8 / 13
第8話 離れる寂しさ
しおりを挟む
「おはよう、美蘭!」
「おはよう、空」
翌日、美蘭が心配しながら学校へ向かうと、空はいつもの明るい笑顔で校門の前に立っていた。一晩経って気持ちが落ち着いたのだろうと美蘭は安堵の息を漏らした。
二人でいつものように教室に入り、朝のホームルーム開始まで空と談笑していると、前方の席の女子が美蘭を呼んだ。
「青山さーん、二年の人が呼んでるよ」
「え? 私?」と美蘭が自分を指差すと「うん」と返事が返ってきたので、美蘭は
「わかった」と返事をして席を立ち、後方の入り口から教室を出る。
前方の入り口前には、上級生と思われる女子生徒が立っていた。
「青山美蘭さん?」
「はい」
「私はバスケ部二年の小宮山です。突然ごめんね。あなたにぜひバスケ部に入部してもらいたいと思って」
明らかに迷惑そうに顔を歪めた美蘭に、小宮山はさっさと本題を告げた。美蘭は頭を下げて丁重に断り、教室に戻った。
席に着くと、早速空が様子を伺ってくる。
「美蘭、なんだったの?」
「ああ、バスケ部に入らないかって」
「スカウトってこと?」
「そうみたい。断ったけど、また来る感じだった」
中学の頃は棒高跳びに集中したいと言えば断れたが、あの様子だと帰宅部で競技もしていないことはバレているだろう。面倒ごとが増えたと美蘭は気が重くなり、視線を床に落として俯いた。
すると、空はその気持ちを察した様子で美蘭の顔を覗き込んだ。
「じゃあさ、今日は見つからないとこ行こう?」
「え?」
美蘭が目を合わせると、空はにっこりと優しく微笑んだ。
昼休みになり、空は美蘭の腕を引いて教室を出た。向かった先は保健室だ。
「あら、あなたたち。どうしたの?」
「すみません、ちょっと避難させてください」
久しぶりに戻ってきた二人を見て、養護教諭の井上は驚いてるようだった。簡単に状況を説明し、机の使用許可をもらい、昔のように向かい合って座って弁当を食べる。
もうここへ戻ってはいけないことはわかっていたが、美蘭は向かいに座る空の笑顔を見ながら、懐かしさが溢れ心が温まった。
保健室から戻ると、美蘭の左隣から梅田が声をかけた。
「青山さん、バスケ部とバレー部の先輩が来てたよ」
「え……」
なぜかバレー部も増えていることに、美蘭は恐ろしくなって顔が引き攣った。断るのが面倒そうで憂鬱になる。
「向いてそうだけど、やりたいかどうかは別だよね。私も背が高いだけなのに四月はけっこうしつこくされて困ったもん」
「そうだったんだ……」
美蘭は困ったような顔で当時の話をする梅田に、やっぱり厄介なのかと項垂れた。それを見た梅田は美蘭の顔を覗き込んで話を続けた。
「もししつこかったら、担任に言うといいよ。他学年のクラスに行かないように学校全体に注意してくれるから。見張りも来てくれるしね」
「ありがとう、梅田さん。ていうか隣の席だったんだね」
美蘭は礼を言いながら、つい頭の中に浮かんだことを口に出してしまったことに気づいた。梅田が苦笑いをしているからだ。
「うん。青山さんは青柳くんの方ばかり見てるからね」
「ご、ごめん……」
美蘭は申し訳ない気持ちと空に依存している自分が恥ずかしいという気持ちでいっぱいになり、顔を赤らめ肩を小さく丸めた。
「別にいいよ。けど、たまには私とも話そう」
爽やかに笑う梅田に、美蘭は笑顔で「うん」と頷いた。
放課後になり美蘭が帰り支度をして席を立とうとすると、梅田に引き止められた。
「青山さん、これから坂井ちゃんたちとマック行くんだけど一緒にどうかな?」
「え? 私も?」
「うん、もちろん青柳くんも一緒に」
坂井もこちらを見て「行こう」と声をかけてくれた。美蘭はこんなこと初めてで嬉しかったが、同時にタイミングの悪い自分に嫌気がさした。
「行きたいけど、私、今日病院なんだ。ごめん」
「じゃあまた誘う」
美蘭が残念そうに断ると、それが伝わったのか梅田が優しく微笑んだ。そして、次に「青柳くんは?」と空に声をかけた。
「僕は行こうかな」
「やった! 青柳くん初参加!」
空の返事に、坂井が軽く拍手をして彼の参加を喜んだ。美蘭は席を立ち鞄を手に取った。
「また明日ね、美蘭」
「うん、また明日」
美蘭は笑顔で手を振る空に軽く手を振り返して教室を出た。寄り道に参加できないことや病院が憂鬱なせいか、今日は空と離れて一人になるのが恐かった。
◇◆◇◆
「はあ……」
病院での診察を終え帰宅した美蘭は、着替えてベッドに転がり、医師に言われたことを頭の中で反すうしていた。
「青山さん、体育は休む必要はないですよ。むしろ少し体を動かしたほうがいい。リハビリをしたら競技に戻ったり、他のスポーツを本格的に始めることもできますよ。精神的に不安であればカウンセリングも検討したほうがいい」
自分が一般的な高校生としてはすでに健康体であることはわかっていた。目を背けていた自分の問題に直面し、美蘭は無性に空に会いたくなった。
「おはよう、空」
