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7章
7 隠れスパライル
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「ふぇっ、長いっ」
神社へと続く石段を重い足をひきずりながら、のぼっていく。
なんだか今日は、走ってばっかりでクタクタだよ。
しかも、この石段、すっごく長いし。
瑞希もさすがに息が切れてきたみたいで、横顔に疲れが見える。
やっとのぼりきって、大きな鳥居をくぐったら、
「あっ……」
耳の奥で小さく聞こえる重低音に足を止めた。
「聞こえる。ちょっとだけど……」
「本当か? じゃあ、やっぱり……」
瑞希が期待をこめた目を私に向けてくる。
「たぶん、この奥だと思う」
かすかな音を頼りに、私はゆっくり奥へ進んだ。
静かな境内に砂利を踏みしめる音が響く。
灯篭がある横道へそれて、奥へ奥へと入っていくと、木がうっそうと茂る林へとつながっていた。
しばらく歩くと、行き止まり。
雑草が生い茂っていて、大きな木がここで道は終わりだと主張するように立っている。
「何もないな」
瑞希が辺りを見まわしてから、雑草をかきわけた。
「でも、聞こえるよ。確かに……この辺りで」
何年も生きてるような太い幹の木と倒れかかっている木の間。
何もないこの間の空間に、重い音が聞こえる。
「そう言えば河本さんが言ってたよね……」
(空間と空間の複雑な場所にできていて、どの専門家も観測できなかった)
ってことは、やっぱり肉眼では見えないってこと?
その時、時間移動機がピピッと鳴った。
瑞希がイヤホンみたいなものを伸ばすと、先についてる丸いところから、ジジジッと音がした。
「……瑞希、ひなり、聞こえるか?」
リゼだ!
なんだかほっとして、私は思わず声が大きくなる。
「うん。聞こえるよ。そっちは?」
「バッチリ聞こえる! あぁ、それよりも! 悪い! 実は、スパイラルが消えてしまったんだ。サイリと一緒になんとか消えないように作業をしてたんだけど……」
「ええっ? そうなの? じゃあ……」
「うん。戻る方法は時間移動機だけになった。だから、絶対になくしたり壊したりするなよ。そっちはどうだ?」
「ひなりがスパイラルの音を聞きとって、その場所に来たところ」
瑞希が落ち着いた声で返すと、リゼの声がワントーン高くなった。
「本当か? よしっ、じゃあ、すぐにサイリからの薬をかけて……」
「それが……音は聞こえるんだけど、スパイラル自体が見えないの」
「やはり。観測できない空間と空間のはざまに、スパイラルがあると思われる」
ボソリと河本さんの小さな声が聞こえてきた。
そっか。やっぱりこのスパイラルは「見えない」んだ。
「それじゃあ、ひなり、音を聞き取って、そこにサイリからもらった液体を振りかけてみて。見た目は何もないところだが、確かにあるはずだ」
「うん、分かった」
ポシェットから瓶を取り出して、耳をすませた。
ブゥン……
聞こえる。聞こえるんだけど、本当に集中してないと分からないくらいの音だ。
一歩、二歩、半歩と立つ位置を調整する。
何もない壁に耳をひっつけて、探ってる感じだ。
カサリカサリと落ち葉を踏む自分の足音が邪魔なくらい。
目を閉じて、音に集中する。
「うん。たぶん、ここだ」
触れられないけど、私は左手をその場所にかざした。
右手でポシェットから瓶を取り出す。
「ごめん、瑞希。フタ、開けてくれるかな?」
瑞希がフタを開けてくれて、私はサッと瓶をかまえた。
「えいっ!」
エメラルドグリーンの液体をその空間めがけて、ばしゃっとかける。
その瞬間、
シュウウッ……
蒸発したみたいに、液体が煙になった。
「うわっ……」
思わず、瑞希が声を出す。
まるで理科の実験みたい。液体が気体になる瞬間を見たような。
耳に集中するけど、もう何も聞こえない。
「音が消えたよ。これでいいのかな?」
時間移動機に向かって言うと、
「あぁ。それで大丈夫だ」
静かな河本さんの声が返ってきた。
「やったな! ひなり、瑞希。じゃあすぐに時間移動機で帰ってきてくれ。帰ってくるまで気を抜くなよ。また後で」
プツッと通話が切れて、瑞希がイヤホンみたいなコードをシュルンと直した。
「任務完了、だね」
ほっとして言うと、瑞希もふわりと笑った。
「そうだな」
「じゃあ、帰ろう」
瑞希のそばへと近づいたら、ピピッと時間移動機から音が鳴った。
画面を見た瑞希の表情がこわばる。
「まずい。画面が薄くなってる。パワーメーターが低いし……これ……使えなくなるんじゃないか?」
「ええっ⁈ じゃあ、ますます早く帰らなきゃ」
言ったけど、瑞希はじいっと何かを考えこんで、黙ってしまった。
「どしたの、瑞希? 帰ろう?」
瑞希の袖をつかんだら、その手を上からぎゅっと握られた。
「瑞希?」
顔をのぞきこむけど、うつむいてまだ何かを考えてる。
「どうしたの? 気分悪いの?」
心配になってきくと、瑞希がきゅっと握ってる手に力を入れて、顔をあげた。
「こんな機会はないからな……一か八かだ。行くぞ、ひなり」
瑞希が私の手を握ったまま、いきなり走り出した。
「え? ちょっと、み、瑞希⁈」
神社へと続く石段を重い足をひきずりながら、のぼっていく。
なんだか今日は、走ってばっかりでクタクタだよ。
しかも、この石段、すっごく長いし。
瑞希もさすがに息が切れてきたみたいで、横顔に疲れが見える。
やっとのぼりきって、大きな鳥居をくぐったら、
「あっ……」
耳の奥で小さく聞こえる重低音に足を止めた。
「聞こえる。ちょっとだけど……」
「本当か? じゃあ、やっぱり……」
瑞希が期待をこめた目を私に向けてくる。
「たぶん、この奥だと思う」
かすかな音を頼りに、私はゆっくり奥へ進んだ。
静かな境内に砂利を踏みしめる音が響く。
灯篭がある横道へそれて、奥へ奥へと入っていくと、木がうっそうと茂る林へとつながっていた。
しばらく歩くと、行き止まり。
雑草が生い茂っていて、大きな木がここで道は終わりだと主張するように立っている。
「何もないな」
瑞希が辺りを見まわしてから、雑草をかきわけた。
「でも、聞こえるよ。確かに……この辺りで」
何年も生きてるような太い幹の木と倒れかかっている木の間。
何もないこの間の空間に、重い音が聞こえる。
「そう言えば河本さんが言ってたよね……」
(空間と空間の複雑な場所にできていて、どの専門家も観測できなかった)
ってことは、やっぱり肉眼では見えないってこと?
