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引越し蕎麦(よく見ると三人前)
2話
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そのままお尻をついてしまった私の胸から頭がずり落ちそうになり、慌てて彼の体にぎゅっと手を回した。
それきり目を伏せてしまった琥牙。
眉を寄せて、息が荒い。
ど、どうしよう。
救急車を呼べばいい!?
「あの」
その時。 小さなおずおずとした声がバルコニーの外からボソッと聞こえた。
「は……っ伯、斗さ……」
伯斗さんだ! 助かった。
「はい。 雪牙様と入れ違いで。 引越し蕎麦を持参しましたが、今お邪魔でしたか? しかしどうやら意外に激しめの」
カーテン越しに見てたら私が襲われて彼が覆いかぶさってるように見えるんだろう、なんて今はどうでもいい。
「伯斗さん、来てください! 琥牙が……っ!」
「どうかしましたか? ……ああ、また倒れられたのですね。 お可哀想に」
こういう時に一番慌てそうなこの人が琥牙を一目見たのちに冷静な様子で部屋に入ってくる。
その反応にきょとんとしていると具合の悪そうな琥牙を抱いている私に、彼はさっきから口に咥えていた風呂敷包みをずいっと差し出してきた。
「えっと……あの?」
「引越し蕎麦です」
何処で入手して来たんだろう?
って、だからそれどころじゃない。
「あの! 琥牙が、いきなり倒れたんです! 熱があるみたいで」
「はい。 暑い時期はあまり無いんですが。 大丈夫です。 琥牙様は一年のうちの三分の一はこんな感じですから」
「ええ!??」
琥牙が超病弱だったとはこれも初耳である。
「ですのでむしろこちらに来て不思議だったんですよ。 いつもお元気そうなのが」
そう言いながら彼は引越し蕎麦をテーブルに置いてから琥牙と私の傍に再び寄ってきた。
「寝室は何処ですか?」
「隣の部屋です」
それにしても、『暑い時期はあまり無い』? それって……
考えている私を無視して、伯斗さんが低い体勢になりガブリと琥牙のお腹の辺りに噛み付いた。
「はっ!?」
素っ頓狂な声を出してしまった。 そしてそのまま伯斗さんがずるずると琥牙を引き摺り隣室へと向かう。
琥牙はもはや意識がないんだろう、目を覚まさない。
「あの!? そんな乱暴に」
「はたふしはひは、ふふうふうはっへはほひはふよ」
ちょっと何言ってるか分かんない。
そのまま寝室に足を踏み入れるた伯斗さんが首を大きくひと振りして、まるで人形にでもそうするかの様に空にぶんと琥牙を放り投げた。
「きゃあああああ!!」
「まずは寝床に運ばないと」
そ、それはそうなんだけど!
宙に浮いて無造作にベッドに叩き付けられた琥牙。
その瞬間壁で頭を打ったんだろうか、ゴッ!って固いもの同士がぶつかる音が聞こえた、絶対。
何でこんなにワイルドなの?
彼に駆け寄った私は思わず胸の音を確認した。
眉を寄せて物凄く痛そうな顔をしてるけど良かった、生きてる。
「私たちはこうやってものを運びますから。 風呂場はこちらですか?」
「は……? は…い」
バスルームから水がざばさばと流れる音を聞きながら、私がよいしょとよいしょと琥牙の体を布団の中に入れる。
汗で濡れてる服なんかも着替えさせたいけど、もう少し落ち着いてからの方が。
救急箱はどこに閉まったっけ。 そんな事を考えていると伯斗さんが戻ってきた。
「………真弥どの、何を?」
「え? 普通に寝かせてるんですけど」
アナタが雑に放り投げるから。
「琥牙様の体が熱いでしょう?」
「はい。 だからこうやって暖めないと」
伯斗さんが私を不審なものを見る様な目付きをして見てから琥牙からべり、と布団を剥がしにかかる。
そして性懲りもなくまたがぷ、と彼の腿の辺りを咥えようとする。
「待って、今度はどこ連れてくの!?」
「体を冷やさないと。 風呂桶に水を溜めましたから小一時間程ですね」
今度はちゃんとした言葉だがやっぱり何を言ってるのか分かんない。
「毎日そうやって熱を冷まして、滋養のある食物を与えるのです。 里の時は血の滴る小動物のレバーなどを」
こちらではそのようなものを購入出来ますか? そんな事を訊いてくる伯斗さんから守る様に琥牙の体に縋り付いてそれを阻止する。
「止めて下さい……あの、伯斗さん? それってどこ情報?」
「はい?」
「そんな事したら下手したら肺炎になるから。 誰がそんな事しろって言ったんです?」
「……琥牙様の母上ですが。 私たちには人間の体の事は分かりませんので」
……虐待なの?
