39 / 230
第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
40、狡猾な王子と無骨な騎士4
しおりを挟む
「え! ダンスから見ていらっしゃったのですか?」
「ああ、もっと前……会場入りした時から見ていた。生憎二階席の警備だったから声はかけられなかったんだが……。ダンスが上手で驚いたよ」
「一応、練習しましたから」
少し得意げに笑ったオリビアに対して、リアムの表情が寂しげに曇った。
「でも、本当は私が最初に君と踊りたかった」
「リ、リアム様……」
王への書簡も送っていない状況では婚約も発表できず仕方ない。とはいえオリビアにとっても彼にそう思わせてしまったことが残念であり、なんだか申し訳なく思った。
オリビアが眉根を寄せリアムの顔を覗き込むと、彼は首を横に振った。
「くだらない嫉妬だ。気にしないでくれ。それより、週末の休みに私の家へ来てくれないか? 父に挨拶して陛下に書簡を送って貰うよう手配したいんだ」
「え! リアム様の、アレキサンドライト領へですか?」
「そうだ。どうやら君は放っておくと危ないし、ジョージもあの調子だしな」
リアムが一回の広場に視線を移す。いまだにジョージは複数の女生徒たちに囲まれていた。よく見ると来賓の女性陣も数名混ざっている。
「そ、そんな、今回はたまたま殿下が経営に興味があったからお声がかかっただけですわ」
「自分のことをわかっていないんだね。婚約者という贔屓目なしに美しいと思うよ、オリビア嬢」
「私が……ですか?」
「ああ。だから心配なんだ。一緒に学院には通えないし、せめて婚約を発表して周りを牽制したい。格好悪いけどそう思っている。あなたを独占したいんだ」
オリビアは馬車の中でのジョージの言葉を思い出した。途端に首から上が真っ赤に染まる。
「あ、それでは、次の週末は……リアム様のお屋敷にお伺いいたします」
オリビアなりに勇気を出した言葉だった。
緊張に震え、その声は少し上擦った。リアムの方を横目でこっそり見てみると、彼の頬は上気しており、喉が渇いたのかごくりと喉を鳴らしていた。
それから、深呼吸をしている。まるで緊張しているようだとオリビアは思った。
すると突然オリビアの手の甲に温かい何かが重なった。
「オリビア嬢、あまり挑発しないで。あなたの事となると自分を抑える自信がないから」
「リ、リアム様……」
重なったのはリアムの手だった。さらに彼は指を絡ませてきた。そして、僅かに眉を下げ困ったように笑って見せた。
オリビアは顔だけではなく、触れ合っている手も熱くなる。胸の鼓動がさらに早まるのを感じた。ダンスの際、レオンの手をとるときも緊張はしたが、顔や触れ合った箇所が熱くなるような感覚はなかった。
オリビアにとってその感覚は、リアムだけがもたらすものだった。
「オリビア嬢、週末は我が領でお待ちしています」
「はい。よろしくお願いいたします……」
リアムの深い緑の瞳が、真っ直ぐにオリビアを見つめる。酒は一切飲んでいないはずなのに、オリビアはさらに顔が熱を持ち、呼吸が苦しくなるくらいに鼓動が早まっていった。
>>続く
「ああ、もっと前……会場入りした時から見ていた。生憎二階席の警備だったから声はかけられなかったんだが……。ダンスが上手で驚いたよ」
「一応、練習しましたから」
少し得意げに笑ったオリビアに対して、リアムの表情が寂しげに曇った。
「でも、本当は私が最初に君と踊りたかった」
「リ、リアム様……」
王への書簡も送っていない状況では婚約も発表できず仕方ない。とはいえオリビアにとっても彼にそう思わせてしまったことが残念であり、なんだか申し訳なく思った。
オリビアが眉根を寄せリアムの顔を覗き込むと、彼は首を横に振った。
「くだらない嫉妬だ。気にしないでくれ。それより、週末の休みに私の家へ来てくれないか? 父に挨拶して陛下に書簡を送って貰うよう手配したいんだ」
「え! リアム様の、アレキサンドライト領へですか?」
「そうだ。どうやら君は放っておくと危ないし、ジョージもあの調子だしな」
リアムが一回の広場に視線を移す。いまだにジョージは複数の女生徒たちに囲まれていた。よく見ると来賓の女性陣も数名混ざっている。
「そ、そんな、今回はたまたま殿下が経営に興味があったからお声がかかっただけですわ」
「自分のことをわかっていないんだね。婚約者という贔屓目なしに美しいと思うよ、オリビア嬢」
「私が……ですか?」
「ああ。だから心配なんだ。一緒に学院には通えないし、せめて婚約を発表して周りを牽制したい。格好悪いけどそう思っている。あなたを独占したいんだ」
オリビアは馬車の中でのジョージの言葉を思い出した。途端に首から上が真っ赤に染まる。
「あ、それでは、次の週末は……リアム様のお屋敷にお伺いいたします」
オリビアなりに勇気を出した言葉だった。
緊張に震え、その声は少し上擦った。リアムの方を横目でこっそり見てみると、彼の頬は上気しており、喉が渇いたのかごくりと喉を鳴らしていた。
それから、深呼吸をしている。まるで緊張しているようだとオリビアは思った。
すると突然オリビアの手の甲に温かい何かが重なった。
「オリビア嬢、あまり挑発しないで。あなたの事となると自分を抑える自信がないから」
「リ、リアム様……」
重なったのはリアムの手だった。さらに彼は指を絡ませてきた。そして、僅かに眉を下げ困ったように笑って見せた。
オリビアは顔だけではなく、触れ合っている手も熱くなる。胸の鼓動がさらに早まるのを感じた。ダンスの際、レオンの手をとるときも緊張はしたが、顔や触れ合った箇所が熱くなるような感覚はなかった。
オリビアにとってその感覚は、リアムだけがもたらすものだった。
「オリビア嬢、週末は我が領でお待ちしています」
「はい。よろしくお願いいたします……」
リアムの深い緑の瞳が、真っ直ぐにオリビアを見つめる。酒は一切飲んでいないはずなのに、オリビアはさらに顔が熱を持ち、呼吸が苦しくなるくらいに鼓動が早まっていった。
>>続く
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです
珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。
その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~
卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」
絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。
だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。
ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。
なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!?
「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」
書き溜めがある内は、1日1~話更新します
それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります
*仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。
*ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。
*コメディ強めです。
*hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
この度、青帝陛下の運命の番に選ばれまして
四馬㋟
恋愛
蓬莱国(ほうらいこく)を治める青帝(せいてい)は人ならざるもの、人の形をした神獣――青龍である。ゆえに不老不死で、お世継ぎを作る必要もない。それなのに私は青帝の妻にされ、后となった。望まれない后だった私は、民の反乱に乗して後宮から逃げ出そうとしたものの、夫に捕まり、殺されてしまう。と思ったら時が遡り、夫に出会う前の、四年前の自分に戻っていた。今度は間違えない、と決意した矢先、再び番(つがい)として宮城に連れ戻されてしまう。けれど状況は以前と変わっていて……。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる