1 / 7
文学喫茶オムレット
第1話
しおりを挟む
「店長。新メニューの試作品です」
「おおっと、変わり種っぽいな」
水曜日の昼下がり。ランチタイムが終わり片付けもひと段落した『文学喫茶オムレット』では、スタッフの中園愛理が新メニューを考案していた。
カウンター席で一休みしている店長の藤崎日陽に、試作品を盛り付けた皿とコーヒーを差し出す。白い陶器の皿の上では、ふわふわとしたパンケーキのような生地が厚切りのハムととろけるチーズを包み込んでいた。空いたスペースにはレタスとミニトマトのミニサラダもついている。
「はい。お食事オムレットです。生地はデザートオムレットよりしっかりめです。中の具はシンプルにハムチーズにしました」
「うまそうじゃん。いただきます」
藤崎が大きく開けた口へオムレットを運び一口かじる。四分の一ほど欠けたそれと、咀嚼する彼の様子を、愛理は固唾を飲んで見守っていた。このメニューが新メニューになるかどうかで、この店の今後も変わってくると思っているのだから当然だ。
「うん。うまいねえ、うん」
時折コーヒーを飲んだりサラダを食べたりしながら、五分程度で皿の上は空になった。藤崎は満足そうに口角を上げ、最後にコーヒーを口に含み、飲み込んだ。
愛理は「ど、どうでしょう?」とカウンター内から顔を藤崎のいる外側へ押し出した。自信はあるが、少しの不安が眉間を寄せた。
「いいね。早速メニューに加えるか!」
顔を上げ、口角を上げて頷く藤崎に、愛理は「はい!」と居酒屋の店員のような明るい声色と笑顔で喜びを表現した。そして、今度は何かを窺うように上目遣いで本題に入る。
「あ、店長メニューの名前なんですが……」
「名前?お食事オムレットじゃないの?」
いつもは自分から名前の相談なんてしない愛理の発言を不思議に思ったのか、藤崎は軽く眉間に皺を寄せて首を傾げていた。愛理は自分の行動が若干不自然だということは承知の上だったが、彼の鈍感さに賭け、笑って誤魔化すことにした。
「はい。お店の名前にちなんで、『ハムレット』はどうですか? ハムですし」
「ああ、ハムのオムレットで、店も『オムレット』だし『ハムレット』か。洒落てんじゃん愛理! 俺の次に」
最後の一言が不本意ではあるが、愛理は笑顔を崩さなかった。
「じゃあ、決まりでいいですか?」
「いいよいいよ。決まりな!」
「はい。後で真白くんにも伝えておきますね」
「おう、頼むな」
愛理はコーヒーを飲み切って銀行へ向かう藤崎を見送った後、身につけている黒いエプロンのポケットから急いでスマートフォンを取り出し、指先を素早く動かし、メッセージアプリを起動してメッセージを送信する。宛先はアルバイトスタッフの佐藤真白だ。
『第1段階完了。メニューにハムレット追加!』
『おつです。あとは任せてください。若干大掛かりですけど作戦はあります』
すぐに送られてきた返信を確認し、愛理はにっこりと笑い、皿とコーヒーカップを洗いカウンターの拭き掃除を始めた。
「おおっと、変わり種っぽいな」
水曜日の昼下がり。ランチタイムが終わり片付けもひと段落した『文学喫茶オムレット』では、スタッフの中園愛理が新メニューを考案していた。
カウンター席で一休みしている店長の藤崎日陽に、試作品を盛り付けた皿とコーヒーを差し出す。白い陶器の皿の上では、ふわふわとしたパンケーキのような生地が厚切りのハムととろけるチーズを包み込んでいた。空いたスペースにはレタスとミニトマトのミニサラダもついている。
「はい。お食事オムレットです。生地はデザートオムレットよりしっかりめです。中の具はシンプルにハムチーズにしました」
「うまそうじゃん。いただきます」
藤崎が大きく開けた口へオムレットを運び一口かじる。四分の一ほど欠けたそれと、咀嚼する彼の様子を、愛理は固唾を飲んで見守っていた。このメニューが新メニューになるかどうかで、この店の今後も変わってくると思っているのだから当然だ。
「うん。うまいねえ、うん」
時折コーヒーを飲んだりサラダを食べたりしながら、五分程度で皿の上は空になった。藤崎は満足そうに口角を上げ、最後にコーヒーを口に含み、飲み込んだ。
愛理は「ど、どうでしょう?」とカウンター内から顔を藤崎のいる外側へ押し出した。自信はあるが、少しの不安が眉間を寄せた。
「いいね。早速メニューに加えるか!」
顔を上げ、口角を上げて頷く藤崎に、愛理は「はい!」と居酒屋の店員のような明るい声色と笑顔で喜びを表現した。そして、今度は何かを窺うように上目遣いで本題に入る。
「あ、店長メニューの名前なんですが……」
「名前?お食事オムレットじゃないの?」
いつもは自分から名前の相談なんてしない愛理の発言を不思議に思ったのか、藤崎は軽く眉間に皺を寄せて首を傾げていた。愛理は自分の行動が若干不自然だということは承知の上だったが、彼の鈍感さに賭け、笑って誤魔化すことにした。
「はい。お店の名前にちなんで、『ハムレット』はどうですか? ハムですし」
「ああ、ハムのオムレットで、店も『オムレット』だし『ハムレット』か。洒落てんじゃん愛理! 俺の次に」
最後の一言が不本意ではあるが、愛理は笑顔を崩さなかった。
「じゃあ、決まりでいいですか?」
「いいよいいよ。決まりな!」
「はい。後で真白くんにも伝えておきますね」
「おう、頼むな」
愛理はコーヒーを飲み切って銀行へ向かう藤崎を見送った後、身につけている黒いエプロンのポケットから急いでスマートフォンを取り出し、指先を素早く動かし、メッセージアプリを起動してメッセージを送信する。宛先はアルバイトスタッフの佐藤真白だ。
『第1段階完了。メニューにハムレット追加!』
『おつです。あとは任せてください。若干大掛かりですけど作戦はあります』
すぐに送られてきた返信を確認し、愛理はにっこりと笑い、皿とコーヒーカップを洗いカウンターの拭き掃除を始めた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる