12 / 13
第12話 雨降って地固まって
しおりを挟む「おはよう、美蘭」
「おはよう、空。土曜日はごめんね」
週明け、美蘭は校門に着いて早々、まずは空に頭を下げた。メッセージでも連絡はしていたが、やはり直接話したいと思っていた。
空は驚いた様子で「ううん。僕もごめん」と首を小さく横に振った。
「空は悪くないよ。私が悪いの。空に嘘つかせて……本当にごめん。お母さんに全部話したよ。自習室登校のことも、体育ができなかったことも」
「そう」
美蘭の話を空は柔らかい声で相槌を打ちながら頷いていた。校舎に入る前、美蘭は改めて隣にいる空に体を向けて、目一杯の感謝の気持ちを込め、にっこりと笑ってみせた。
「話せてよかった。すごくすっきりしたんだ。体育も出るつもり。もしダメだったら病院のカウンセリングも受けるよ。こう思えたのは空のおかげ。空がいてくれて、教室へ連れてってくれたから。みんなにも馴染めて、勇気が出たんだよ。ありがとう」
「僕だって、美蘭がいたから元気になりたい、手術しようって思ったんだよ。こうして普通の高校生活を送れているのは、美蘭のおかげ。ありがとう、美蘭」
美蘭は空の明るい笑顔と、気を抜くと泣いてしまいそうなくらい嬉しい言葉を噛み締め、そっと上を向いてそれらを飲み込んだ。彼を好きだと気づいた途端、感情の振れ幅が大きくなった気がして少し恥ずかしかった。
教室に着くと紗夜と坂井がすでに登校していて、紗夜の席の前で二人で立ち話をしていた。美蘭が「おはよう」と挨拶すると、紗夜が開口一番に「美蘭、本当にごめんねー」と申し訳なさそうに眉を下げた。
「ううん。二人ともごめんね、変な空気なっちゃって。ちゃんとお母さんに入学からの話はした。いいきっかけになったよ」
「ならいいんだけどさあ」
紗夜が安堵の表情を浮かべ、坂井は美蘭の後ろを通って自分の席へ向かった。
美蘭は「あ、坂井ちゃん」とすれ違う前に彼女を呼び止めると「何?」と坂井が美蘭を見上げた。
「親に話せたの、坂井ちゃんが話してくれたからだと思ってる。ありがとう」
「ううん。私もちょっとキツくなってごめんね。でも、本心だから、全部」
「うん、わかってる」
「私も遠慮はしないから、青山さんもいつも通りでいてほしい」
美蘭は自分から一切目を逸らさない彼女の表情に先日の厳しさはなく、いつもの明るい声と表情に安堵した。ただただ真剣な坂井のその眼差しに美蘭は「わかった」と真剣な眼差しで返した。
週明け早々、今日は体育の日だった。美蘭は着替えをして体育館に入っていく。そこにはすでに着替えが済んだ空が待っていた。
「男子もバスケなんだ」
「そうみたい。美蘭、大丈夫?」
美蘭は心配そうに顔を覗き込む空をみて、不安よりも喜びが大きくなってしまう。
美蘭が「うん。頑張ってみる」とわずかに口角を上げると「僕も頑張るから!」空に手を握られる。彼の触れた手が熱くなるのを感じた。
「集合ー!!」
号令を合図に、男女に分かれ授業が始まる。
教科担任が出席確認後、美蘭を見据えた。
「青山さん、今日は参加?」
「……はい!」
美蘭は力強く頷き、準備体操を始めた。そのまま授業は平和に終わり、心地よい汗をかいて気分が高揚していた。
美蘭は競技だけではなく、体育の授業も好きだったことを思い出した。怪我をしたことのトラウマというよりは、怪我をして高校生活のスタートがうまくいかなかったことが、スポーツをすることへの嫌悪感になっていたのかもしれない。
これもきっと空との時間があったから思えることなのだと、美蘭は彼の存在に心から感謝した。
「美蘭、シュートしてたね!」
「ああ、うん」
授業が終わり昼休み、二人は並んで弁当を食べる。空は今日も青山家の玉子焼きを美味しそうに頬張っていた。話題は直近の体育の授業だ。
「飛んでる間、時間が止まってるみたいですごくかっこよかった!」
空は授業の様子を見ていたらしく、いつもよりさらに大きな身振り手振りで語るので、美蘭は出会ったばかりの頃を思い出しながら「ありがとう」と返した。
「高跳びもあんな感じになる?」
「そうだなあ、もっと高く、空と同化するような感じになるよ」
「いいなあ。美蘭が飛んでるところ、見てみたいなあ」
空が「あ、ごめん!」と言って口を手で押さえている。少しあざといとも言えるその姿は美蘭には可愛くて仕方がなく「ううん。いいの」と自然に言葉が出てきた。
「なんか今日の体育も平気だったし、復帰も考えてみようかな」
「本当? 僕、応援に行くよ!」
美蘭は自席から身を乗り出してくる勢いの空を見て「それは心強いな」と目を細めた。
◇◆◇◆
「ただいま」
「おかえり、美蘭。今日は?」
帰宅時の母との会話。美蘭が干渉しないようになのか控えめに声を掛ける母に空になった弁当箱を渡し「体育に出たよ」と伝えると、彼女は「大丈夫だった?」と心配そうに美蘭の顔を覗き込んだ。
「うん。なんで休んでたのかわかんないくらいにね。お母さん……」
「なあに?」
「競技復帰……考えてる」
「まあ!」
ポツリと呟くような美蘭の言葉を、母は拾い上げ声高らかに「お祝いしなくちゃ!」とポケットからスマートフォンを出した。おそらく父と弟に連絡しようとしている。
美蘭は興奮する母に「気が早いよ」と苦笑しながら自室へ戻った。
着替えてベッドに転がる。思い浮かぶのは今日の昼休み。競技復帰なんて考えてすらいなかったのに、空の「見てみたい」というたった一言で母に報告までしている。
空が応援してくれるなら、頑張ろうと思えた。
美蘭は彼の存在が自分の中でずいぶん大きなっていたこと、それについ最近まで全く気づけていなかったことに驚き、恥ずかしくもなった。
「私……鈍かったんだなあ」
0
あなたにおすすめの小説
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる