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3 テニス部のボールすくい
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「やぁやぁ! 君たち、ボールすくいやってるよ! 遊んでいかない?」
背が高くてツンツン頭の男子が声をかけてきた。
紅葉の木の下に、水をはったビニールプールが置いてあって、その中に色とりどりのボールがプカプカ浮いてる。
段ボールで作った看板に「テニス部からの挑戦状! 君はどれだけボールをすくえるか?」って書いてある。
なるほど。テニス部の出し物なんだ。
「わー! やりたい!」
ゆりちゃんが小さな子みたいに一直線にかけていく。
私もゆりちゃんについていくと、ツンツン頭のテニス部員さんがボールをすくうポイを一つずつ渡してくれた。
「よぉし、いっぱいすくうぞ!」
腕まくりして、ポイをかまえ、ボールに狙いを定める。
私、けっこう得意なんだよね、ボールすくい!
小さな頃、お祭りに行った時、よく志信と勝負したっけ。
いつも少しの差で負けてたけど……
ひょいひょいっとボールをお椀に入れていく横で、ゆりちゃんが「げっ」と声を出した。
「あ~、もう破れちゃった。未央、がんばって!」
穴の開いたポイを白旗みたいにひらひら振るゆりちゃん。
「任せて、ゆりちゃん!」
ゆりちゃんの分までがんばるぞ! ってボールを次々すくってたら、テニス部員さんが「むむっ」と焦った顔をした。
「やるな、一年のお嬢さん。じゃあ、これはどうだっ?」
そう言って、下から出してきたのは、オレンジの大きなボール!
画用紙で作られた目と鼻がついてて、黒い帽子がてっぺんにちょこんとのってる。
これは、ハロウィンのカボチャをイメージしてるのかな?
テニス部員さんは、そのカボチャボールをばしゃんと水面に入れた。
ビニールプールからしぶきが飛んで、水かさが減る。
「……これ、サッカーボールくらい大きさがありますけど……?」
じとっと見上げると、テニス部員さんがカラカラ笑った。
「よくできてるだろ? 特別ハロウィン仕様であと三十個はある! 部員みんなで作ったんだ!」
「……テニス部、ヒマなんですか?」
淡々と返すと、テニス部員さんがフフンと鼻を鳴らした。
「さぁ、これをすくえるかな? このカボチャボールくんをすくえたら、特別賞をあげるよ」
……特別賞‼
挑戦的な目を向けられて、がぜん、やる気が出てくる。
「やって見せましょう!」
すうっと息を吸い込んで、かまえる。
右手にはポイ。左手にはお椀からチェンジした洗面器。
プカプカ浮かぶカボチャボールくん。
狙いを定めて、
「やあっ!」
気合いとともに、浮かぶカボチャボールくんの底面にポイをすべりこませる。
重いっ!
ポイの柄の部分がミシミシと音を立てる。
もう少しで折れてしまいそう。これは時間との戦いだ。でも……
いける!
手首を返して、思い切り振り上げると、
ぱしゃっ!
水しぶきとともに、カボチャボールくんが宙に浮いた。
すかさず、左手を伸ばして洗面器を落下点へ。
すぽっ。
洗面器の中に、カボチャボールくんがおさまった。
「す、すっごーい! 未央、カボチャボールくん、すくっちゃった!」
パチパチと拍手するゆりちゃん。
テニス部員さんもびっくりした顔のまま、拍手。
「や、やるなぁ。驚いたよ。佐藤くん、特別賞の品を持ってきてくれ」
テニス部員さんが言うと、近くにいた坊主頭の男子……佐藤くんがあわてて奥に行って、リボンのついた包みを持ってきた。
「これはとても希少だよ。きっと、お嬢さんなら喜んでくれると思う」
そう言って、テニス部員さんがにっこり笑った。
坊主頭くんが深々と頭を下げながら、包みを渡してきた。
受け取ったものは、厚みがあって平べったい。
なんだろう? 本かな?
「未央、開けてみてよ!」
ワクワク顔のゆりちゃんにうながされて、リボンを解く。
希少なものかぁ。なんだろう?
この学校に伝わる、宝のありかが書かれた本とか?
それとも、歴史的価値のある古文書⁈
ドキドキしながら包装紙を開けてみたら、
「……こ、これは」
持ってる手がワナワナ震える。
これは……ある男子の写真集だ。
しかも、表紙の右下にはミミズ文字でサイン入り。
……またかよ‼
「きゃあ! 和都さんだ!」
ゆりちゃんが横からパラパラめくって、目をキラキラさせる。
ちょっと憂いを含ませた横顔、夕日をバックに校門にもたれているお兄ちゃん、朝礼台の上でポーズを決めている姿、給食を食べ、ほほえみを向けているところ、廊下の窓際でたたずみ……(以下省略)
灰になって固まってると、テニス部員さんが得意げに説明してきた。
「三条会長の写真集だよ。しかもサインつき! 生徒会室まで行って撮影をお願いしたんだよ。三条会長、快く承諾してくれたんだ。いい人だよなぁ」
……どうせ、ノリノリで写真も撮ってもらったんだろうな。お兄ちゃんめ。
はぁ。
なんだか一気に力が抜けた。
そうだよ。さっき、学んだはずだよ、未央。世の中、甘くないって。
「……アリガトウゴザイマス」
再び棒読みでお礼を言って、テニス部のボールすくい会場を後にした。
「はい。あげる」
歩き出してからすぐに写真集を差し出すと、ゆりちゃんがぴょんと飛び上がって受け取った。
「いいの? わー、今日はラッキーな日だなぁ。和都さんのグッズを二つもゲットできちゃった!」
「……いらないものばかり」
ガックリうなだれる私に、ゆりちゃんはクスクス笑ってパンフレットを開いた。
背が高くてツンツン頭の男子が声をかけてきた。
紅葉の木の下に、水をはったビニールプールが置いてあって、その中に色とりどりのボールがプカプカ浮いてる。
段ボールで作った看板に「テニス部からの挑戦状! 君はどれだけボールをすくえるか?」って書いてある。
なるほど。テニス部の出し物なんだ。
「わー! やりたい!」
ゆりちゃんが小さな子みたいに一直線にかけていく。
私もゆりちゃんについていくと、ツンツン頭のテニス部員さんがボールをすくうポイを一つずつ渡してくれた。
「よぉし、いっぱいすくうぞ!」
腕まくりして、ポイをかまえ、ボールに狙いを定める。
私、けっこう得意なんだよね、ボールすくい!
