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1章
幽霊を天国へ
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「よし。今から撮るぞ」
晴が声をかけると、桜井さんがゴクリとつばをのみこんだ。
夕方の公園はうす暗い。遊んでいた子たちは帰ってしまって、わたしたちだけ。
遊具からはなれた広場に、桜井さんが緊張した面持ちで立っていて、その正面に小柄な栗色の髪の男子――晴がひざ立ちでカメラをかまえている。
晴のとなりには、白い紙がついた棒を持った袴姿の男の子――蒼生くん。
わたしはその三人から少し距離を取って、これから始まることを思ってため息をついた。
やだなぁ。これ……はたから見たら、何やってんだ? だよね。
「はーい。一+一は~?」
晴が桜井さんの緊張をほぐすためか、おどけた声で言う。
でも、桜井さんの表情は固まったまま。ニコリともしない。
そんな桜井さんに動じず、晴が狙いを定めたようにシャッターボタンを押した。
パシャッ。
シャッター音とともに、まぶしい光が辺りいっぱいに広がる。
一瞬目をつぶったけど、すぐに目をこじ開けた。
ダメダメ。ちゃんと何が出てきたか見ないと……
「げっ」
思わず声が出ちゃった。だって、桜井さんの後ろにモヤモヤと浮かび上がってるのは……
大きなタヌキ!
「うわ。やっぱり動物だったよ。見てよ、桜井さん」
晴が人なつっこい目をキラキラさせると、桜井さんがおそるおそる振り返った。
「きゃ、きゃああああああ」
桜井さんがぺたんとその場に座りこむ。
そりゃそうだよね。こんな化け物タヌキ、普通だったら腰ぬかすよ。
それが自分のそばにずっといたなんて。あり得ないよね。
「夢莉ちゃん!」
蒼生くんに言われて、ハッとする。
「は、はぁい」
間のぬけた返事をしながら、仕方なくタヌキの方へ近づく。
ジロリとタヌキがわたしを見下ろした。
「あ、あのー。帰ってくれないかな? ずっとあなたがそばにいたら、桜井さんがメイワクしてるの」
なるべく、丁寧に優しく言う。
前もって考えてた説得作戦だ。
だけど、いくら言葉をかえて優しく言ってもダメ。
タヌキはフルフルと首を横にふるばかり。
むむむ。やっぱり断固拒否かぁ。
そりゃあ、毎日桜井さんのご飯を横取りしてるんだもん。
それが急に食べられなくなるんだから、イヤだよね。
「夢莉、作戦2だ!」
晴に言われて、仕方なく背後の茂みへ走る。
雑草の中に隠していた風呂敷を取って、再びタヌキの元へ。
ううっ、重っ。いろいろ入れすぎた?
風呂敷の結び目をといたら、タヌキの目の色が変わった。
中身は、りんごやドングリの実、お菓子の包みに、白菜とかキャベツの野菜類。
「よぉ、タヌキ。これ、大好物だろ? やるから桜井さんからはなれてくれよ」
晴が言うけど、そんなことどーでもいいのか、タヌキは風呂敷の中身にダイブ!
バクバクバクバク。
おお……。すごい勢いで食べてる。あっという間に食べきっちゃった。
「あのー、タヌキさん。もう桜井さんに近づかないでね」
頃合いを見てお願いしたら、タヌキがジロリとわたしを見た。
それから、大きな体をゆらしながら近づいてくる。
口からよだれがダラダラとたれて、まだまだ食べ物が足りないような感じ?
「あ、あのっ。もう食べ物ないんだ。無理だからっ。お願いだから山か天国へ帰って!」
後ずさりしながら必死に言うけど、タヌキには伝わらないみたい。
晴が声をかけると、桜井さんがゴクリとつばをのみこんだ。
夕方の公園はうす暗い。遊んでいた子たちは帰ってしまって、わたしたちだけ。
遊具からはなれた広場に、桜井さんが緊張した面持ちで立っていて、その正面に小柄な栗色の髪の男子――晴がひざ立ちでカメラをかまえている。
晴のとなりには、白い紙がついた棒を持った袴姿の男の子――蒼生くん。
わたしはその三人から少し距離を取って、これから始まることを思ってため息をついた。
やだなぁ。これ……はたから見たら、何やってんだ? だよね。
「はーい。一+一は~?」
晴が桜井さんの緊張をほぐすためか、おどけた声で言う。
でも、桜井さんの表情は固まったまま。ニコリともしない。
そんな桜井さんに動じず、晴が狙いを定めたようにシャッターボタンを押した。
パシャッ。
シャッター音とともに、まぶしい光が辺りいっぱいに広がる。
一瞬目をつぶったけど、すぐに目をこじ開けた。
ダメダメ。ちゃんと何が出てきたか見ないと……
「げっ」
思わず声が出ちゃった。だって、桜井さんの後ろにモヤモヤと浮かび上がってるのは……
大きなタヌキ!
「うわ。やっぱり動物だったよ。見てよ、桜井さん」
晴が人なつっこい目をキラキラさせると、桜井さんがおそるおそる振り返った。
「きゃ、きゃああああああ」
桜井さんがぺたんとその場に座りこむ。
そりゃそうだよね。こんな化け物タヌキ、普通だったら腰ぬかすよ。
それが自分のそばにずっといたなんて。あり得ないよね。
「夢莉ちゃん!」
蒼生くんに言われて、ハッとする。
「は、はぁい」
間のぬけた返事をしながら、仕方なくタヌキの方へ近づく。
ジロリとタヌキがわたしを見下ろした。
「あ、あのー。帰ってくれないかな? ずっとあなたがそばにいたら、桜井さんがメイワクしてるの」
なるべく、丁寧に優しく言う。
前もって考えてた説得作戦だ。
だけど、いくら言葉をかえて優しく言ってもダメ。
タヌキはフルフルと首を横にふるばかり。
むむむ。やっぱり断固拒否かぁ。
そりゃあ、毎日桜井さんのご飯を横取りしてるんだもん。
それが急に食べられなくなるんだから、イヤだよね。
「夢莉、作戦2だ!」
晴に言われて、仕方なく背後の茂みへ走る。
雑草の中に隠していた風呂敷を取って、再びタヌキの元へ。
ううっ、重っ。いろいろ入れすぎた?
風呂敷の結び目をといたら、タヌキの目の色が変わった。
中身は、りんごやドングリの実、お菓子の包みに、白菜とかキャベツの野菜類。
「よぉ、タヌキ。これ、大好物だろ? やるから桜井さんからはなれてくれよ」
晴が言うけど、そんなことどーでもいいのか、タヌキは風呂敷の中身にダイブ!
バクバクバクバク。
おお……。すごい勢いで食べてる。あっという間に食べきっちゃった。
「あのー、タヌキさん。もう桜井さんに近づかないでね」
頃合いを見てお願いしたら、タヌキがジロリとわたしを見た。
それから、大きな体をゆらしながら近づいてくる。
口からよだれがダラダラとたれて、まだまだ食べ物が足りないような感じ?
「あ、あのっ。もう食べ物ないんだ。無理だからっ。お願いだから山か天国へ帰って!」
後ずさりしながら必死に言うけど、タヌキには伝わらないみたい。
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