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煽れば尊し

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 義母や義妹は適当にあしらっておけばいいけれど、父の指示に逆らうのは私の立場では難しい。
 迫り来るコルセットから逃れる方法を死に物狂いで考えた。脳細胞をギュインギュイン回して、何なら夢の中でコルセット型モンスターに襲われる悪夢まで見た。

 そうして迎えた朝。

「なんっも思いつかないわ」

 そうだ、現実逃避をしよう。

 ちょうど油に浸けていた薬草がいい感じで仕上がっているのだ。考え事をするときには何か作業をしながらのほうがアイディアが思いつくこともあると言うし、気晴らしに軟膏作りをするのもいいだろう。

 そうと決まれ必要な道具を持って厨房まで移動しよう。蜜蝋を溶かすには火が必要だからね。

 気を取り直して庭に出ると、義妹に遭遇した。
 面倒事は重なるものである。

「あ~ら、セシリアお姉様。お久しぶりですわ。相変わらず見窄らしい姿で、とてもお似合いですこと」

「ありがとう。アリシアもドレスがよく似合っているわ」

 久しぶりに見た義妹はなんだかやつれていた。最初にあったときはふわふわのストロベリーブロンドで、性格はともかく見た目は美少女だったのに。
 田舎で伸び伸び育った義妹には、窮屈なコルセットに劇重のドレスで礼儀作法の厳しい社交はとても辛いだろう。

 王都の上級貴族への憧れだけでいつまで持つかしらね?

「私は侯爵家にお招き頂いて、これからお茶会ですの。お姉様はどちらに?」

「厨房よ」

「あらぁ、残飯でも漁るの? とってもお似合いだわ。お姉様にお茶会は似合いませんものねぇ」

「私もそう思うわ」

 いいこと言うなあ! 義妹よ。そう、私にお茶会は似合わない。夜会も似合わない。そんなブラック労働は全部あなたに丸投げしたい。
 全力で義妹の発言に同意したら、何故か不審がられた。

 そうだ、この子がお父様を説得してくれないかしら。

「私にお茶会は似合わないけれど、お父様からあなたと一緒に社交するように手紙が来たの」

「なんですって!?」

「新しくドレスを仕立てるためのお金も頂いたわ。プリセアナ商会の最新の流行のドレスよ。そのお古と違ってね」

 義妹の顔が怒りで歪む。

「私はお姉様と社交なんてイヤよッ!」

「ならお父様に言って。お父様からの指示だもの」

 顔を怒りで赤くした義妹は思い切りフンッ、と顔をそらして去っていく。
 さあ存分に抗議するといい。これなら「わたくしはぁ~、お父様のお言いつけ通り社交を頑張ろうと思ったんですけどぉ~、セシリアが嫌がるからムリですぅ~」って体で断れる。

 ついでにお父様を説得するダメ押しの方法も思いついた。
 本当に義妹は私の救いの女神だ。今度端切れで作ったスウェットもどきでも送ってあげようかな。
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