その時、時間移動機がピピッと鳴った。
瑞希がイヤホンみたいなものを伸ばすと、先についてる丸いところから、ジジジッと音がした。
「……瑞希、ひなり、聞こえるか?」
リゼだ!
なんだかほっとして、私は思わず声が大きくなる。
「うん。聞こえるよ。そっちは?」
「バッチリ聞こえる! あぁ、それよりも! 悪い! 実は、スパイラルが消えてしまったんだ。サイリと一緒になんとか消えないように作業をしてたんだけど……」
「ええっ? そうなの? じゃあ……」
「うん。戻る方法は時間移動機だけになった。だから、絶対になくしたり壊したりするなよ。そっちはどうだ?」
「ひなりがスパイラルの音を聞きとって、その場所に来たところ」
瑞希が落ち着いた声で返すと、リゼの声がワントーン高くなった。
「本当か? よしっ、じゃあ、すぐにサイリからの薬をかけて……」
「それが……音は聞こえるんだけど、スパイラル自体が見えないの」
「やはり。観測できない空間と空間のはざまに、スパイラルがあると思われる」
ボソリと河本さんの小さな声が聞こえてきた。
そっか。やっぱりこのスパイラルは「見えない」んだ。
「それじゃあ、ひなり、音を聞き取って、そこにサイリからもらった液体を振りかけてみて。見た目は何もないところだが、確かにあるはずだ」
「うん、分かった」
ポシェットから瓶を取り出して、耳をすませた。
ブゥン……
聞こえる。聞こえるんだけど、本当に集中してないと分からないくらいの音だ。
一歩、二歩、半歩と立つ位置を調整する。
何もない壁に耳をひっつけて、探ってる感じだ。
カサリカサリと落ち葉を踏む自分の足音が邪魔なくらい。
目を閉じて、音に集中する。
「うん。たぶん、ここだ」
触れられないけど、私は左手をその場所にかざした。
右手でポシェットから瓶を取り出す。
「ごめん、瑞希。フタ、開けてくれるかな?」
瑞希がフタを開けてくれて、私はサッと瓶をかまえた。
「えいっ!」
エメラルドグリーンの液体をその空間めがけて、ばしゃっとかける。
その瞬間、
シュウウッ……
蒸発したみたいに、液体が煙になった。
「うわっ……」
思わず、瑞希が声を出す。
まるで理科の実験みたい。液体が気体になる瞬間を見たような。
耳に集中するけど、もう何も聞こえない。
「音が消えたよ。これでいいのかな?」
時間移動機に向かって言うと、
「あぁ。それで大丈夫だ」
静かな河本さんの声が返ってきた。
「やったな! ひなり、瑞希。じゃあすぐに時間移動機で帰ってきてくれ。帰ってくるまで気を抜くなよ。また後で」
プツッと通話が切れて、瑞希がイヤホンみたいなコードをシュルンと直した。
「任務完了、だね」
ほっとして言うと、瑞希もふわりと笑った。
「そうだな」
「じゃあ、帰ろう」
瑞希のそばへと近づいたら、ピピッと時間移動機から音が鳴った。
画面を見た瑞希の表情がこわばる。
「まずい。画面が薄くなってる。パワーメーターが低いし……これ……使えなくなるんじゃないか?」
「ええっ⁈ じゃあ、ますます早く帰らなきゃ」
言ったけど、瑞希はじいっと何かを考えこんで、黙ってしまった。
「どしたの、瑞希? 帰ろう?」
瑞希の袖をつかんだら、その手を上からぎゅっと握られた。
「瑞希?」
顔をのぞきこむけど、うつむいてまだ何かを考えてる。
「どうしたの? 気分悪いの?」
心配になってきくと、瑞希がきゅっと握ってる手に力を入れて、顔をあげた。
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瑞希が私の手を握ったまま、いきなり走り出した。
「え? ちょっと、み、瑞希⁈」
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