タイム・ジャンプ!

森野ゆら

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3 時間移動!

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「ありゃ? 公園だ」

 いつものグルグルがおさまって目を開けると、あおぞら公園に立っていた。
 あれ? 私、場所を学校にしたはずなんだけどな。
 時間移動機を見直すと、場所をさす▲が【学校】からずれて【公園】になってる。

 公園の時計を見ると二時半。
 時間もずれてるじゃん!
 志信が告白されたと思われる時間はハロウィン会の後だから、三時半以降。
 げっ。一時間も早い。
 なんで? こわれてるの?
 ……って。時間移動機を責めてもしょうがない。
 うーん。学校でバレないように身をひそめておくのもややこしいし、ここにしばらくいようかな。

 夕方に子どもたちでにぎやかになる公園も、昼間の中途半端な時間はだれもいない。
 ベンチに座ってうーんと背すじを伸ばした。
 いい天気。雲がゆっくりと流れていく。

 今から志信が告白されるのかぁ。
 ……志信、クッキーも受け取ってたし、オッケーするのかな。
 フワフワで可愛い荒木さん。あんな子に告白されたら、うれしくないわけがない。

 荒木さんはなんて言うんだろう。
 志信はなんて答えたんだろう。
 私はそれを隠れて聞いてるんだ。
 そんな場面を想像して、なんだか心の中が空っぽになっていく気がした。
 荒木さんはきっといっぱい悩んで心に決めて、ドキドキしながら志信へ想いを伝えるんだ。
 好きな人に振り向いてもらうために。
 それって……すごい勇気だなぁ。
 荒木さんのことずるいって思ったけど、よく考えたらすごい行動力だ。

 みんな、がんばってる。ゆりちゃんも志信も荒木さんも。
 なりたい自分になるために。つかみたい未来のために。

 じゃあ、私は?

 自分はなんにもしてない……気がする。
 過去を見て、未来を見て、みんなのがんばってる所を見てむなしくなるだけ。

「私、なにやってるんだろ」

 ぽつり、つぶやいた言葉を風がさらっていく。
 なんだか気持ちが、漬物石に押されたようにずんずん重くなっていく。
 その時、背後から誰かが歩いてくる気配がした。

「おや、未央ちゃん。どうしたんだい? 学校早く終わったのか?」

 ドキッとして振り返ると、カズオさんが買い物袋をさげてにっこり笑っていた。

「カズオさん! ええっと、あの~。うん。ちょっと早めに……ね」  

 あははって作り笑いをして、ごまかした。
 あっ! そう言えば、パン屋さんに手紙を渡したこと伝えなきゃ!

「カズオさん。手紙渡したよ。パン屋さん、すっごく喜んでた」

「おお! ありがとう! うれしいよ! パン屋のご主人にもう会えないかと思ってガックリしてたから」

 カズオさんの顔がぱあっと明るくなった。

「感謝の気持ちを伝えられてよかったよ。あの時パン屋さんに行って、未央ちゃんに会えてよかった」

 カズオさんがうれしそうにうなずく。
 私もうんってうなずいて……下を向いた。
 黒い雲が太陽を覆うみたいに、心がまたぼんやりしてくる。
 カズオさんの気持ちがパン屋さんに伝わってうれしい。

 でも……私の志信への気持ちは伝わらない。
 これから荒木さんが告白してるところを聞いて、二人がうまくいくのを見て。
 私は志信への気持ちをあきらめないといけなくて。
 私……なにもできなかったな。
 思い切って行動したり、なにかに向けて努力したり……そんなこと、なにひとつしてない。

「未央ちゃん、なにか考え事してたのかい? ちょっと元気ないみたいだけど」

「えっ? そんなこと……」

 そんなことないって言おうとしてやめた。
 なんだかカズオさんには見抜かれてるみたいで。

「……うん。あの……自分のことを考えていて……」

「自分のこと?」

「あの……まわりの友達はすごくがんばってるの。夢があってそれに向かって。でも、私は目標も将来の夢もなくて……なにもしてない」

 ぼそりぼそりと言う私を、カズオさんはじいっと見つめて聞いてくれてる。

「私、今のままでいいのかなって」

 かすれた声をかき消すように、カズオさんが口を開いた。

「いいと思うよ」

「えっ?」

 カズオさんの意外な答えに口をあんぐり開ける。

「目標とか夢とか、無理に作るものじゃないだろ?」

 そう言って、カズオさんが私のとなりに腰かけた。

「うーん。でも、夢とかなりたいものがないと、がんばれない気がするし……」

「未央ちゃんはまだ中学生だろ? あせらなくていいよ。今からたくさんの出会いが待ってるからさ」

「出会い?」

「そう。人との出会い、出来事との出会い。安心しな。これから夢や目標を見つけるチャンスは数えきれないほどあるよ」

 カズオさんが空を見上げた。青い空に大きな雲が流れていく。

「未来って、今の積み重ねだから。未央ちゃんの『今』が楽しいなら、きっと大丈夫だ」

 私の「今」かぁ。
 学校でゆりちゃんと過ごしたり、陸上部で走ったり、家でちょっとだけ勉強したり。
 普通な毎日を過ごしてるけど……

「今、未央ちゃんがやりたいって思ったことを素直にやればいいんだよ。どんなちっぽけなことでもね」

 カズオさんはゆったり笑って、立ち上がった。

「おおっ、もう三時過ぎ。歯医者さん予約してたんだったわ。じゃあ、また」

「うん。ありがとう、カズオさん」

 カズオさんの姿が見えなくなるまで見送って、もう一度ベンチに座った。
 今の積み重ね。
 やりたいって思ったことを素直に……
 カズオさんの言ったこと、まだよくわかんない。
 だけど……重かった気持ちが少し楽になった気がする。
 あせる必要はないよね。これから大人になるまで、まだ時間はある!
 私なりに、ゆっくりで見つけていけばいいんだ。やりたいことを。将来の夢を。
 そう思って、ぎゅっとスカートを握った時、

 ビーッ、ビーッ、ビーッ……

 急に時間移動機からサイレンみたいな音が鳴りだした。
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