翌日、美蘭が心配しながら学校へ向かうと、空はいつもの明るい笑顔で校門の前に立っていた。一晩経って気持ちが落ち着いたのだろうと美蘭は安堵の息を漏らした。
二人でいつものように教室に入り、朝のホームルーム開始まで空と談笑していると、前方の席の女子が美蘭を呼んだ。
「青山さーん、二年の人が呼んでるよ」
「え? 私?」と美蘭が自分を指差すと「うん」と返事が返ってきたので、美蘭は
「わかった」と返事をして席を立ち、後方の入り口から教室を出る。
前方の入り口前には、上級生と思われる女子生徒が立っていた。
「青山美蘭さん?」
「はい」
「私はバスケ部二年の小宮山です。突然ごめんね。あなたにぜひバスケ部に入部してもらいたいと思って」
明らかに迷惑そうに顔を歪めた美蘭に、小宮山はさっさと本題を告げた。美蘭は頭を下げて丁重に断り、教室に戻った。
席に着くと、早速空が様子を伺ってくる。
「美蘭、なんだったの?」
「ああ、バスケ部に入らないかって」
「スカウトってこと?」
「そうみたい。断ったけど、また来る感じだった」
中学の頃は棒高跳びに集中したいと言えば断れたが、あの様子だと帰宅部で競技もしていないことはバレているだろう。面倒ごとが増えたと美蘭は気が重くなり、視線を床に落として俯いた。
すると、空はその気持ちを察した様子で美蘭の顔を覗き込んだ。
「じゃあさ、今日は見つからないとこ行こう?」
「え?」
美蘭が目を合わせると、空はにっこりと優しく微笑んだ。
昼休みになり、空は美蘭の腕を引いて教室を出た。向かった先は保健室だ。
「あら、あなたたち。どうしたの?」
「すみません、ちょっと避難させてください」
久しぶりに戻ってきた二人を見て、養護教諭の井上は驚いてるようだった。簡単に状況を説明し、机の使用許可をもらい、昔のように向かい合って座って弁当を食べる。
もうここへ戻ってはいけないことはわかっていたが、美蘭は向かいに座る空の笑顔を見ながら、懐かしさが溢れ心が温まった。
保健室から戻ると、美蘭の左隣から梅田が声をかけた。
「青山さん、バスケ部とバレー部の先輩が来てたよ」
「え……」
なぜかバレー部も増えていることに、美蘭は恐ろしくなって顔が引き攣った。断るのが面倒そうで憂鬱になる。
「向いてそうだけど、やりたいかどうかは別だよね。私も背が高いだけなのに四月はけっこうしつこくされて困ったもん」
「そうだったんだ……」
美蘭は困ったような顔で当時の話をする梅田に、やっぱり厄介なのかと項垂れた。それを見た梅田は美蘭の顔を覗き込んで話を続けた。
「もししつこかったら、担任に言うといいよ。他学年のクラスに行かないように学校全体に注意してくれるから。見張りも来てくれるしね」
「ありがとう、梅田さん。ていうか隣の席だったんだね」
美蘭は礼を言いながら、つい頭の中に浮かんだことを口に出してしまったことに気づいた。梅田が苦笑いをしているからだ。
「うん。青山さんは青柳くんの方ばかり見てるからね」
「ご、ごめん……」
美蘭は申し訳ない気持ちと空に依存している自分が恥ずかしいという気持ちでいっぱいになり、顔を赤らめ肩を小さく丸めた。
「別にいいよ。けど、たまには私とも話そう」
爽やかに笑う梅田に、美蘭は笑顔で「うん」と頷いた。
放課後になり美蘭が帰り支度をして席を立とうとすると、梅田に引き止められた。
「青山さん、これから坂井ちゃんたちとマック行くんだけど一緒にどうかな?」
「え? 私も?」
「うん、もちろん青柳くんも一緒に」
坂井もこちらを見て「行こう」と声をかけてくれた。美蘭はこんなこと初めてで嬉しかったが、同時にタイミングの悪い自分に嫌気がさした。
「行きたいけど、私、今日病院なんだ。ごめん」
「じゃあまた誘う」
美蘭が残念そうに断ると、それが伝わったのか梅田が優しく微笑んだ。そして、次に「青柳くんは?」と空に声をかけた。
「僕は行こうかな」
「やった! 青柳くん初参加!」
空の返事に、坂井が軽く拍手をして彼の参加を喜んだ。美蘭は席を立ち鞄を手に取った。
「また明日ね、美蘭」
「うん、また明日」
美蘭は笑顔で手を振る空に軽く手を振り返して教室を出た。寄り道に参加できないことや病院が憂鬱なせいか、今日は空と離れて一人になるのが恐かった。
◇◆◇◆
「はあ……」
病院での診察を終え帰宅した美蘭は、着替えてベッドに転がり、医師に言われたことを頭の中で反すうしていた。
「青山さん、体育は休む必要はないですよ。むしろ少し体を動かしたほうがいい。リハビリをしたら競技に戻ったり、他のスポーツを本格的に始めることもできますよ。精神的に不安であればカウンセリングも検討したほうがいい」
自分が一般的な高校生としてはすでに健康体であることはわかっていた。目を背けていた自分の問題に直面し、美蘭は無性に空に会いたくなった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる