰に手を当てた。
来た時と同様、この区間には見張り以外の獣人の姿はない。
メロルくんたちによればこの場所は兵舎などが集まっている区域で、通常は彼らは街の方に仕事へ出掛けているという話だった。
「ふっ、ガッバガバじゃないの」
「ご主人、下品です。 全く、そういう知識だけは旺盛なんですから」
シモのことかしら。
シンにたしなめられて少しばかり気を悪くする。
多少口うるさくとも、喋るシンは普段の私の、彼に対するイメージとピッタリだった。
彼がいてくれて良かったと心から思う。
「でもさ、向こうに戻ったら気をつけないとね? シンとお話するのは、家の中だけにしなくっちゃ」
「戻るとは……ご主人一体何を? もう気が済んだら帰りましょうよ。 私は大切なご主人だからこそ、若くして優秀な将校に就いていたセイゲル様に推したのですから」
シンがしぶしぶといった顔つきで歩きながら愚痴をこぼす。
「へ? あんな傲慢な……大して私のことなんてどうでもよさそうな人に、何で」
いいえ。 と、シンが私の言葉をハッキリ遮る。
「それは違います。 セイゲル様に私がご主人のことをお話ししたのは、かれこれもう五年前のことです。 こっそり渡したご主人の写真を眺めては、早く会いたい、番を持てる資格が欲しいと、あの方は異例の出世をなされたのですよ」
「シン、ストップ」
「は?」
聞こえない振りをして前を向いていたが私の心臓はドキドキしていた。
「見張りの人に気付かれるから、もう話さないで」
「………?」
だって聞きたくない。
五年前からずっと?
他の誰でもなく私のことを、彼が?
「わ、私は帰るん……だから!」
拳を握って小さく呟く。
さっきの電話の彼はあんなに冷たかったのに?
そんなの信じられない。
門番からの死角を縫い、周囲の道に沿って姿勢を低くして進む。
不思議そうな顔で私の後を付いてきたシンが目的の場所で足を止めた。
「こ、この穴は……?」
壁の穴をフンフン嗅いでは頭だけをそおっと向こうに出し、それから驚いた顔で私を見上げる。
「これは違法ですよ。 ご主人、戻りましょう」
「嫌だよ。 私は帰るの」
シンは少しの間考えていたが、再び真剣な表情で私を見つめた。
「ご主人、あの。 それに……それに、獣人とはとても情が深いのです。 私は早くに家族を亡くしたご主人ならば、幸せな家庭をセイゲル様と」
「帰るの。 もう彼のことは話さないで」
それ以上は聞きたくなくって首を横に振る。
私だって、セイゲルさんと同じぐらいの年月を頑張ってきたんだもの。
でも、私は本当は何のためにこの道を選んだんだろう────?
今さらふと疑問がよぎったが、シンの諦めたように小さな声で我に返った。
「……分かりました。 私は普通に門から外に出ます。 その方が彼らの気も逸らせるでしょう」
「あ、あり…がとう」
元来た道を戻り、そこから真っ直ぐ門に向かうつもりとみた。
どことなくトボトボ歩くシンの後ろ姿を見送りながら、胸がざわざわするのを感じていた。
私はその場で行ったり来たりを繰り返していた。
もう引き返せない……よね?
向こうでシンと誰かの微かな話し声が耳を掠める。
出るなら今だ。
それにしても、高さもある頑丈な壁。
ダイエットをしておいて良かったとつくづく思う。
スルリとそこを抜けた私は人間界の地面に手をついた。
人気もなく、ここも植え込みの陰になっているのは好都合だ。
「……ん、あれ?」
お尻が引っかかって抜けない?
もう少し……でもない?
見た目よりも分厚い壁の中身は案外狭かったようだ。
ぐいぐいと押してみる。
「………」
どうやら出れそうにもない。
これはもしかして神様のお導きなのかもしれない。
も、戻ろうかな……?
自分の心がグラグラと揺れる。
『お前は俺の女だ』
セイゲルさんの熱っぽい声を思い出して慌てた。
異性にあんな風に言われたのなんて生まれて初めてだ。
そもそも、私の好みやサイズが合うものを用意してくれてたのは彼の優しさなんじゃないのかな?
我ながら現金だけれど、彼の気持ちを聞いた後では疑心が簡単に反対側へとひっくり返る。
彼の外見はモロ私のタイプでもあるし。
よしとりあえず戻ろう。
うん、と私は力強く頷いた。
ぐいぐいと今度は引いてみる。
が、すっぽりハマってしまったようで向こう側にいけない。
しばらくとその場でジタバタし、しまいに私は全く動けなくなった。
……これはさすがにヤバいんじゃないの?
