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第五章 交差する陰謀
136、従者たちの明暗2
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兄からの質問に、ついにきたか、とオリビアは思った。
耳飾りにどういう力が込められているのかはエリオットにも話している。しかし、彼にそれを渡すわけにはいかなかった。
オリビアはお茶を飲み、鼻から息を吐き兄をまっすぐに見据えた。
「はっきり申し上げますわね。危なっかしいからでございます」
「え?」
「お兄様はすぐに物をなくす、転倒などの事故で壊す、うっかり人前で使ってしまう、その他諸々……情報漏洩などの危険があるのです」
「うっ!!」
「あとは、そこまでお兄様に緊急の連絡事項はなさそうですから」
エリオットが目の前でうなだれている。全てが日頃の行いからくるものなので反論もできないのだろう。彼は数秒後、そっと席を立った。
「もう寝る。みんなおやすみ……」
エリオットは俯いたまま歩き出し、オリビアの部屋を出ていった。
その後、オリビアはリタに手伝ってもらいながらにジョージを部屋から追い出し、セオを見送った。そして、寝支度を始める。寝巻きに着替え、リタに髪の手入れを任せた。
「今日は移動が多くて疲れたわね。本当はもう一泊したいところだけど、学校があるから明日帰らないと。リタはもしゆっくりしたかったら何日か滞在してもいいのよ? ジョージがきたから連れて帰ればいいし」
「いいえ、私も一緒に王都に戻ります」
「そう。わかったわ」
「あの、オリビア様……」
一定のリズムで髪を解いていたリタの手が止まった。オリビアは首を後ろにひねる。
「どうしたの? 何か悩み事?」
「え……」
「ここ何日か、悩んでいるようだったから」
オリビアは気づいていた。デートの日から彼女が嬉しそうに柔らかな表情を浮かべたり、眉を寄せ何かを考え込むのを繰り返していることに。おそらくエルのことだろうとも思っていた。
「実は、エルのことなのです」
「そう」
リタが先日、オリビアたちが来店する前の出来事をゆっくりと説明した。オリビアはそれを聞きながら、何度も相槌を打ち頷いた。
「オリビア様は、ジュエリトスで見た目や人種に関わらず、人目を気にせず自由に外を歩ける場所に心当たりはありますか? エリオット様はオリビア様に聞くといいとおっしゃっておりました」
「ええ、心当たりがあるわ」
「それは、一体どこでしょうか?」
オリビアの答えに、リタが食いつくように問いかけてくる。
家族同然の彼女が他人と真剣に関わろうとしていること、本気の恋愛感情を持ち始めていることに嬉しさが込み上げる。
「ねえリタ、あなたが普段人目を気にせず自由に歩ける場所はどこかしら。そしてそこならどんな店にも臆せず自由に入れる……そんな場所」
「私が……」
リタが数秒斜め上を見て思案したのち、「あ!」と言って眉を上げ、目と口を開いた。オリビアは白い歯をわずかに出し、イタズラに笑う。
「お兄様に言われなかった?「エルに会ってみたい」と」
「言われました……。ヒントだったのですね」
「まあ、本当に会ってみたいということでもあると思うわ」
「オリビア様、ありがとうございます」
リタが大きく深呼吸をしてから、再びオリビアの髪を解き始める。
ブラシが通る一定のリズムに心地よさを感じながら、オリビアはうっとりと目を閉じ、リタとエルが笑顔で並び歩く姿を思い浮かべた。
>>次話へ続く
次回はまた王都に戻ります!
引き続きよろしくお願いします♪
耳飾りにどういう力が込められているのかはエリオットにも話している。しかし、彼にそれを渡すわけにはいかなかった。
オリビアはお茶を飲み、鼻から息を吐き兄をまっすぐに見据えた。
「はっきり申し上げますわね。危なっかしいからでございます」
「え?」
「お兄様はすぐに物をなくす、転倒などの事故で壊す、うっかり人前で使ってしまう、その他諸々……情報漏洩などの危険があるのです」
「うっ!!」
「あとは、そこまでお兄様に緊急の連絡事項はなさそうですから」
エリオットが目の前でうなだれている。全てが日頃の行いからくるものなので反論もできないのだろう。彼は数秒後、そっと席を立った。
「もう寝る。みんなおやすみ……」
エリオットは俯いたまま歩き出し、オリビアの部屋を出ていった。
その後、オリビアはリタに手伝ってもらいながらにジョージを部屋から追い出し、セオを見送った。そして、寝支度を始める。寝巻きに着替え、リタに髪の手入れを任せた。
「今日は移動が多くて疲れたわね。本当はもう一泊したいところだけど、学校があるから明日帰らないと。リタはもしゆっくりしたかったら何日か滞在してもいいのよ? ジョージがきたから連れて帰ればいいし」
「いいえ、私も一緒に王都に戻ります」
「そう。わかったわ」
「あの、オリビア様……」
一定のリズムで髪を解いていたリタの手が止まった。オリビアは首を後ろにひねる。
「どうしたの? 何か悩み事?」
「え……」
「ここ何日か、悩んでいるようだったから」
オリビアは気づいていた。デートの日から彼女が嬉しそうに柔らかな表情を浮かべたり、眉を寄せ何かを考え込むのを繰り返していることに。おそらくエルのことだろうとも思っていた。
「実は、エルのことなのです」
「そう」
リタが先日、オリビアたちが来店する前の出来事をゆっくりと説明した。オリビアはそれを聞きながら、何度も相槌を打ち頷いた。
「オリビア様は、ジュエリトスで見た目や人種に関わらず、人目を気にせず自由に外を歩ける場所に心当たりはありますか? エリオット様はオリビア様に聞くといいとおっしゃっておりました」
「ええ、心当たりがあるわ」
「それは、一体どこでしょうか?」
オリビアの答えに、リタが食いつくように問いかけてくる。
家族同然の彼女が他人と真剣に関わろうとしていること、本気の恋愛感情を持ち始めていることに嬉しさが込み上げる。
「ねえリタ、あなたが普段人目を気にせず自由に歩ける場所はどこかしら。そしてそこならどんな店にも臆せず自由に入れる……そんな場所」
「私が……」
リタが数秒斜め上を見て思案したのち、「あ!」と言って眉を上げ、目と口を開いた。オリビアは白い歯をわずかに出し、イタズラに笑う。
「お兄様に言われなかった?「エルに会ってみたい」と」
「言われました……。ヒントだったのですね」
「まあ、本当に会ってみたいということでもあると思うわ」
「オリビア様、ありがとうございます」
リタが大きく深呼吸をしてから、再びオリビアの髪を解き始める。
ブラシが通る一定のリズムに心地よさを感じながら、オリビアはうっとりと目を閉じ、リタとエルが笑顔で並び歩く姿を思い浮かべた。
>>次話へ続く
次回はまた王都に戻ります!
引き続きよろしくお願いします♪
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