うっかり拾った人ならぬ少年は私をつがいにするらしい。

妓夫 件

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月色の獣

序2

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「ああ、けれど。 私たちの始祖であるかの方は、月と見誤らんばかりの輝く白銀の毛並みであったと聞き及んでおります」


『月と見誤らんばかりの白銀』


夢に出てきたあの狼はそうではなかったか。


「始祖というと、人の女性と結ばれたという……」

「それもご存知で。 ええ、そうです。 ただ、言い伝えの一説によるとあの話は決してよい結末では無かったとも云われております」

「それはどんなものなんですか?」

「何でも御相手の女性が始祖の子供を身篭り産み落としたあと、結局他の人間の男性を愛して里を離れてしまったとか。 それを許せなかった私たちの始祖はそれを追い掛けて結局二人を食い殺してしまったそうです」

「あれにはそんな……続きがあったんですね」


夢見がちな話ではなく、現実はあくまでも厳しかったという事だろうか。

確かにやり過ぎだとは思う。
けれど人間に変わってまで人を愛した狼の気持ちを考えるとそれも胸が傷んだ。


「私たちが自分のつがいに度を超えた執着をするのは、過去の歴史のそんな影響もあるのかもしれませんなあ。 ……とはいえ、これもあくまで現存している言い伝えのひとつに過ぎませんけどね」


実は今日はこれを届けにきたのですよ。 珀斗さんが首元から小さく折った封筒を出して私に手渡してきた。

以前も思ったが彼の首の毛の中はどうなってるんだろうか。


「いいんですか?」


引越しをしてからこっち、琥牙の家からと毎月援助をいただいている。

初めは断っていたが確かに元の所よりも家賃はかかるようになったし、雪牙くんの訪問なども増えて出費がかさんでいたのは確かだった。




「受け取っていただかなければ私が琥牙様の母上からお叱りを受けてしまいます。 琥牙様のご実家は母上様を中心に珍しい野草などの農業を営んでおりますし、里では以前お渡しした鉱物などの採掘の収入もあるのですよ」


緑豊かな場所に珍しい資源。
そんな所に人の手入れが入ってないのも不思議な話だが、その度に里の狼たちが巧妙に立ち入りを阻止していると聞いた。

のどかで美しいところなんだろうと思う。


「……いつかそこに訪れてみたいですね。 許されるならば、ですけど」

「是非とも。 うちは人間の出入りには厳しいですが、真弥どのでしたら皆きっと歓迎するでしょう。 琥牙様の母上も大層真弥どのに興味を示しておられましたよ」


目を細めふふ、と笑いを漏らした珀斗さんがすっと立ち上がった。


「では私はこれで。 あまり長居すると琥牙様に叱られてしまいますからな」

「あの、珀斗さん」


なんです? 振り向いてそう瞳で聞き返してくる彼はすでにバルコニーの外に片脚を掛け外に出る所だった。


「もし。……もし万が一琥牙が私のせいで人を傷付ける様な事があったら、どうか止めていただけませんか?」


「それは、どういう……」


言いかけて私の表情を見、彼が僅かに視線を外す。


「それは……お約束いたしかねます。 母が子を守る事や寝食と同様に、それは私たちに根差した本能ですから」

「…………」




「けれど、そうですね。 真弥どのの頼みでしたら、努力いたしましょう。 くれぐれもそのような事のないように願っておりますが。 ……近頃の琥牙様の成長は著しい。 この老狼でどこまでお役に立てるか」


そう言って珀斗さんは口元だけでと微笑んだあと、身を躍らせて外の枝々を伝い私の視界から消えていった。


彼と共にゆく事に対して私はなんの迷いもない。
彼を傷付ける気ももちろんない。
裏切る気も。


ただ。

『真弥を取られる位ならおれは相手を殺すと思う』

『お二人を食い殺してしまったそうです』


自分たち以外の第三者にも向けられるという彼の……彼らのその熾烈さに限っては、私には迎合出来そうにもない。



顔を上げて時計に目を向けると、いつも起きる時間よりも大分過ぎてしまってる事に気付いた。

気を取り直して洗面所に向かう。


「……さっさと会社に行く用意しなくっちゃ」



 
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