それでもそのうちシンが迎えに来てくれるだろう、そして何とか向こうから引っ張ってもらおうと、私は間抜けな格好でじっと待っていた。
「ハリス殿、これは一体……」
「フム、紛うことなき雌の尻だな」
すぐ背後、つまり獣人側で二人の男の声がした。
顔から血の気が引くのが分かる。
「どうやらここから脱走を図ったらしいな。馬鹿め」
二人の男性がボソボソ話し始める。
私のお尻の後ろで。
「わたくしは新人の身で、このような時はどうすればいいのか。 これは上層部に連絡ですかね?」
「そんなことをすればこの穴を見逃していた、我らが処罰を受けるだろう。 内々に済ますのだ。 女、それでいいな? バレればお前やお前の伴侶共々厳罰だ。 返事がイエスならば左足を上げろ」
冷や汗がダラダラ流れてくる。
私は迷いもせず左足のつま先を上げた。
「ではハリス殿、助けましょうか。 貴女、どうか静かにして下さいよ」
「いや……トーマス待て、雌だぞ?」
「は、はい?」
「俺もお前も、今までもこれからも拝めない雌の尻だぞ? これを逃すのか?」
「と、いうとハリス殿……まさか」
「ほら、この雌も懸命に尻を振っている。 なんでも、これは誘いの合図なのだと物の本で俺は読んだことがある」
「ハリス殿、流石ですっ!」
「ふ、そう褒めるな。 俺がますます優秀になってしまう」
獣人ってやっぱり馬鹿なのかしらと思っていたら、突然つるっとズボンを膝まで下ろされた。
下半身がスースーする。
ゴクンッ、と唾を飲む音が聞こえた。
そのすぐ後に、スルルル……と大きな手のひらが私のお尻を滑る。
「ふうむ……この張りは若い雌だな。 実に食べ頃じゃないか? おい娘、いくら気持ちよくっても声をあげるんじゃないぞ」
「そ、そうだぞ。 厳罰を受けたくなければ大人しくするんだ」
うんと遅れてようやくようやく事態が飲み込めてきた。
これは、本日二度目の犯されてしまうコース?
しかも今度は二人がかりで。
「トーマス、早速乳を揉んでみろ。 そこの凹みから…そら、内壁を壊せば腕一本ぐらいは通るだろう」
「はいっ♡」
「しっかり感じさせたら雌はヌレヌレになるらしい。 そしたら逸物で突きまくる。 その後に俺と交代だ、いいな?」
「は、はいっ。 ハリス殿、わたくしこの任務、命を懸けて頑張ります!!」
「よおしよし、お前は有能な良い部下だ。 褒めてやる」
「ああ、ハリス殿のお陰でわたくしはまた成長してしまう……」
そんな気の抜ける会話を聞きながら、私は情けなさに涙を堪えていた。
『バレればお前やお前の伴侶共々厳罰だ』
もし抵抗したらセイゲルさんに迷惑が掛かってしまうの?
ここを通る前に迷わず彼の家に戻るべきだった。
少なくともあの人は、私のことを思ってくれていたのに。
住宅街や遠くにあるビル群は人間のそれと変わらない風景。
ただそれが縦も幅も二倍ある。
そしてこれは何となく予想していたが、道行く獣人が物凄くジロジロと私を見てくる。
やはり彼らはすべて雄なのだろうと思う。
「わっ、生の雌だ。 俺初めて見た」
「しかも一人でだぜ。 ちっせえなあ」
「あんなんでホントに出来んのかねえ」
早足で歩くも何人かの暇そうな獣人がのんびり後をついてくる。
「ご主人。 振り向かないで、もう少し早く歩けませんか」
シンがぴったりと横についてくれてはいるが、どうしても怖さで体が強ばる。
彼らは私から一定の距離を置いてはいるようだ。
そのうちにめいめいが話しかけてきた。
「勃っちまうだろこんなの」
「かっわいい。 おーい、どこ行くの?」
「ねえ、ちょっと触ってくんない? 一生に一回でいいんだよ」
本気なのか面白がってるのか。
怖い、怖いよ。
こんなモテ期要らないってば。
彼らにとっての人間の女性。
……それは交尾の対象。
「シン、シン。 何これ、どうしよう?」
「普通は外へは夫婦で連れ立って、雌は顔や体を隠しますからね。 とにかく門まではあと五分です、走りましょう!!」
ああ、セイゲルさんやシリカくんの言っていた話の内容が、ようやく私にも理解しかけてきた。
涙ぐみながら頷いて、必死で走る。
『はあまあ、もう一度門に行くぐらいでしたら』
セイゲルさんの家で話したところ、シンも嫌そうにではあるが、了承をしてくれた。
息を切らせて走っているうちにそろそろ目的地が見えてきた。
────ここの門は二重構造となっている。
メロルくんたちやシンから少しだけ聞いた。
セイゲルさんと出会って話したのは二つの門の間。
一つ目の門。
シンのように二つの世界を行き出来る者。
セイゲルさんのような仕事(元々彼はここの士官らしい)に就いている者。
それから私が今、首から下げている通行証を持つ者がそこに入れる。
二つ目の門。
獣人と人間の住処と隔てる所。
どうやらここを通るのが無理っぽいという話。
だが、門の間でセイゲルさんと話していた時、実は偶然にも私は見付けていたのだ。
植え込みの間。
壁に空いた、私が潜れそうなギリギリの大きさの穴を。
そこから人間界へしれっと戻り、人生をやり直す。
ちょっとだけ癪だけれど、セイゲルさんのためにここの事は黙っておくつもりだ。
彼はちょっとだけ素敵だったし。
ちょっとだけ、あんなに気持ちよかったし。
「私って優しい」
いっそ自分も誰か褒めてくれないだろうかと思いながら一つ目の門の前で歩を緩める。
ついてきた獣人たちも門が近くになるにつれ、諦めて引き返していくようだった。
扉の両脇を固める二人の門番を見上げる。
仕事柄だけあって強面の、キリッとした顔つきの獣人たちのようだ。
「珍しいな。 雌が一人か、通行証は持ってるか」
「一応聞くが、この先に何の用向きで?」
用向き?
