冷風

更科ゆう

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再会

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 まさか……。5歳の女の子って…まさか…。

 瑠美ちゃんのこと…?

 美佐子は慌てて、かぶりをふって、嫌な妄想を打ち消した。
 そんなことはない…そんなことはない…。

 気がつくと体が震えていた。
 
 不意に携帯が鳴った。美佐子はゆっくりとけたたましい音のなる携帯の法に向き直った。
 
 ――携帯を取りたくない――――

 鳴り続ける携帯の音を聞いて、美咲が眠そうにめをこすりながら起きてきてしまった。

「…ママ、携帯なってるよ」
と言いながら、美咲が携帯を手にして美佐子に渡そうとする。
 
――――いやだ、来ないで――――
 
 美佐子は、美咲が携帯を持ち、差し出している手を振り払いたい衝動に駆られた。
 しかし、そうしなかった。
 美佐子は観念したかのように、大人しく携帯を受け取った。

 そして…着信のボタンを押した…
 今日子さんの声だった。


 その後、どうやって瑠美ちゃんが搬送された病院に行ったのか、ろくに覚えてない。

 霊安室を案内され、そこには…。
 
 今日子さんがいた…。

 今日子さんは、美佐子の気配に気がつき、振り向いた。
 その顔は、今日子さんであって、今日子さんでなかった。まるで般若の面をかぶったようだった。

 そして、美佐子は生涯耳から離れない言葉を聞くことになる…。

「あんた子供が死ぬば良かったのよー!!!」

 今日子さんの絶叫が部屋中に響いた。



「今日子はあなたに会いたいと言っていました」
 哲夫の言葉で美佐子は我に返った。

 今日子さんが私に会いたがっている……?
 そんな……もう自分のことなど顔も見たくないだろうと思っていたのに……。

 私も今日子さんに会いたい!会って謝りたい!

「今日子さんに会わせてください」
 美佐子は声を絞り出すようにして、言った。

「……わかりました」
 哲夫は、静かに答えた。

 

 タクシーで、哲夫に連れてこられた場所に今日子さんは、いた。

 何年ぶりだろう。もう9年も経つか。

こんな変わり果てた姿で再開するなんて、夢にも思わなかった。
 
 灰色の墓石。
 
 長峰家の墓と彫られている。

 茫然としたまま、立ち尽くしている美佐子を見て、哲夫は言った。

「妻は、先月乳がんで亡くなりました」
 その言葉を聞き、美佐子はハッとして、墓石を凝視していた顔を哲夫の方に向けた。

「いろいろ手を尽くしましたが、残念ながら……。まだ、五十二歳でした……」
 哲夫はそう言って、下を向いた。泣いている……?ように見えた。

「今日子は、あなたに会いたがっていました……」
 
 絞り出すように、普通なら聞きのがしてしまいそうな、か細い声で、語り始めた。
 
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