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文学喫茶オムレット
第4話
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「おはようございます」
「真白! おはよう! ありがとな、早出してくれて」
「おはよう。真白くん」
十五時半頃、学校帰りの真白がいつもより二時間ほど早く店に到着した。入れ替わりに藤崎が買い出しで外出する。店内は落ち着いていたため、愛理は藤崎の指示通り賄いを奮発した。夕食には早いので、まずはデザートで出しているアップルパイを温め、同じ皿にバニラアイスを添えたものを出した。皿からシナモンとバニラの甘く、刺激的な香りが漂っている。
「俺、愛理さんのアップルパイ好きです。今日はアイス付きだ」
「店長に奮発するように言われたからね。コーヒーも今出すね」
「はい、いただきます」
真白はサクサクと音を立ててアップルパイをフォークで崩し、アイスを乗せて口へ運ぶ。表情があまり顔に出ない彼は、好物を前に僅かに微笑んでいた。
「ごちそうさまでした。あ、片付け俺がやりますね」
「ありがとう。お願いね」
いつもよりも弾んだ声で真白が食器を片付ける。愛理特製のアップルパイに大満足という事だろう。
真白が食器を洗い始めた時、店の入り口のドアが開きベルが鳴った。来店したのは常連客の坂本だ。
「「いらっしゃいませ」」
「やあ愛理ちゃん。真白くんも今日は早いんだね」
「はい。学校終わってすぐ。今日は忙しいみたいなので」
「そっかそっか。あ、ブレンドをホットで」
「かしこまりました」
坂本はカウンター席に座り、いつも注文するブレンドコーヒーを待った。愛理はカウンター内からいつものように豆を挽き、彼の目の前で丁寧にコーヒーを抽出した。店内のコーヒーの香ばしい芳香が増す。坂本の前に『シェイクスピア』の頃から使っているアンティークのコーヒーカップを差し出す。砂糖やミルクは彼の趣向に合わせて付けない。
「お待たせいたしました、ブレンドです」
坂本は差し出されたコーヒーを熱さに気をつけながら、まずは小さく一口飲む。酸味は少なく、ほんのり苦い口の中も、鼻から通る香ばしい空気も彼は大変気に入っていると以前教えてくれた。
「外の看板見たよ、短期間で頑張ったねえ」
「はい。真白くんのおかげです」
「おかげで今日はデザートにありつけました」
「そうかい、良かったねえ」
三人が和やかなムードで話していると、買い物袋を持った藤崎が買い出しから戻ってきた。カウンターから顔を出し、愛理は彼から買い物袋を受け取り、所定の場所へ片付け始める。
「お! 坂本さん、いらっしゃい」
「やあヒナちゃん、今日は大繁盛みたいだね」
「まあね! 愛理と真白のおかげだよ」
藤崎が意気揚々と坂本に話しかけながらエプロンを身につけていると、店のドアが開き、ベルが鳴る。入り口のマットの上に立っている男性は、坂本とさほど歳が変わらないように見えた。背筋が伸び、身長が高く、精悍な顔立ちは愛理と真白の雇い主に少し似ている。
「「いらっしゃいませ」」
「あ、咲造さん!」
「ああ、坂本さん。どうもご無沙汰しています」
「じいちゃん!」
「よう、ヒナ。カウンター、いいか?」
藤崎がじいちゃんと呼んだ男性は店内に入ると坂本に頭を下げ丁寧に挨拶をしてから隣のカウンター席に腰掛けた。
「おう! 何にする?」
「ブレンドをホットで貰おうか」
「愛理! ブレンドホットひとつな、ブラックで」
「はい、かしこまりました」
藤崎からのオーダーに、愛理は会釈をしてコーヒー豆を準備する。坂本にそうしたように豆を挽き始めた。
およそ十分後、坂本と雑談している咲造の前に愛理がコーヒーを差し出した。元経営者に出すとあって、正直に言って坂本に出す時より緊張していた。
「お待たせいたしました、ブレンドです」
「うん。美味い。君……うちの孫の恋人かなんかかい?」
咲造はコーヒーを一口飲み、ゆっくりと目を閉じ口角を上げ、頷いた。そして、愛理にとっては突拍子もない質問を投げかける。愛理は首を横に振った後、挨拶し一礼した。
「いいえ、この店の従業員です。中園愛理と申します」
「日陽の祖父の藤崎咲造です。あの子はサッカー以外はてんで不器用な孫で。ご迷惑をかけていたら申し訳ない」
「私の方こそ、いつも藤崎店長にはお世話になっています」
このままやり過ごせそうだと愛理が安堵していると、藤崎が余計な一言を咲造に投げかけた。
「じいちゃん! 新メニュー食べる? 軽食で『ハムレット』って言うんだけど」
「へえ、洒落た名前じゃないか。ひとつ貰おうか」
「だろ? 愛理、頼むわ!」
「はい」
正直新メニューに関しては、看板や備品を変えるための手段であり、ボロが出ないよう咲造には触れられたくない部分だった。もちろん藤崎がそんな事に気付く訳もなく、イベントまで開いた初の試みを、祖父に自慢するのは当然の事だった。愛理、真白、坂本の三人の背筋に緊張が走る。