顔は平静を装いながらも脳内でぐるぐる考える。
「……こちらとの植生についての違いの研究に」
我ながら意味不明だ。
差し出した通行証を二人が覗き込んで、ほうほうと頷いている。
「全く分からんが、あの方の番だ。 さぞ重要なことなのだろう」
「犬は問答無用で通っていいぞ」
犬とセイゲルさん、強い。
でもなんで見張りの人が私のことを知ってるんだろう?
そんな疑問を頭に置きつつ開かれた両扉をギクシャク通り、遠くなっていく後ろを振り向いた私は、得意になって腰に手を当てた。
来た時と同様、この区間には見張り以外の獣人の姿はない。
メロルくんたちによればこの場所は兵舎などが集まっている区域で、通常は彼らは街の方に仕事へ出掛けているという話だった。
「ふっ、ガッバガバじゃないの」
「ご主人、下品です。 全く、そういう知識だけは旺盛なんですから」
シモのことかしら。
シンにたしなめられて少しばかり気を悪くする。
多少口うるさくとも、喋るシンは普段の私の、彼に対するイメージとピッタリだった。
彼がいてくれて良かったと心から思う。
「でもさ、向こうに戻ったら気をつけないとね? シンとお話するのは、家の中だけにしなくっちゃ」
「戻るとは……ご主人一体何を? もう気が済んだら帰りましょうよ。 私は大切なご主人だからこそ、若くして優秀な将校に就いていたセイゲル様に推したのですから」
シンがしぶしぶといった顔つきで歩きながら愚痴をこぼす。
「へ? あんな傲慢な……大して私のことなんてどうでもよさそうな人に、何で」
いいえ。 と、シンが私の言葉をハッキリ遮る。
「それは違います。 セイゲル様に私がご主人のことをお話ししたのは、かれこれもう五年前のことです。 こっそり渡したご主人の写真を眺めては、早く会いたい、番を持てる資格が欲しいと、あの方は異例の出世をなされたのですよ」
「シン、ストップ」
「は?」
聞こえない振りをして前を向いていたが私の心臓はドキドキしていた。
「見張りの人に気付かれるから、もう話さないで」
「………?」
だって聞きたくない。
五年前からずっと?
他の誰でもなく私のことを、彼が?
「わ、私は帰るん……だから!」
拳を握って小さく呟く。
さっきの電話の彼はあんなに冷たかったのに?
そんなの信じられない。
門番からの死角を縫い、周囲の道に沿って姿勢を低くして進む。
不思議そうな顔で私の後を付いてきたシンが目的の場所で足を止めた。
「こ、この穴は……?」
壁の穴をフンフン嗅いでは頭だけをそおっと向こうに出し、それから驚いた顔で私を見上げる。
「これは違法ですよ。 ご主人、戻りましょう」
「嫌だよ。 私は帰るの」
シンは少しの間考えていたが、再び真剣な表情で私を見つめた。
「ご主人、あの。 それに……それに、獣人とはとても情が深いのです。 私は早くに家族を亡くしたご主人ならば、幸せな家庭をセイゲル様と」
「帰るの。 もう彼のことは話さないで」
それ以上は聞きたくなくって首を横に振る。
私だって、セイゲルさんと同じぐらいの年月を頑張ってきたんだもの。
でも、私は本当は何のためにこの道を選んだんだろう────?
