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5章
いざ、演奏!
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「お待たせしました。こ、これから始めます」
上ずった声で言うと、学園長が「どうぞ」と小さく答えた。
深呼吸をして、左手を添え、右手の親指を最初の七の音に。
七の音を二度弾いて、八の音。
震える指はがんばって音を出してくれてる。
楽譜を目で追う。次は合わせ爪だ。
まちがえないように、ずれないように慎重に。
五行目からは、音が細かくなるから集中だ。
弾いていれば、緊張がほぐれるかと思ったけど、全然そんなことなかった。
だけど、ちゃんと指が動いてくれる。
大丈夫。音、まちがえてない。ちゃんと弾けてる。あともう少し。
そう思った時、合わせ爪の一音がずれて変な音が響く。その小節の音は全部ずれて……
や、やばっ。
落ち着け。自分をふるいたたせて、最後の行まで来た。
いっぱい練習したトレモロ。それから最後の和音を弾いて、音が消え切ったあと、両手をひざの上に戻して、一礼をした。
やった。緊張したけど、最後まで弾けた!
ほっとした時、生徒会長が拍子抜けしたような声を出した。
「え? これで終わり?」
「そうみたい。この曲、さくらだっけ」
「なんか、寝そうになった」
生徒会の人たちが口々に言うと、学園長がパチパチと拍手をした。
それからやわらかくほほえんで、立ち上がった。
「おつかれさま。上手に弾けたわねぇ。北川さんにこんな特技があるなんて、びっくりしたわ。でも……あきれたわ」
「えっ?」
月都くんとミドリくんが最後の言葉に驚いたように、学園長を見た。
「和の心を大切にするなんて言うから、どんなすごい演奏をしてくれるのかと思ったら。わたし、プロの演奏、きいたことがあるの。だから、正直、今の演奏は何とも思わなかったわ」
学園長はわたしの近くへやってきて、顔をのぞきこんできた。
「一生懸命弾いたからって、認められると思った? わたしにはただ、素人がまちがわないように弾いてるだけにしかきこえなかったけど」
体がかたくなって、背中に汗が流れる。カタカタとひざ上の手がふるえてきた。
学園長は自分の席に戻って、足を組みながら座った。
「こんなみっともない演奏を視察会でやろうとしてたのねぇ」
「あはははっ。本当ですね。なぁ、北川さん、はずかしいと思わないの?」
生徒会長が言うと、女子たちがつられて笑い始めた。
「これじゃあ、文化祭は許可できないですよねぇ、学園長?」
「そうね。残念だけど……」
バンッと音がして、イスを倒しながらミドリくんが立ち上がった。
「さっきから、聞いてたらなんやねん、その言い方!」
「そうだよ。北川さんはずっと練習して……」
続けて月都くんが声を大きくした時、
「そこの二人、だまってください」
ピシャリと叫んだのは、早玖。
ミドリくんはぎりっと歯をくいしばって、月都くんは何か言いたそうな顔をしながらも下を向いた。
「学園長、ひとつ、案があるのですが」
早玖が学園長のそばまで行って、少し小声になった。
「もう察してらっしゃると思いますが、北川さんは、前任の北川学園長のお孫さんです」
「だから、何?」
学園長がつまらなさそうに、ちらっと早玖を見る。
「北川さんは、学園長が知りたかった情報を持ってるのではないでしょうか?」
早玖が言うと、学園長の表情が固まった。
「おい、何が言いたいんだ」
生徒会長が来たけど、早玖は無視して話を続ける。
「文化祭を許可するかわりに、その情報を教えてもらうというのはどうでしょう?」
「情報を?」
学園長がじっと早玖の目を見て、しばらくだまった。何かをすごく考えてる。
それから、ふうと息をはいて、学園長がわたしの方を向いた。
「……わかったわ。文化祭の開催は許可してあげる。ただし、使用するのは体育館のみ。体育館以外では展示も催しも許しません」
体育館だけ……。
でも、まだ許可してくれただけでもマシかな?
「あ、ありがとうございます」
あわてて頭を下げると、学園長がにこりと笑った。
「北川さん、今度ゆっくりお茶でもしましょ。教えてほしいことがあるの」
「待ってください。わたし、教えることなんて……」
「北川さん。よかったですね。文化祭を許可してもらえて」
早玖がわたしの言葉を封じ込めるように大きな声で言う。
な、なんなの? 情報って何よ? 早玖ってば、勝手に何言ってくれてんの!
