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6章
音色の正体
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「はー。がんばらないとなぁ」
小屋を出たら、空に夕焼けが広がっていた。
ミドリくんと月都くんは、文化祭でやるお茶席の話をするため、まだ残ってる。
わたしはちょっと疲れちゃったから、先に帰らせてもらうことにした。
ほんとはわたしも話に参加したかったけど、さっきからすごく気持ちが重い。
ピリピリした空気。生徒会の人の笑う声。学園長の冷たい視線。
勝手にふるえてくる自分の手……
また、文化祭の時にあんな中で弾かなきゃならないのかな。
……いやだ。もう……弾きたくないな。
でも、ミドリくんも月都くんもがんばってるのに、こんなこと言えないよね。
下を向いて歩いてたら、涙がこみあげてきた。
どうして音をまちがったんだろう。あんなに練習したのに。
でも、初心者が弾いた演奏なんて誰もききたくないよね。
鼻の奥が痛くなって、まぶたが熱くなってくる。
泣くな。泣いちゃダメだ。上を向け! そう思うけど、顔が全然上がらない。
その時、風にのってきれいな旋律がきこえてきた。
この音色……またこの笛みたいな音だ。優しくて、透明で……。
目をごしっとふいて、かけだす。
今日こそ。今日こそは、誰が吹いてるのか知りたい。
きこえてくるのは、学園の東にある小さな林の方。
林に入ってからは、慎重に。木の幹に隠れながら、音の方へ少しずつ近づく。
人影が見えて、ツツジの木のそばにしゃがみこんだ。
枝と枝の間からそっと見てみる。
女の子だ。ツヤのある長い髪、大きな瞳……って、あれ?
もしかして桜宮さん?
それに、あれはフルート……だよね⁈
桜宮さんはフルートを吹いた後、そばにある大きな岩に座ってカバンからノートを出した。何かを書いて、夕焼けの空を見上げて、また書いてる。
何してるんだろう?
「桜宮さん!」
「ひえっ?」
茂みから出て近づいていくと、桜宮さんが大きな目を更に大きくして立ち上がった。
「あああ、きっ、北川さん⁈ どうしてここに」
桜宮さんはあせったのか、持っていたノートとペンを取り落とした。
風が吹いて、ちょうどわたしの足元にバサッとノートが飛んでくる。
広がったノートには、たくさん文字が書かれている。
(花びらが舞う風の中 曇った心に光がさしてきて……)
なんだろ? 詩? 歌詞かな?
「きゃああああ」
桜宮さんがスライディングしてきて、ノートをかっさらっていった。
「桜宮さん……あの」
桜宮さんはノートをぎゅっと抱きしめて、首を横に振った。
「書いてませんっ、詩とか書いてませんから!」
「桜宮さん、フルートって……」
「ちがいますっ、フルートなんて吹いてません! わたしの鼻歌ですっ。ふんふんふーーん」
桜宮さんが急に歌いだして、
「ふはっ……」
つい吹き出しちゃったら、笑いが止まらなくなった。
急に笑い出したわたしを、桜宮さんが不思議そうに見つめる。
「ご、ごめん、笑っちゃって。あ、でも元気出た……」
「元気、なかったのですか?」
桜宮さんが心配そうにのぞきこんでくる。
「うん。実はね……」
文化祭の許可をもらいにいったこと。学園長と生徒会の前で箏を弾いたこと。
でも、完璧には弾けずに学園長に「あきれた」って言われたこと。
話が長くなったけど、桜宮さんは真剣な顔できいてくれた。
「そうでしたか。じゃあ、わたしも隠す必要はないですね」
ほっとしたように桜宮さんが笑った。
「わたし、小学生の時は吹奏楽クラブだったんですよ。フルートの音色がとっても好きで、中学生になってもやりたいって思ってたんですけど、学園はこんな感じで……」
桜宮さんがさみしそうにうつむいた。
「見つからないように、学園の誰も来ないところを探して吹いてたんです。この学園は荒れてるとは言え、広くて素敵なところがあるから。けど、最近、だれかにきかれてたような気配がして」
「あ、それ、たぶんわたしだよ」
自分を指さすと、桜宮さんが胸をなでおろした。
「北川さんならよかったです。生徒会だったらどうしようかと思ってましたから」
「あのー、どうして空鏡学園に入学したの? 悪いウワサ立ってたでしょ? 吹奏楽部もないって分かってたと思うのに」
「それは……」
桜宮さんはわたしを見つめてニコッと笑った。
「学園長の……北川留五郎さんに会いたかったのです。でも、学園長が変わったことは知らずに入学してしまって」
「えっ? じいちゃんに?」
「じいちゃん? もしかして留五郎さんはるりさんのおじいさまですか? はっ。そういえば同じ苗字……」
うなずくと、桜宮さんが「なんて偶然!」と両手で口をおおった。
「留五郎さんはお元気ですか? わたし、ずっとお会いしたくて……」
