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第四話、美しいつがい
(一)
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お手伝いをさせて貰って三日。
朝の煮干しをカリカリと美味しそうに堪能している子たちを尻目に私は三日間の間に頭の中で考えた動線と人の捌き方を考えていた。すると宮司さんが「すず子さん、少し」と奥の事務所兼宮司さんが控えている部屋に呼ばれて一枚の茶封筒とがさごそと音がする風呂敷包みを手渡される。
「私からのほんの気持ちだから」
宮司さんの言葉に、その茶封筒の中身が何なのか分かってしまう。
「あなたの存在は経費として計上出来ない……私からの気持ち分だけで申し訳ないけれど」
「いえそんな、頂く訳には。まだ三日しかお手伝いしていませんし」
「……正直、私も歳ですからそろそろ“人間の見習い”も本格的にお願いしようとしていて。黒光様にも話は通してあって決まるまでの間、すず子さんには時々手伝いをお願いをしてしまうかもしれないのですが」
私に出来る事があれば、と宮司さんの言葉に私も言葉を重ねてありがたく受け取る事にすると宮司さんもどこかほっとした雰囲気になった。
「あの、こちらの風呂敷の方は……」
「向こうでも軽く何か口に出来るように、と思ったのですが少々子供だましだったかもしれませんね」
笑っている宮司さんを見て少しだけ風呂敷の結び目をほどかせて貰うと中に見えたのは田舎の祖父母の家に遊びに行った時に出てくる定番の菓子メーカーのアソートセット、と言う豪華な彩り。そう言えば宮司さんのデスクにはお菓子の盛られた深めの盆が置いてある。
「何から何まで、ありがとうございます。助かります」
「いえいえ、若い方の口に合うかどうか」
風呂敷包みも受け取り、宮司さんに一礼をする。神様や宮司さんたちの為にも頑張ろう、と心から思えた瞬間だった。
今日もせわしない午前中だった。
それでも私の考えた動線に沿って並んで貰ったり、聞かれる機会の多い事を従来よりもっと分かりやすいよう書き記し、俗にならない程度に小さな工夫を積み重ねて行く。
勿論、社務所内の動線のシステム化も欠かさない。
宮司さんも高齢、神社と言う世間からどこか隔絶された場所は現代の人間の行動と噛みあわない事が確かにあるのだと思う。
それで……私はこのまま、人ではない国芳さんのお嫁さんになっても良いのだろうか。
そうしたら私は、人間のままでいられるのだろうか。
昼の休憩の間に拝殿に上がらせて貰い、神様に御挨拶をする。
今日は三男猫の見習いさんが筆を執っていて、私ににこっと笑いかけると参拝者もいなかったので少し席を外してくれる。
しんと静まり返った場所は心地よく、揺れる意識を整えるように正座をして少し、瞼を閉じれば開け放たれている拝殿に風が通り、木々のざわめきが耳に入ってきた。
これは巡り合わせなのだと神様が囁いているようで、落ち着いて行く心の中にある国芳さんの姿に胸が少し切なくなる。会いたいな、って。
「すず子さま……?」
たまちゃんの声がして緩く振り向く。
「今、すず子さま……あ、いえ……今日は早くあがってもよいそうなのでいかがしますか?」
少したまちゃんが何か言いそうになって止めたのが気になったけれどそれなら二人で拝殿までの参道の掃き掃除をしてから帰ろうか、と提案すれば「では宮司さんにつたえてきますね」と行ってしまった。
さり、さり、と袴の擦れる音にも慣れた。
静まる心を持ってもう一度、神様に一礼をしてから拝殿の外に出て社務所の外に備え付けられている掃除用具入れの物置から竹ぼうきや塵取りを取り出す。
ふと、視線に気が付いて振り返れば二人の男性。今、確かに私に向けてスマートフォンのレンズを構えていたような手振り。すぐにバッグの中に入れたようだけど神聖な場所で、手伝いとは言え装束の女性を盗撮するのは良くない。神様はどこかで見ていらっしゃると言うのに。
あまりの無遠慮さにこれは色々大変だ、と思いながらその行動を牽制するように「こんにちは」と声を掛ければその人たちは行ってしまった。
「今の人の子、なんだかよくない気配がしました」
「そうね……うん、程々にして貰わないと」
浅い欲望、節操のない人の視線。
