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第二章 王都にお引越し! クラスメイトは王子様
59、シルベスタクッキングスタジオ2
しおりを挟む「そんなつもりないわよ!」
怒りで顔を赤らめるオリビアに対し、ジョージは至って冷静いや冷徹とも言える視線を返した。
理由はきっと試作品の毒見係が彼自身だったからだろうとオリビアは納得した。十回ほどトーマス医師の世話になった後、ジョージに毒の耐性ができたと聞いた時は正直気まずかった。
そんなオリビアとジョージの小さな舌戦には気づかず、シルべスタが生徒たちに開始の合図をする。
「それでは調理開始!」
合図と共に、生徒たちは各自調理を開始するため卵を手に取っていた。オリビアも卵を手に取り、ボウルの中に割り入れる。
「さて、どうしようかしら」
割ったはいいが、なんの料理を作るべきか考えあぐねていると、オリビアの調理台に数名の生徒が集まってきた。
「オリビア様、今一体何を? どうやって卵の中身を出したのですか?」
集まったうちの一人は先日レオンと一緒にランチをしたソフィー・トルマリンだった。
彼女は何が起こったにかわからず食い入るように生卵の入ったボウルを覗き込んでいた。他の生徒たちも同様の反応だった。
オリビアは圧倒されつつ、彼女たちに卵の割り方を説明する。
「はい、卵の殻を割って中身を取り出し、調理の準備をしていたのです」
オリビアの発言に、ソフィーやその他の生徒たちが目を見開いている。かなりの衝撃だったようだ。
「わ、割る? 卵は割って使うのですか!」
「え、ええ、そのまま茹でる事もありますが、やはり食べる時には殻を外します」
彼女たちは今まで一体ゆで卵の殻をどうしていたのだろうという疑問が湧いたが、オリビアは引き続き彼女たちに卵の割り方を説明することにした。
クラスメイトとの交流は大事だ。卵を一つ手に取り、笑顔を見せる。
「実際にやってみますね。まずは卵のこの真ん中を平らなところに打ち付けます。すると、このようにヒビが入ります」
オリビアが調理台に卵を打ち付けて見せると、ソフィーやその他の生徒たちは「おお……」と卵に入ったヒビに注目した。
卵ごときにと思い恥ずかしくなってきたが、続けて卵の割れ目に両手の親指を当てて卵を持ち、それを左右に開いた。
「こうして左右に開くと……このように、卵の中身をきれいに取り出すことができます」
割れた殻から、卵の中身が出てきてボウルに落ちた。その瞬間、オリビア周辺で拍手喝采が沸き起る。
「す、素晴らしいです! さすがはオリビア様!」
ソフィーが無駄に持ち上げる。周りで見ていた生徒たちも頷きながら拍手をしていて、今度はそれを見ていた他の生徒がオリビアを囲んだ。
「クリスタル様、私たちにも見せていただけないかしら?」
「はい、かまいませんが……」
こうして、気がつけばオリビアは卵の割り方をクラスメイトのほとんどに教えることになった。教え終わった頃には授業も終わりが見える時間となっていた。
(どうしよう、結局何作るかさえ決まっていない……)
ふと隣の調理台を見ると、涼しい顔をしたジョージが自分の使った調理器具を洗っていた。調理開始の時から姿が見えなかったが、どうやら真面目に調理をしていたようだ。
目が合うと、彼はよく同僚や主人をからかうときの意地悪な笑みを浮かべた。オリビアの進行状況が思わしくないのに気づいているのだろう。若干不快に感じた。
「ジョージ、もう終わったの?」
「はい。今は仕上げ中ってとこですね」
「そ、そう……」
オリビアはジョージが手伝いを申し出てくれるかと思っていたが、彼は調理器具を洗ってオーブンを眺めている。
仕方がないのでボウルの中の卵を見つめ、アイデアが湧くのを待った。
「あと五分で終了するぞー! 各自仕上げに入るように」
シルべスタが教室中に聞こえるように大きな声で仕上げを促した。
本来であればゆっくりと少し掠れたその声を堪能したいところだったが、そんな余裕はない。
オリビアは刻一刻と迫るタイムリミットに焦りながら、必死に考えを巡らせていた。
(ああ、もう時間がないわ……あ!)
オリビアはボウルの中の卵を見つめながら、不気味な笑みを浮かべた。
ついに閃いたのだ。
隣の調理台から、ジョージが眉間に皺を寄せ不安そうな視線を送っていたが、オリビアはただ不気味な笑みを返すだけだった。
>>続く
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