今さらふと疑問がよぎったが、シンの諦めたように小さな声で我に返った。
「……分かりました。 私は普通に門から外に出ます。 その方が彼らの気も逸らせるでしょう」
「あ、あり…がとう」
元来た道を戻り、そこから真っ直ぐ門に向かうつもりとみた。
どことなくトボトボ歩くシンの後ろ姿を見送りながら、胸がざわざわするのを感じていた。
私はその場で行ったり来たりを繰り返していた。
もう引き返せない……よね?
向こうでシンと誰かの微かな話し声が耳を掠める。
出るなら今だ。
それにしても、高さもある頑丈な壁。
ダイエットをしておいて良かったとつくづく思う。
スルリとそこを抜けた私は人間界の地面に手をついた。
人気もなく、ここも植え込みの陰になっているのは好都合だ。
「……ん、あれ?」
お尻が引っかかって抜けない?
もう少し……でもない?
見た目よりも分厚い壁の中身は案外狭かったようだ。
ぐいぐいと押してみる。
「………」
どうやら出れそうにもない。
これはもしかして神様のお導きなのかもしれない。
も、戻ろうかな……?
自分の心がグラグラと揺れる。
『お前は俺の女だ』
セイゲルさんの熱っぽい声を思い出して慌てた。
異性にあんな風に言われたのなんて生まれて初めてだ。
そもそも、私の好みやサイズが合うものを用意してくれてたのは彼の優しさなんじゃないのかな?
我ながら現金だけれど、彼の気持ちを聞いた後では疑心が簡単に反対側へとひっくり返る。
彼の外見はモロ私のタイプでもあるし。
よしとりあえず戻ろう。
うん、と私は力強く頷いた。
ぐいぐいと今度は引いてみる。
が、すっぽりハマってしまったようで向こう側にいけない。
しばらくとその場でジタバタし、しまいに私は全く動けなくなった。
……これはさすがにヤバいんじゃないの?
それでもそのうちシンが迎えに来てくれるだろう、そして何とか向こうから引っ張ってもらおうと、私は間抜けな格好でじっと待っていた。
「ハリス殿、これは一体……」
「フム、紛うことなき雌の尻だな」
すぐ背後、つまり獣人側で二人の男の声がした。
顔から血の気が引くのが分かる。
「どうやらここから脱走を図ったらしいな。馬鹿め」
二人の男性がボソボソ話し始める。
私のお尻の後ろで。
「わたくしは新人の身で、このような時はどうすればいいのか。 これは上層部に連絡ですかね?」
「そんなことをすればこの穴を見逃していた、我らが処罰を受けるだろう。 内々に済ますのだ。 女、それでいいな? バレればお前やお前の伴侶共々厳罰だ。 返事がイエスならば左足を上げろ」
冷や汗がダラダラ流れてくる。
私は迷いもせず左足のつま先を上げた。
「ではハリス殿、助けましょうか。 貴女、どうか静かにして下さいよ」
「いや……トーマス待て、雌だぞ?」
「は、はい?」
「俺もお前も、今までもこれからも拝めない雌の尻だぞ? これを逃すのか?」
「と、いうとハリス殿……まさか」
「ほら、この雌も懸命に尻を振っている。 なんでも、これは誘いの合図なのだと物の本で俺は読んだことがある」
「ハリス殿、流石ですっ!」
「ふ、そう褒めるな。 俺がますます優秀になってしまう」
獣人ってやっぱり馬鹿なのかしらと思っていたら、突然つるっとズボンを膝まで下ろされた。
下半身がスースーする。
ゴクンッ、と唾を飲む音が聞こえた。
そのすぐ後に、スルルル……と大きな手のひらが私のお尻を滑る。
「ふうむ……この張りは若い雌だな。 実に食べ頃じゃないか? おい娘、いくら気持ちよくっても声をあげるんじゃないぞ」
「そ、そうだぞ。 厳罰を受けたくなければ大人しくするんだ」
うんと遅れてようやくようやく事態が飲み込めてきた。
これは、本日二度目の犯されてしまうコース?
しかも今度は二人がかりで。
「トーマス、早速乳を揉んでみろ。 そこの凹みから…そら、内壁を壊せば腕一本ぐらいは通るだろう」
「はいっ♡」
「しっかり感じさせたら雌はヌレヌレになるらしい。 そしたら逸物で突きまくる。 その後に俺と交代だ、いいな?」
「は、はいっ。 ハリス殿、わたくしこの任務、命を懸けて頑張ります!!」
「よおしよし、お前は有能な良い部下だ。 褒めてやる」
「ああ、ハリス殿のお陰でわたくしはまた成長してしまう……」
そんな気の抜ける会話を聞きながら、私は情けなさに涙を堪えていた。
『バレればお前やお前の伴侶共々厳罰だ』
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