青が溢れる

松浦どれみ

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第9話 初めての寄り道

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「おはよう、美蘭!」
「おはよう、空」

 翌日、美蘭と空はいつものように校門で待ち合わせ、教室へ向かった。

「空くーん!」

 校舎へ入る寸前、背後から女子の高い声が聞こえた。美蘭と空が同時に振り返ると、そこには同じクラスの坂井が立っていた。走って追いかけてきたのか息が上がっている。
 美蘭は昨日まで坂井が「青柳くん」と呼んでいたのに、今日になって「空くん」と呼んでいることに違和感を覚えた。しかし、昨日から思考がネガティブになっている気がして、その違和感の原因については深く考えないようにした。

「おはよう、坂井さん」
「おはよう! 青山さんもおはよう」
「おはよう」

 三人は挨拶を交わし歩き出す。
 すると「昨日楽しかったね」と酒井が話し、空も「そうだね」と話しながら二人が並んだ。美蘭は無言で二人の後をついていく。

「「おはよう!」」

 教室に入るや否や、三人は「子供カップルと保護者みたい」と何人かの生徒にからかわれた。
 今日の美蘭は受け流すことができず、居た堪れない気持ちになって俯いた。その直後に、教室内にいた五十嵐が窓際から歩いて美蘭の隣に立つ。

「青山が保護者なんじゃなくて、青柳と坂井が小学生みたいだろ」
「あ、確かにそうかも」

 からかったうちの一人が同意すると、坂井が頬を膨らませて反論した。

「ちょっと、みんなひどいよ」
「でも可愛いカップルって感じでお似合い」

 女子生徒の一言に、坂井は目尻を下げてまんざらでもない様子だった。空が否定も肯定しない。何か別なことを考えているのか、途中からみんなの声が聞こえていないようだ。
 美蘭はこの状況に、心の中がざわつくのを感じた。

 昼休みになって美蘭は空と話すのを楽しみにしていたが、彼の前の席の坂井が振り向いて会話に混ざってくる。
 内容は主に昨日の話なので美蘭はあまりついていけず、その度に申し訳なさそうに空がその時の状況を説明してくれた。それがなんだか余計にその場に居づらくなってしまう。
 気を遣ってくれたのか、隣の梅田が美蘭に話しかけ、卵焼き用の弁当箱を指差した。

「ねえ、青山さん。いつもお弁当だよね。特に玉子焼きが美味しそう」
「梅田さんも玉子焼き推しか。空も好きだからお母さんいつも張り切ってたくさん用意するの」
「そうなんだ」

 美蘭が「食べる?」と弁当箱を差し出すと、梅田が食べて「おいしい」と微笑んだ。

「あ、今日もマック寄るけど青山さんも来られる?」
「うん、今日は行ける」

 梅田のからの誘いに美蘭は間髪入れずに頷いた。予定が空いていたのも誘ってもらえて嬉しかったのも理由ではあるが、何より空との会話に混ざれないことが嫌だった。

「坂井ちゃん! 今日青山さんも来るから。あとさっきから昨日の話ばっかで青山さん全然ついていけないと思うけど」
「え! そうだよね! ごめん青山さん」
「ううん、気にしないから」

 梅田に指摘され、坂井は美蘭の方に顔を向けて両手を合わせ、目をぎゅっと閉じていた。美蘭は軽く手を振ると、今度は空が「ごめんね」と眉を下げて上目遣いで顔を覗き込んできた。彼の瞳は若干潤んでいて、泣いてしまうのでは心配になるほど不安そうな表情をしていた。
 美蘭は空の頭にそっと手を置き「空も気にしなくていいんだよ」と安心させるように優しく撫でた。

「ええ! 青山さんイケメンだよそれ」
「あ、ごめん。中学の時に友達とかにやってた癖でつい」

 坂井が顔を赤らめて目を見開き、驚いた様子で空と美蘭を見ている。美蘭は自分と周りの文化の違いに気づいて慌てて空から手を離した。

 そして放課後、美蘭はクラスメイト数名と学校の最寄駅に近いファストフード店に入った。

「美蘭! こっち」
「うん」

 注文をしてからトレーを受け取り、呼ばれるまま空の隣に座ろうとすると、他のクラスメイトに阻止される。

「ちょっと待った!」
「二人一緒にしたらクラス内交流できないでしょ」

 そう言われて美蘭は空から一番離れた場所に座ることになり、梅田や他の女子たちと世間話をして過ごした。その間、ちらちらと坂井と話す空の姿が目に入った。

「ただいま」
「おかえり、美蘭! 今日はどうだった?」
「みんなでマック行った」
「あら、よかったじゃない!」

 帰宅後、初めての寄り道に母の声色は明るく嬉しそうだ。
 美蘭は返事もそこそこに自室に戻り、着替えて今日はベッドを背もたれの代わりにして床に座る。

「空と話したかったな……」

 クラスメイトたちとも馴染めたことは本当に嬉しかったが、その分空と話す時間が減ってしまったことが美蘭は寂しくて仕方がなかった。
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