琥牙ってばお母さんに虐待されてたの?
「私が琥牙を看ます。 泊斗さんは何もしないで!」
目に涙を溜めて訴える私に泊斗さんはたじろいだ様子だった。
「琥牙は私に任せていただけませんか? どうか」
「……真弥どのがそう仰るのなら。 ですが、様子を見に来るのは許していただけますか?」
いいですけど、彼には絶対触らないで、指一本触れないで。 そう言う私に気圧されてでは今晩の所はお暇します、と伯斗さんが引き下がった。
「雪牙様と違い琥牙様は昔からこうなのです。 ですから私たちの間では琥牙様は人の血で弱くなってしまったと言われているのですよ。 実際に姉上様はじめ混血の女性は皆短命でしたし」
「……………」
伯斗さんが出て行ったあとに救急箱やタオルなどを出して看病の体制を作る。
服は迷ったが、目が覚めた時に着替えてもらう事にした。 冬場ではないから大丈夫だろう。
お昼に出したフルーツの余りがあったので、水と少しの塩を混ぜて吸収の良い飲み物を枕元に置いておいた。
「琥牙……起きれる? 水分取って」
「……………ん」
朦朧とした様子の琥牙が少しそれを口にしてまた体を横たえる。
ぺたりとおでこに冷えピタを貼ってそんな彼を見詰め、やがて琥牙が薄っすらと目を開いた。
「寝てて……いいの?」
「むしろ寝てなきゃ。 熱が38度超えてるよ。 39度超えたら病院いこ」
「向こうではそういう時こそ鍛えなきゃって水ごりとかさせられてたんだけど……」
「しないで。 お願いだから」
「ごめんね。 最近平気だったから大丈夫かと思ってたんだけど。 真弥…… 何でそんなに悲しそうなの?」
「心配だからに決まってるでしょう」
「弱い者は淘汰されていなくなる。 普通の事だよ」
それならなんで私の所に来たの?
伴侶を得て子供さえ作れればいいって、琥牙もそう思ってたの?
色んな言葉が出かけたけど、全部飲み込んで唇を噛み締める。
指先で彼の瞼に触れ、そっとその目を閉じさせた。
「休んで……ね?」
「…………うん」
エアコンは緩く除湿だけにして彼の体を薄目の上掛けで肩まで覆った。
いつもよりも早い呼吸。
けれどぶっちゃけていうとこれは多分ただの…………風邪だ。
それきり目を伏せてしまった琥牙。
眉を寄せて、息が荒い。
ど、どうしよう。
救急車を呼べばいい!?
「あの」
その時。 小さなおずおずとした声がバルコニーの外からボソッと聞こえた。
「は……っ伯、斗さ……」
伯斗さんだ! 助かった。
「はい。 雪牙様と入れ違いで。 引越し蕎麦を持参しましたが、今お邪魔でしたか? しかしどうやら意外に激しめの」
カーテン越しに見てたら私が襲われて彼が覆いかぶさってるように見えるんだろう、なんて今はどうでもいい。
「伯斗さん、来てください! 琥牙が……っ!」
「どうかしましたか? ……ああ、また倒れられたのですね。 お可哀想に」
こういう時に一番慌てそうなこの人が琥牙を一目見たのちに冷静な様子で部屋に入ってくる。
その反応にきょとんとしていると具合の悪そうな琥牙を抱いている私に、彼はさっきから口に咥えていた風呂敷包みをずいっと差し出してきた。
「えっと……あの?」
「引越し蕎麦です」
何処で入手して来たんだろう?
って、だからそれどころじゃない。
「あの! 琥牙が、いきなり倒れたんです! 熱があるみたいで」
「はい。 暑い時期はあまり無いんですが。 大丈夫です。 琥牙様は一年のうちの三分の一はこんな感じですから」
「ええ!??」
琥牙が超病弱だったとはこれも初耳である。
「ですのでむしろこちらに来て不思議だったんですよ。 いつもお元気そうなのが」
そう言いながら彼は引越し蕎麦をテーブルに置いてから琥牙と私の傍に再び寄ってきた。
「寝室は何処ですか?」
「隣の部屋です」
それにしても、『暑い時期はあまり無い』? それって……
考えている私を無視して、伯斗さんが低い体勢になりガブリと琥牙のお腹の辺りに噛み付いた。
「はっ!?」
素っ頓狂な声を出してしまった。 そしてそのまま伯斗さんがずるずると琥牙を引き摺り隣室へと向かう。
琥牙はもはや意識がないんだろう、目を覚まさない。
「あの!? そんな乱暴に」
「はたふしはひは、ふふうふうはっへはほひはふよ」
ちょっと何言ってるか分かんない。
そのまま寝室に足を踏み入れるた伯斗さんが首を大きくひと振りして、まるで人形にでもそうするかの様に空にぶんと琥牙を放り投げた。
「きゃあああああ!!」
「まずは寝床に運ばないと」
そ、それはそうなんだけど!