「ごめん。じいちゃん、亡くなったんだ。二年前に」
「えっ」
小屋を出たら、空に夕焼けが広がっていた。
ミドリくんと月都くんは、文化祭でやるお茶席の話をするため、まだ残ってる。
わたしはちょっと疲れちゃったから、先に帰らせてもらうことにした。
ほんとはわたしも話に参加したかったけど、さっきからすごく気持ちが重い。
ピリピリした空気。生徒会の人の笑う声。学園長の冷たい視線。
勝手にふるえてくる自分の手……
また、文化祭の時にあんな中で弾かなきゃならないのかな。
……いやだ。もう……弾きたくないな。
でも、ミドリくんも月都くんもがんばってるのに、こんなこと言えないよね。
下を向いて歩いてたら、涙がこみあげてきた。
どうして音をまちがったんだろう。あんなに練習したのに。
でも、初心者が弾いた演奏なんて誰もききたくないよね。
鼻の奥が痛くなって、まぶたが熱くなってくる。
泣くな。泣いちゃダメだ。上を向け! そう思うけど、顔が全然上がらない。
その時、風にのってきれいな旋律がきこえてきた。
この音色……またこの笛みたいな音だ。優しくて、透明で……。
目をごしっとふいて、かけだす。
今日こそ。今日こそは、誰が吹いてるのか知りたい。
きこえてくるのは、学園の東にある小さな林の方。
林に入ってからは、慎重に。木の幹に隠れながら、音の方へ少しずつ近づく。
人影が見えて、ツツジの木のそばにしゃがみこんだ。
枝と枝の間からそっと見てみる。
女の子だ。ツヤのある長い髪、大きな瞳……って、あれ?
もしかして桜宮さん?
それに、あれはフルート……だよね⁈
桜宮さんはフルートを吹いた後、そばにある大きな岩に座ってカバンからノートを出した。何かを書いて、夕焼けの空を見上げて、また書いてる。
何してるんだろう?
「桜宮さん!」
「ひえっ?」
茂みから出て近づいていくと、桜宮さんが大きな目を更に大きくして立ち上がった。
「あああ、きっ、北川さん⁈ どうしてここに」
桜宮さんはあせったのか、持っていたノートとペンを取り落とした。
風が吹いて、ちょうどわたしの足元にバサッとノートが飛んでくる。
広がったノートには、たくさん文字が書かれている。
(花びらが舞う風の中 曇った心に光がさしてきて……)
なんだろ? 詩? 歌詞かな?
「きゃああああ」
桜宮さんがスライディングしてきて、ノートをかっさらっていった。
「桜宮さん……あの」
桜宮さんはノートをぎゅっと抱きしめて、首を横に振った。
「書いてませんっ、詩とか書いてませんから!」
「桜宮さん、フルートって……」
「ちがいますっ、フルートなんて吹いてません! わたしの鼻歌ですっ。ふんふんふーーん」
桜宮さんが急に歌いだして、
「ふはっ……」
つい吹き出しちゃったら、笑いが止まらなくなった。
急に笑い出したわたしを、桜宮さんが不思議そうに見つめる。
「ご、ごめん、笑っちゃって。あ、でも元気出た……」
「元気、なかったのですか?」
桜宮さんが心配そうにのぞきこんでくる。
「うん。実はね……」
文化祭の許可をもらいにいったこと。学園長と生徒会の前で箏を弾いたこと。
でも、完璧には弾けずに学園長に「あきれた」って言われたこと。
話が長くなったけど、桜宮さんは真剣な顔できいてくれた。
「そうでしたか。じゃあ、わたしも隠す必要はないですね」
ほっとしたように桜宮さんが笑った。
「わたし、小学生の時は吹奏楽クラブだったんですよ。フルートの音色がとっても好きで、中学生になってもやりたいって思ってたんですけど、学園はこんな感じで……」
桜宮さんがさみしそうにうつむいた。
「見つからないように、学園の誰も来ないところを探して吹いてたんです。この学園は荒れてるとは言え、広くて素敵なところがあるから。けど、最近、だれかにきかれてたような気配がして」
「あ、それ、たぶんわたしだよ」
自分を指さすと、桜宮さんが胸をなでおろした。
「北川さんならよかったです。生徒会だったらどうしようかと思ってましたから」
「あのー、どうして空鏡学園に入学したの? 悪いウワサ立ってたでしょ? 吹奏楽部もないって分かってたと思うのに」
「それは……」
桜宮さんはわたしを見つめてニコッと笑った。
「学園長の……北川留五郎さんに会いたかったのです。でも、学園長が変わったことは知らずに入学してしまって」
「えっ? じいちゃんに?」
「じいちゃん? もしかして留五郎さんはるりさんのおじいさまですか? はっ。そういえば同じ苗字……」
うなずくと、桜宮さんが「なんて偶然!」と両手で口をおおった。
「留五郎さんはお元気ですか? わたし、ずっとお会いしたくて……」
「ごめん。じいちゃん、亡くなったんだ。二年前に」
「えっ」
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