タイム・ジャンプ!

森野ゆら

文字の大きさ
19 / 38

3 テニス部のボールすくい

しおりを挟む
「やぁやぁ! 君たち、ボールすくいやってるよ! 遊んでいかない?」

 背が高くてツンツン頭の男子が声をかけてきた。
 紅葉の木の下に、水をはったビニールプールが置いてあって、その中に色とりどりのボールがプカプカ浮いてる。
 段ボールで作った看板に「テニス部からの挑戦状! 君はどれだけボールをすくえるか?」って書いてある。
 なるほど。テニス部の出し物なんだ。

「わー! やりたい!」

 ゆりちゃんが小さな子みたいに一直線にかけていく。
 私もゆりちゃんについていくと、ツンツン頭のテニス部員さんがボールをすくうポイを一つずつ渡してくれた。

「よぉし、いっぱいすくうぞ!」

 腕まくりして、ポイをかまえ、ボールに狙いを定める。
 私、けっこう得意なんだよね、ボールすくい!
 小さな頃、お祭りに行った時、よく志信と勝負したっけ。
 いつも少しの差で負けてたけど……
 ひょいひょいっとボールをお椀に入れていく横で、ゆりちゃんが「げっ」と声を出した。

「あ~、もう破れちゃった。未央、がんばって!」

 穴の開いたポイを白旗みたいにひらひら振るゆりちゃん。

「任せて、ゆりちゃん!」

 ゆりちゃんの分までがんばるぞ! ってボールを次々すくってたら、テニス部員さんが「むむっ」と焦った顔をした。

「やるな、一年のお嬢さん。じゃあ、これはどうだっ?」

 そう言って、下から出してきたのは、オレンジの大きなボール!
 画用紙で作られた目と鼻がついてて、黒い帽子がてっぺんにちょこんとのってる。
 これは、ハロウィンのカボチャをイメージしてるのかな?
 テニス部員さんは、そのカボチャボールをばしゃんと水面に入れた。
 ビニールプールからしぶきが飛んで、水かさが減る。

「……これ、サッカーボールくらい大きさがありますけど……?」

 じとっと見上げると、テニス部員さんがカラカラ笑った。

「よくできてるだろ? 特別ハロウィン仕様であと三十個はある! 部員みんなで作ったんだ!」

「……テニス部、ヒマなんですか?」

 淡々と返すと、テニス部員さんがフフンと鼻を鳴らした。

「さぁ、これをすくえるかな? このカボチャボールくんをすくえたら、特別賞をあげるよ」

 ……特別賞‼

 挑戦的な目を向けられて、がぜん、やる気が出てくる。

「やって見せましょう!」

 すうっと息を吸い込んで、かまえる。
 右手にはポイ。左手にはお椀からチェンジした洗面器。
 プカプカ浮かぶカボチャボールくん。
 狙いを定めて、

「やあっ!」

 気合いとともに、浮かぶカボチャボールくんの底面にポイをすべりこませる。
 重いっ! 
 ポイの柄の部分がミシミシと音を立てる。
 もう少しで折れてしまいそう。これは時間との戦いだ。でも……
 いける!
 手首を返して、思い切り振り上げると、

 ぱしゃっ!

 水しぶきとともに、カボチャボールくんが宙に浮いた。
 すかさず、左手を伸ばして洗面器を落下点へ。
 すぽっ。
 洗面器の中に、カボチャボールくんがおさまった。

「す、すっごーい! 未央、カボチャボールくん、すくっちゃった!」

 パチパチと拍手するゆりちゃん。
 テニス部員さんもびっくりした顔のまま、拍手。

「や、やるなぁ。驚いたよ。佐藤くん、特別賞の品を持ってきてくれ」

 テニス部員さんが言うと、近くにいた坊主頭の男子……佐藤くんがあわてて奥に行って、リボンのついた包みを持ってきた。

「これはとても希少だよ。きっと、お嬢さんなら喜んでくれると思う」

 そう言って、テニス部員さんがにっこり笑った。
 坊主頭くんが深々と頭を下げながら、包みを渡してきた。
 受け取ったものは、厚みがあって平べったい。
 なんだろう? 本かな?

「未央、開けてみてよ!」

 ワクワク顔のゆりちゃんにうながされて、リボンを解く。
 希少なものかぁ。なんだろう?
 この学校に伝わる、宝のありかが書かれた本とか? 
 それとも、歴史的価値のある古文書⁈
 ドキドキしながら包装紙を開けてみたら、

「……こ、これは」

 持ってる手がワナワナ震える。
 これは……ある男子の写真集だ。
 しかも、表紙の右下にはミミズ文字でサイン入り。

 ……またかよ‼

「きゃあ! 和都さんだ!」

 ゆりちゃんが横からパラパラめくって、目をキラキラさせる。
 ちょっと憂いを含ませた横顔、夕日をバックに校門にもたれているお兄ちゃん、朝礼台の上でポーズを決めている姿、給食を食べ、ほほえみを向けているところ、廊下の窓際でたたずみ……(以下省略)
灰になって固まってると、テニス部員さんが得意げに説明してきた。

「三条会長の写真集だよ。しかもサインつき! 生徒会室まで行って撮影をお願いしたんだよ。三条会長、快く承諾してくれたんだ。いい人だよなぁ」

 ……どうせ、ノリノリで写真も撮ってもらったんだろうな。お兄ちゃんめ。
 はぁ。
 なんだか一気に力が抜けた。
 そうだよ。さっき、学んだはずだよ、未央。世の中、甘くないって。

「……アリガトウゴザイマス」

 再び棒読みでお礼を言って、テニス部のボールすくい会場を後にした。

「はい。あげる」

 歩き出してからすぐに写真集を差し出すと、ゆりちゃんがぴょんと飛び上がって受け取った。

「いいの? わー、今日はラッキーな日だなぁ。和都さんのグッズを二つもゲットできちゃった!」

「……いらないものばかり」

 ガックリうなだれる私に、ゆりちゃんはクスクス笑ってパンフレットを開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

はるのものがたり

柏木みのり
児童書・童話
春樹(はるき)が突然逝ってしまって一ヶ月。いつも自分を守ってくれていた最愛の兄を亡くした中学二年生の春花(はるか)と親友を亡くした中学三年生の俊(しゅん)は、隣の世界から春樹に来た招待状を受け取る。頼り切っていた兄がいなくなり少しずつ変わっていく春花とそれを見守る俊。学校の日常と『お隣』での様々な出来事の中、二人は気持ちを寄せ合い、春樹を失った悲しみを乗り越えようとする。 「9日間」「春の音が聴こえる」「魔法使いたちへ」と関連してくる物語。 (also @ なろう)

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

処理中です...