早玖をにらんでると、学園長が立ち上がった。
「さぁ、そろそろお開きにしましょうか。わたし、これから出張があるの」
「出張? 友達とカフェに行くって言ってなかったっけ」
ひそひそ言う女子たちを学園長がキッとにらむ。
「さあさあ。さっさと片付けして出て行ってくれ」
生徒会長に冷たく言われ、わたしはあわてて箏柱を外し始めた。
上ずった声で言うと、学園長が「どうぞ」と小さく答えた。
深呼吸をして、左手を添え、右手の親指を最初の七の音に。
七の音を二度弾いて、八の音。
震える指はがんばって音を出してくれてる。
楽譜を目で追う。次は合わせ爪だ。
まちがえないように、ずれないように慎重に。
五行目からは、音が細かくなるから集中だ。
弾いていれば、緊張がほぐれるかと思ったけど、全然そんなことなかった。
だけど、ちゃんと指が動いてくれる。
大丈夫。音、まちがえてない。ちゃんと弾けてる。あともう少し。
そう思った時、合わせ爪の一音がずれて変な音が響く。その小節の音は全部ずれて……
や、やばっ。
落ち着け。自分をふるいたたせて、最後の行まで来た。
いっぱい練習したトレモロ。それから最後の和音を弾いて、音が消え切ったあと、両手をひざの上に戻して、一礼をした。
やった。緊張したけど、最後まで弾けた!
ほっとした時、生徒会長が拍子抜けしたような声を出した。
「え? これで終わり?」
「そうみたい。この曲、さくらだっけ」
「なんか、寝そうになった」
生徒会の人たちが口々に言うと、学園長がパチパチと拍手をした。
それからやわらかくほほえんで、立ち上がった。
「おつかれさま。上手に弾けたわねぇ。北川さんにこんな特技があるなんて、びっくりしたわ。でも……あきれたわ」
「えっ?」
月都くんとミドリくんが最後の言葉に驚いたように、学園長を見た。
「和の心を大切にするなんて言うから、どんなすごい演奏をしてくれるのかと思ったら。わたし、プロの演奏、きいたことがあるの。だから、正直、今の演奏は何とも思わなかったわ」
学園長はわたしの近くへやってきて、顔をのぞきこんできた。
「一生懸命弾いたからって、認められると思った? わたしにはただ、素人がまちがわないように弾いてるだけにしかきこえなかったけど」
体がかたくなって、背中に汗が流れる。カタカタとひざ上の手がふるえてきた。
学園長は自分の席に戻って、足を組みながら座った。
「こんなみっともない演奏を視察会でやろうとしてたのねぇ」
「あはははっ。本当ですね。なぁ、北川さん、はずかしいと思わないの?」
生徒会長が言うと、女子たちがつられて笑い始めた。
「これじゃあ、文化祭は許可できないですよねぇ、学園長?」
「そうね。残念だけど……」
バンッと音がして、イスを倒しながらミドリくんが立ち上がった。
「さっきから、聞いてたらなんやねん、その言い方!」
「そうだよ。北川さんはずっと練習して……」
続けて月都くんが声を大きくした時、
「そこの二人、だまってください」
ピシャリと叫んだのは、早玖。
ミドリくんはぎりっと歯をくいしばって、月都くんは何か言いたそうな顔をしながらも下を向いた。
「学園長、ひとつ、案があるのですが」
早玖が学園長のそばまで行って、少し小声になった。
「もう察してらっしゃると思いますが、北川さんは、前任の北川学園長のお孫さんです」
「だから、何?」
学園長がつまらなさそうに、ちらっと早玖を見る。
「北川さんは、学園長が知りたかった情報を持ってるのではないでしょうか?」
早玖が言うと、学園長の表情が固まった。
「おい、何が言いたいんだ」
生徒会長が来たけど、早玖は無視して話を続ける。
「文化祭を許可するかわりに、その情報を教えてもらうというのはどうでしょう?」
「情報を?」
学園長がじっと早玖の目を見て、しばらくだまった。何かをすごく考えてる。
それから、ふうと息をはいて、学園長がわたしの方を向いた。
「……わかったわ。文化祭の開催は許可してあげる。ただし、使用するのは体育館のみ。体育館以外では展示も催しも許しません」
体育館だけ……。
でも、まだ許可してくれただけでもマシかな?
「あ、ありがとうございます」
あわてて頭を下げると、学園長がにこりと笑った。
「北川さん、今度ゆっくりお茶でもしましょ。教えてほしいことがあるの」
「待ってください。わたし、教えることなんて……」
「北川さん。よかったですね。文化祭を許可してもらえて」
早玖がわたしの言葉を封じ込めるように大きな声で言う。
な、なんなの? 情報って何よ? 早玖ってば、勝手に何言ってくれてんの!
早玖をにらんでると、学園長が立ち上がった。
「さぁ、そろそろお開きにしましょうか。わたし、これから出張があるの」
「出張? 友達とカフェに行くって言ってなかったっけ」
ひそひそ言う女子たちを学園長がキッとにらむ。
「さあさあ。さっさと片付けして出て行ってくれ」
生徒会長に冷たく言われ、わたしはあわてて箏柱を外し始めた。
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