小さな頃、お祭りに行った時、よく志信と勝負したっけ。
いつも少しの差で負けてたけど……
ひょいひょいっとボールをお椀に入れていく横で、ゆりちゃんが「げっ」と声を出した。
「あ~、もう破れちゃった。未央、がんばって!」
穴の開いたポイを白旗みたいにひらひら振るゆりちゃん。
「任せて、ゆりちゃん!」
ゆりちゃんの分までがんばるぞ! ってボールを次々すくってたら、テニス部員さんが「むむっ」と焦った顔をした。
「やるな、一年のお嬢さん。じゃあ、これはどうだっ?」
そう言って、下から出してきたのは、オレンジの大きなボール!
画用紙で作られた目と鼻がついてて、黒い帽子がてっぺんにちょこんとのってる。
これは、ハロウィンのカボチャをイメージしてるのかな?
テニス部員さんは、そのカボチャボールをばしゃんと水面に入れた。
ビニールプールからしぶきが飛んで、水かさが減る。
「……これ、サッカーボールくらい大きさがありますけど……?」
じとっと見上げると、テニス部員さんがカラカラ笑った。
「よくできてるだろ? 特別ハロウィン仕様であと三十個はある! 部員みんなで作ったんだ!」
「……テニス部、ヒマなんですか?」
淡々と返すと、テニス部員さんがフフンと鼻を鳴らした。
「さぁ、これをすくえるかな? このカボチャボールくんをすくえたら、特別賞をあげるよ」
……特別賞‼
挑戦的な目を向けられて、がぜん、やる気が出てくる。
「やって見せましょう!」
すうっと息を吸い込んで、かまえる。
右手にはポイ。左手にはお椀からチェンジした洗面器。
プカプカ浮かぶカボチャボールくん。
狙いを定めて、
「やあっ!」
気合いとともに、浮かぶカボチャボールくんの底面にポイをすべりこませる。
重いっ!
ポイの柄の部分がミシミシと音を立てる。
もう少しで折れてしまいそう。これは時間との戦いだ。でも……
いける!
手首を返して、思い切り振り上げると、
ぱしゃっ!
水しぶきとともに、カボチャボールくんが宙に浮いた。
すかさず、左手を伸ばして洗面器を落下点へ。
すぽっ。
洗面器の中に、カボチャボールくんがおさまった。
「す、すっごーい! 未央、カボチャボールくん、すくっちゃった!」
パチパチと拍手するゆりちゃん。
テニス部員さんもびっくりした顔のまま、拍手。
「や、やるなぁ。驚いたよ。佐藤くん、特別賞の品を持ってきてくれ」
テニス部員さんが言うと、近くにいた坊主頭の男子……佐藤くんがあわてて奥に行って、リボンのついた包みを持ってきた。
「これはとても希少だよ。きっと、お嬢さんなら喜んでくれると思う」
そう言って、テニス部員さんがにっこり笑った。
坊主頭くんが深々と頭を下げながら、包みを渡してきた。
受け取ったものは、厚みがあって平べったい。
なんだろう? 本かな?
「未央、開けてみてよ!」
ワクワク顔のゆりちゃんにうながされて、リボンを解く。
希少なものかぁ。なんだろう?
この学校に伝わる、宝のありかが書かれた本とか?
それとも、歴史的価値のある古文書⁈
ドキドキしながら包装紙を開けてみたら、
「……こ、これは」
持ってる手がワナワナ震える。
これは……ある男子の写真集だ。
しかも、表紙の右下にはミミズ文字でサイン入り。
……またかよ‼
「きゃあ! 和都さんだ!」
ゆりちゃんが横からパラパラめくって、目をキラキラさせる。
ちょっと憂いを含ませた横顔、夕日をバックに校門にもたれているお兄ちゃん、朝礼台の上でポーズを決めている姿、給食を食べ、ほほえみを向けているところ、廊下の窓際でたたずみ……(以下省略)
灰になって固まってると、テニス部員さんが得意げに説明してきた。
「三条会長の写真集だよ。しかもサインつき! 生徒会室まで行って撮影をお願いしたんだよ。三条会長、快く承諾してくれたんだ。いい人だよなぁ」
……どうせ、ノリノリで写真も撮ってもらったんだろうな。お兄ちゃんめ。
はぁ。
なんだか一気に力が抜けた。
そうだよ。さっき、学んだはずだよ、未央。世の中、甘くないって。
「……アリガトウゴザイマス」
再び棒読みでお礼を言って、テニス部のボールすくい会場を後にした。
「はい。あげる」
歩き出してからすぐに写真集を差し出すと、ゆりちゃんがぴょんと飛び上がって受け取った。
「いいの? わー、今日はラッキーな日だなぁ。和都さんのグッズを二つもゲットできちゃった!」
「……いらないものばかり」
ガックリうなだれる私に、ゆりちゃんはクスクス笑ってパンフレットを開いた。
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