タイム・ジャンプ!

森野ゆら

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2 私の幼なじみ

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 時間がおしてるのか、教頭先生が早口で言う。 

「続きまして、陸上大会の表彰伝達です。一年、早瀬志信はやせしのぶくん、前へ出なさい」

「はい」

 凛とした声が体育館に響く。
 列の後ろから黒髪男子が歩いてきて私の横を通り過ぎ、壇上へ上がっていった。
 ピンと真っすぐ伸びたきれいな背すじ。学生服の黒がより足の長さを引き立たせる。
 向かい合わせで立つ校長先生より、頭二つ分くらい背が高い。

「志信くん、また背が伸びたんじゃない?」

「勉強もできるし、スポーツもできるなんて。すごいよね」

 また女子たちのはずんだ声が耳に入ってきた。

「この前も表彰されてなかった? なんだっけ。えーと……」

 剣道の大会だよって心の中で思ったけど、教えてあげない。

「陸上大会百メートル優勝。早瀬志信。あなたは……」

 表彰状のお決まり文章を校長先生が読み上げる。
 その間も女子たちの「志信くんかっこいいストーリー」は止まらない。
 向こうの列では、長い髪のゆるふわ女子が目をうるませてる。
 その視線の先は、表彰状を受け取っている志信。
 あの子も志信のファンなのかな。
 壇上をおりた志信は、早足で戻ってきた。
 通り過ぎる瞬間チラリと見上げると、志信は足を止めてほほえんだ。

「未央もお昼ご飯食べ過ぎなきゃ、優勝だったよ」

「……ひとこと余計だよ。志信」

 じとっとにらむと、志信はにっこり笑みを作ったまま、後方へと歩いていった。
 実は私もその大会出てたけど、五位だった。
 はりきってお母さんが作ってくれた、いつもより多めのお弁当。
 ついつい食べすぎて、おなかこわしちゃって、うまく走れなくて……
 だけど、別にくやしいなんて思ってないからねっ。
 心の中で志信にあっかんべーをする。
 ……でも、心がうわついてくるのを止められない。
 志信と話をするのは、うれしい。
 うっかりゆるまってくる口元をぐっとを押さえてると、

「仲良しだねぇ」

 左側からツンツン押してくるヒジ。
 見ると、クラスメイトのゆりちゃんがニヤニヤしてる。

「いいなぁ、未央は。イケメンが二人も近くにいるんだもん。志信くんとは昔から仲良しで部活も一緒、しかも生徒会長の和都わとさんがおにぃ……」

 と、そこまで言いかけたゆりちゃんの口をガバッとふさぐ。

「もうっ、それは言わなくていいってば」

 私、三条未央さんじょうみお。中学一年生。陸上部所属!
 得意科目は体育! 苦手科目は数学と理科と……国語と社会と……

 こほん。
 とにかく、勉強は苦手。
 かろうじて宿題はやってるけど、机の前に座ると眠くなっちゃう。
 なにか目標があれば、やる気も出るんだろうけど、別にやりたいことも特別好きなこともない。
 だから、成績優秀な生徒会長の兄と、文武両道の同級生が近くにいると、いろいろメンドクサイことがある。
 その二人がいるがために「未央ちゃんも勉強できるんでしょ?」ってよく言われるんだけど、残念ながらそんなことはなく。
 ゆりちゃんが言う、うらやましがられるポジションでもないんだよ。

 でも。
 お兄ちゃんと志信は背が伸びたかと思ったら、急に女子から人気が出始めて、私としては少々フクザツ。
 特に最近の私はちょっとおかしい。
 志信に対してドキドキしたり、話しただけでうれしくなったり。
 今までは普通に話してたのにね。
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