「真白! おはよう! ありがとな、早出してくれて」
「おはよう。真白くん」
十五時半頃、学校帰りの真白がいつもより二時間ほど早く店に到着した。入れ替わりに藤崎が買い出しで外出する。店内は落ち着いていたため、愛理は藤崎の指示通り賄いを奮発した。夕食には早いので、まずはデザートで出しているアップルパイを温め、同じ皿にバニラアイスを添えたものを出した。皿からシナモンとバニラの甘く、刺激的な香りが漂っている。
「俺、愛理さんのアップルパイ好きです。今日はアイス付きだ」
「店長に奮発するように言われたからね。コーヒーも今出すね」
「はい、いただきます」
真白はサクサクと音を立ててアップルパイをフォークで崩し、アイスを乗せて口へ運ぶ。表情があまり顔に出ない彼は、好物を前に僅かに微笑んでいた。
「ごちそうさまでした。あ、片付け俺がやりますね」
「ありがとう。お願いね」
いつもよりも弾んだ声で真白が食器を片付ける。愛理特製のアップルパイに大満足という事だろう。
真白が食器を洗い始めた時、店の入り口のドアが開きベルが鳴った。来店したのは常連客の坂本だ。
「「いらっしゃいませ」」
「やあ愛理ちゃん。真白くんも今日は早いんだね」
「はい。学校終わってすぐ。今日は忙しいみたいなので」
「そっかそっか。あ、ブレンドをホットで」
「かしこまりました」
坂本はカウンター席に座り、いつも注文するブレンドコーヒーを待った。愛理はカウンター内からいつものように豆を挽き、彼の目の前で丁寧にコーヒーを抽出した。店内のコーヒーの香ばしい芳香が増す。坂本の前に『シェイクスピア』の頃から使っているアンティークのコーヒーカップを差し出す。砂糖やミルクは彼の趣向に合わせて付けない。
「お待たせいたしました、ブレンドです」
坂本は差し出されたコーヒーを熱さに気をつけながら、まずは小さく一口飲む。酸味は少なく、ほんのり苦い口の中も、鼻から通る香ばしい空気も彼は大変気に入っていると以前教えてくれた。
「外の看板見たよ、短期間で頑張ったねえ」
「はい。真白くんのおかげです」
「おかげで今日はデザートにありつけました」
「そうかい、良かったねえ」
三人が和やかなムードで話していると、買い物袋を持った藤崎が買い出しから戻ってきた。カウンターから顔を出し、愛理は彼から買い物袋を受け取り、所定の場所へ片付け始める。
「お! 坂本さん、いらっしゃい」
「やあヒナちゃん、今日は大繁盛みたいだね」
「まあね! 愛理と真白のおかげだよ」
藤崎が意気揚々と坂本に話しかけながらエプロンを身につけていると、店のドアが開き、ベルが鳴る。入り口のマットの上に立っている男性は、坂本とさほど歳が変わらないように見えた。背筋が伸び、身長が高く、精悍な顔立ちは愛理と真白の雇い主に少し似ている。
「「いらっしゃいませ」」
「あ、咲造さん!」
「ああ、坂本さん。どうもご無沙汰しています」
「じいちゃん!」
「よう、ヒナ。カウンター、いいか?」
藤崎がじいちゃんと呼んだ男性は店内に入ると坂本に頭を下げ丁寧に挨拶をしてから隣のカウンター席に腰掛けた。
「おう! 何にする?」
「ブレンドをホットで貰おうか」
「愛理! ブレンドホットひとつな、ブラックで」
「はい、かしこまりました」
藤崎からのオーダーに、愛理は会釈をしてコーヒー豆を準備する。坂本にそうしたように豆を挽き始めた。
およそ十分後、坂本と雑談している咲造の前に愛理がコーヒーを差し出した。元経営者に出すとあって、正直に言って坂本に出す時より緊張していた。
「お待たせいたしました、ブレンドです」
「うん。美味い。君……うちの孫の恋人かなんかかい?」
咲造はコーヒーを一口飲み、ゆっくりと目を閉じ口角を上げ、頷いた。そして、愛理にとっては突拍子もない質問を投げかける。愛理は首を横に振った後、挨拶し一礼した。
「いいえ、この店の従業員です。中園愛理と申します」
「日陽の祖父の藤崎咲造です。あの子はサッカー以外はてんで不器用な孫で。ご迷惑をかけていたら申し訳ない」
「私の方こそ、いつも藤崎店長にはお世話になっています」
このままやり過ごせそうだと愛理が安堵していると、藤崎が余計な一言を咲造に投げかけた。
「じいちゃん! 新メニュー食べる? 軽食で『ハムレット』って言うんだけど」
「へえ、洒落た名前じゃないか。ひとつ貰おうか」
「だろ? 愛理、頼むわ!」
「はい」
正直新メニューに関しては、看板や備品を変えるための手段であり、ボロが出ないよう咲造には触れられたくない部分だった。もちろん藤崎がそんな事に気付く訳もなく、イベントまで開いた初の試みを、祖父に自慢するのは当然の事だった。愛理、真白、坂本の三人の背筋に緊張が走る。
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