――この時私は自分がどのような存在に変わりつつあるのか、まだ何も分かっていなかった。
朝の煮干しをカリカリと美味しそうに堪能している子たちを尻目に私は三日間の間に頭の中で考えた動線と人の捌き方を考えていた。すると宮司さんが「すず子さん、少し」と奥の事務所兼宮司さんが控えている部屋に呼ばれて一枚の茶封筒とがさごそと音がする風呂敷包みを手渡される。
「私からのほんの気持ちだから」
宮司さんの言葉に、その茶封筒の中身が何なのか分かってしまう。
「あなたの存在は経費として計上出来ない……私からの気持ち分だけで申し訳ないけれど」
「いえそんな、頂く訳には。まだ三日しかお手伝いしていませんし」
「……正直、私も歳ですからそろそろ“人間の見習い”も本格的にお願いしようとしていて。黒光様にも話は通してあって決まるまでの間、すず子さんには時々手伝いをお願いをしてしまうかもしれないのですが」
私に出来る事があれば、と宮司さんの言葉に私も言葉を重ねてありがたく受け取る事にすると宮司さんもどこかほっとした雰囲気になった。
「あの、こちらの風呂敷の方は……」
「向こうでも軽く何か口に出来るように、と思ったのですが少々子供だましだったかもしれませんね」
笑っている宮司さんを見て少しだけ風呂敷の結び目をほどかせて貰うと中に見えたのは田舎の祖父母の家に遊びに行った時に出てくる定番の菓子メーカーのアソートセット、と言う豪華な彩り。そう言えば宮司さんのデスクにはお菓子の盛られた深めの盆が置いてある。
「何から何まで、ありがとうございます。助かります」
「いえいえ、若い方の口に合うかどうか」
風呂敷包みも受け取り、宮司さんに一礼をする。神様や宮司さんたちの為にも頑張ろう、と心から思えた瞬間だった。
今日もせわしない午前中だった。
それでも私の考えた動線に沿って並んで貰ったり、聞かれる機会の多い事を従来よりもっと分かりやすいよう書き記し、俗にならない程度に小さな工夫を積み重ねて行く。
勿論、社務所内の動線のシステム化も欠かさない。
宮司さんも高齢、神社と言う世間からどこか隔絶された場所は現代の人間の行動と噛みあわない事が確かにあるのだと思う。
それで……私はこのまま、人ではない国芳さんのお嫁さんになっても良いのだろうか。
そうしたら私は、人間のままでいられるのだろうか。
昼の休憩の間に拝殿に上がらせて貰い、神様に御挨拶をする。
今日は三男猫の見習いさんが筆を執っていて、私ににこっと笑いかけると参拝者もいなかったので少し席を外してくれる。
しんと静まり返った場所は心地よく、揺れる意識を整えるように正座をして少し、瞼を閉じれば開け放たれている拝殿に風が通り、木々のざわめきが耳に入ってきた。
これは巡り合わせなのだと神様が囁いているようで、落ち着いて行く心の中にある国芳さんの姿に胸が少し切なくなる。会いたいな、って。
「すず子さま……?」
たまちゃんの声がして緩く振り向く。
「今、すず子さま……あ、いえ……今日は早くあがってもよいそうなのでいかがしますか?」
少したまちゃんが何か言いそうになって止めたのが気になったけれどそれなら二人で拝殿までの参道の掃き掃除をしてから帰ろうか、と提案すれば「では宮司さんにつたえてきますね」と行ってしまった。
さり、さり、と袴の擦れる音にも慣れた。
静まる心を持ってもう一度、神様に一礼をしてから拝殿の外に出て社務所の外に備え付けられている掃除用具入れの物置から竹ぼうきや塵取りを取り出す。
ふと、視線に気が付いて振り返れば二人の男性。今、確かに私に向けてスマートフォンのレンズを構えていたような手振り。すぐにバッグの中に入れたようだけど神聖な場所で、手伝いとは言え装束の女性を盗撮するのは良くない。神様はどこかで見ていらっしゃると言うのに。
あまりの無遠慮さにこれは色々大変だ、と思いながらその行動を牽制するように「こんにちは」と声を掛ければその人たちは行ってしまった。
「今の人の子、なんだかよくない気配がしました」
「そうね……うん、程々にして貰わないと」
浅い欲望、節操のない人の視線。
――この時私は自分がどのような存在に変わりつつあるのか、まだ何も分かっていなかった。
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