死神の鎮魂歌

田華一真

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プロローグ

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どうも皆様お初にお目にかかります。本日のご来場、心より感謝申し上げます。

当劇場『物語を紡ぐ館』へようこそお越しくださいました。

こんな古びた劇場に足を運んでくださる皆様ですから、きっと生粋の物語好きなんで御座いましょうね。

いやいや、今日の物語はきっと満足して頂ける事でしょう。



おっと、失敬。

申し遅れておりました。

私、この劇場の支配人をしております鵜瀬うぜと申します。

以後、お見知り置きを。



さて、今日皆様にお聴かせします物語は、とある数奇な運命を辿る事になった男と女が織り成す物語でございます。

ミステリーと言っても、様々な種類、多様な展開がございますから、皆様の感じ方や好みも違う事でしょう。

更に言いますと、今回の物語は少し癖が強い方かと。

好みに合わない等、多少なりあるかと存じますが、どうかご容赦頂けると幸いで御座います。



この物語の主人公は鳥栖という一人の女と、拓也という一人の男。

概ねこの二名で綴られております。

鳥栖は、所謂、殺し屋で御座います。

その腕前は裏稼業の間でも名の知れた凄腕で、同業者からも死神と恐れられる程の仕事ぶりだったそうですよ。

鉄の心臓を持っており、冷静沈着な性格だとか。



決まった標的は確実に死へ誘い、そして、ごく自然に亡くなったように見せる。そんなチリも残さない完璧な仕事をこなすそうです。

何とも恐ろしい話ですね。

夜道など、人気の少ない所では決して会いたくないものです。



一方で、その見た目はそれはそれは美しくどんな男でも手玉に取ってしまうそうです。

そんな話を聞いてしまうと、一度この目で拝んでみたいものです。

ですが、私、まだ死にたくありませんので。

ここは堅忍不抜でなくてはなりませんな。
 
嘘か真か、色仕掛けで男を殺す事もしばしばあったとか。

益々、恐い女で御座います。



そんな鳥栖に対しまして、拓也はと言いいますと、一言で表すとすれば、真っ直ぐな男、で御座いますかね。

とにかく純粋、ピュア。

それ故、非常に繊細で傷付きやすい性格の持ち主だそうです。

この男は、音楽で成功する事に心を燃やしておりましたが、全く上手くいかないんですね。

音楽をこよなく愛してはおりますが、肝心な音楽からは愛されなかったようで。

そして、鳥栖の標的でもあるんです。

また、この男、音楽以外には全くと言っていい程興味がないんですよ。

鳥栖という絶世の美女が目の前に現れても、誘惑に負ける事がないんですから驚きです。

目の前にそんな女性が現れたら、恋に落ちるのが世の男でございますから。

いや、改めて非常に純真な男です。



そのせいでですね、この鳥栖がです。この女がこの男を殺す為に、様々な方法を模索していくのですか、これがまた中々上手くいかず……おっと。

これ以上話してしまうと、皆様の楽しみを奪ってしまうところでした。

これはこれは。大変失礼致しました。

私、些か時期尚早で御座いました。



では、大変お待たせ致しました。

最初の物語は、拓也が予期せぬトラブルに見舞われる日の午前中からスタート致します。

鳥栖と拓也の行末、この二人がどうなっていくのか。

どうぞ、お時間の許す限り、ご堪能くださいませ。
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