R18 『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~』

緑野かえる

文字の大きさ
16 / 82
第四話、美しいつがい

(一)

しおりを挟む
 お手伝いをさせて貰って三日。
 朝の煮干しをカリカリと美味しそうに堪能している子たちを尻目に私は三日間の間に頭の中で考えた動線と人の捌き方を考えていた。すると宮司さんが「すず子さん、少し」と奥の事務所兼宮司さんが控えている部屋に呼ばれて一枚の茶封筒とがさごそと音がする風呂敷包みを手渡される。

「私からのほんの気持ちだから」

 宮司さんの言葉に、その茶封筒の中身が何なのか分かってしまう。

「あなたの存在は経費として計上出来ない……私からの気持ち分だけで申し訳ないけれど」
「いえそんな、頂く訳には。まだ三日しかお手伝いしていませんし」
「……正直、私も歳ですからそろそろ“人間の見習い”も本格的にお願いしようとしていて。黒光様にも話は通してあって決まるまでの間、すず子さんには時々手伝いをお願いをしてしまうかもしれないのですが」

 私に出来る事があれば、と宮司さんの言葉に私も言葉を重ねてありがたく受け取る事にすると宮司さんもどこかほっとした雰囲気になった。

「あの、こちらの風呂敷の方は……」
「向こうでも軽く何か口に出来るように、と思ったのですが少々子供だましだったかもしれませんね」

 笑っている宮司さんを見て少しだけ風呂敷の結び目をほどかせて貰うと中に見えたのは田舎の祖父母の家に遊びに行った時に出てくる定番の菓子メーカーのアソートセット、と言う豪華な彩り。そう言えば宮司さんのデスクにはお菓子の盛られた深めの盆が置いてある。

「何から何まで、ありがとうございます。助かります」
「いえいえ、若い方の口に合うかどうか」

 風呂敷包みも受け取り、宮司さんに一礼をする。神様や宮司さんたちの為にも頑張ろう、と心から思えた瞬間だった。

 今日もせわしない午前中だった。
 それでも私の考えた動線に沿って並んで貰ったり、聞かれる機会の多い事を従来よりもっと分かりやすいよう書き記し、俗にならない程度に小さな工夫を積み重ねて行く。
 勿論、社務所内の動線のシステム化も欠かさない。

 宮司さんも高齢、神社と言う世間からどこか隔絶された場所は現代の人間の行動と噛みあわない事が確かにあるのだと思う。

 それで……私はこのまま、人ではない国芳さんのお嫁さんになっても良いのだろうか。
 そうしたら私は、人間のままでいられるのだろうか。

 昼の休憩の間に拝殿に上がらせて貰い、神様に御挨拶をする。
 今日は三男猫の見習いさんが筆を執っていて、私ににこっと笑いかけると参拝者もいなかったので少し席を外してくれる。

 しんと静まり返った場所は心地よく、揺れる意識を整えるように正座をして少し、瞼を閉じれば開け放たれている拝殿に風が通り、木々のざわめきが耳に入ってきた。
 これは巡り合わせなのだと神様が囁いているようで、落ち着いて行く心の中にある国芳さんの姿に胸が少し切なくなる。会いたいな、って。

「すず子さま……?」

 たまちゃんの声がして緩く振り向く。

「今、すず子さま……あ、いえ……今日は早くあがってもよいそうなのでいかがしますか?」

 少したまちゃんが何か言いそうになって止めたのが気になったけれどそれなら二人で拝殿までの参道の掃き掃除をしてから帰ろうか、と提案すれば「では宮司さんにつたえてきますね」と行ってしまった。

 さり、さり、と袴の擦れる音にも慣れた。
 静まる心を持ってもう一度、神様に一礼をしてから拝殿の外に出て社務所の外に備え付けられている掃除用具入れの物置から竹ぼうきや塵取りを取り出す。

 ふと、視線に気が付いて振り返れば二人の男性。今、確かに私に向けてスマートフォンのレンズを構えていたような手振り。すぐにバッグの中に入れたようだけど神聖な場所で、手伝いとは言え装束の女性を盗撮するのは良くない。神様はどこかで見ていらっしゃると言うのに。

 あまりの無遠慮さにこれは色々大変だ、と思いながらその行動を牽制するように「こんにちは」と声を掛ければその人たちは行ってしまった。

「今の人の子、なんだかよくない気配がしました」
「そうね……うん、程々にして貰わないと」


 浅い欲望、節操のない人の視線。
 ――この時私は自分がどのような存在に変わりつつあるのか、まだ何も分かっていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月15日付で、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。 ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...