宙に浮いて無造作にベッドに叩き付けられた琥牙。
その瞬間壁で頭を打ったんだろうか、ゴッ!って固いもの同士がぶつかる音が聞こえた、絶対。
何でこんなにワイルドなの?
彼に駆け寄った私は思わず胸の音を確認した。
眉を寄せて物凄く痛そうな顔をしてるけど良かった、生きてる。
「私たちはこうやってものを運びますから。 風呂場はこちらですか?」
「は……? は…い」
バスルームから水がざばさばと流れる音を聞きながら、私がよいしょとよいしょと琥牙の体を布団の中に入れる。
汗で濡れてる服なんかも着替えさせたいけど、もう少し落ち着いてからの方が。
救急箱はどこに閉まったっけ。 そんな事を考えていると伯斗さんが戻ってきた。
「………真弥どの、何を?」
「え? 普通に寝かせてるんですけど」
アナタが雑に放り投げるから。
「琥牙様の体が熱いでしょう?」
「はい。 だからこうやって暖めないと」
伯斗さんが私を不審なものを見る様な目付きをして見てから琥牙からべり、と布団を剥がしにかかる。
そして性懲りもなくまたがぷ、と彼の腿の辺りを咥えようとする。
「待って、今度はどこ連れてくの!?」
「体を冷やさないと。 風呂桶に水を溜めましたから小一時間程ですね」
今度はちゃんとした言葉だがやっぱり何を言ってるのか分かんない。
「毎日そうやって熱を冷まして、滋養のある食物を与えるのです。 里の時は血の滴る小動物のレバーなどを」
こちらではそのようなものを購入出来ますか? そんな事を訊いてくる伯斗さんから守る様に琥牙の体に縋り付いてそれを阻止する。
「止めて下さい……あの、伯斗さん? それってどこ情報?」
「はい?」
「そんな事したら下手したら肺炎になるから。 誰がそんな事しろって言ったんです?」
「……琥牙様の母上ですが。 私たちには人間の体の事は分かりませんので」
……虐待なの?
琥牙ってばお母さんに虐待されてたの?
「私が琥牙を看ます。 泊斗さんは何もしないで!」
目に涙を溜めて訴える私に泊斗さんはたじろいだ様子だった。
「琥牙は私に任せていただけませんか? どうか」
「……真弥どのがそう仰るのなら。 ですが、様子を見に来るのは許していただけますか?」
いいですけど、彼には絶対触らないで、指一本触れないで。 そう言う私に気圧されてでは今晩の所はお暇します、と伯斗さんが引き下がった。
「雪牙様と違い琥牙様は昔からこうなのです。 ですから私たちの間では琥牙様は人の血で弱くなってしまったと言われているのですよ。 実際に姉上様はじめ混血の女性は皆短命でしたし」
「……………」
伯斗さんが出て行ったあとに救急箱やタオルなどを出して看病の体制を作る。
服は迷ったが、目が覚めた時に着替えてもらう事にした。 冬場ではないから大丈夫だろう。
お昼に出したフルーツの余りがあったので、水と少しの塩を混ぜて吸収の良い飲み物を枕元に置いておいた。
「琥牙……起きれる? 水分取って」
「……………ん」
朦朧とした様子の琥牙が少しそれを口にしてまた体を横たえる。
ぺたりとおでこに冷えピタを貼ってそんな彼を見詰め、やがて琥牙が薄っすらと目を開いた。
「寝てて……いいの?」
「むしろ寝てなきゃ。 熱が38度超えてるよ。 39度超えたら病院いこ」
「向こうではそういう時こそ鍛えなきゃって水ごりとかさせられてたんだけど……」
「しないで。 お願いだから」
「ごめんね。 最近平気だったから大丈夫かと思ってたんだけど。 真弥…… 何でそんなに悲しそうなの?」
「心配だからに決まってるでしょう」
「弱い者は淘汰されていなくなる。 普通の事だよ」
それならなんで私の所に来たの?
伴侶を得て子供さえ作れればいいって、琥牙もそう思ってたの?
色んな言葉が出かけたけど、全部飲み込んで唇を噛み締める。
指先で彼の瞼に触れ、そっとその目を閉じさせた。
「休んで……ね?」
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