51 / 82
第十一話、すりあう
(一)
しおりを挟む
私のお披露目の為に慌ただしく、準備が進められている。
そんな中で私も、現世から離れる支度を進めていた。
両親にはとりあえず、良い人がいるとだけ……伝えた。
その人の仕事場に近い所に移り住むから、と同棲とははっきりとは言わずに濁してしまったけれど私もいい歳だし、言及はされなかった。変えた仕事も、神社の事務職と偽ってしまったけれどあまりそこは間違ってはいない。
ただ私の想う相手は、人ではない。
そして私も、きっとこの先。
「お早うございます」
「ああ、今日はやけに早い……な、」
自分の部屋で一人寝をしていた私は朝の支度を終え、たまちゃんと一緒に国芳さんの執務室に顔を出した。昨夜「おやすみなさい」と交わした後から随分と様変わりしてしまった私の姿に普段は凛々しい目元をしている人が瞼を見開き、深緑の目を丸くさせている。丁度、居合わせた黒光さんもまるで同じ表情で固まってしまった。
「重いですね」
扱うのに楽だったセミロングの私の髪が、お尻の下あたりまで長く伸びてしまっていた。
朝、何だか起きにくいと思って頭をもたげたらずるりと肩に掛かった長い髪。一瞬、怪奇現象か何かだと思って悲鳴を上げそうになった私は黒光さんの言葉を思い出す。
そして普段、一人で寝る時は枕元の手ぬぐいの上に国芳さんから贈られた首飾りを置いているのだけれどそこに小さな白い菊の花が一輪だけ置いてあった事が何よりの証拠だった。
そんな小さな花を持ってくるのは一匹、と言うかお一人しかいない。
とても尊く、大切なものなのでたまちゃんに頼んで用意して貰った盃に水を張って浮かべて、今は部屋に飾っている。
流石に不揃いだった毛先はたまちゃんに切り揃えて貰って、そのまま後ろに流していた。
お披露目の時には“かもじ”と言う昔の付け毛を付けましょう、と言っていたたまちゃんも「この長さなら本格的なおすべらかしになりますね」と言って、どこから引っ張り出して来たのか鮮やかな色調の絵巻物を見せて説明してくれた。
後ろに流した地毛を背中の中間あたりでゆったりと結んで、その根元に長い付け毛をすると床に綺麗に広がる、と言う古来の髪形に対する指南書のような絵巻物。今みたいに後ろに流したままでも正装なのだそうだけど結んでいた方が可愛い、とのたまちゃんの意見。
「神は、俺がすず子と寝ていない所を見計らって……」
朝から恥ずかしい事を言わないでください、とも言えず。
でも、神様は私が現世での粗方の用事を済ましてしまったのをご存じのようだった。暫くは現世に行かなくても、行ったとしても宮司さんからお借りしている神社の目の前のアパートくらいだった。
「神は気に入った者にはとことん手を掛けるが……黒、すず子の衣装に髪を結う紐を追加だ。玉とも相談して、早めに頼む」
「畏まりました」
「あの、今日はすず子さまに小袿をはおって頂いてお化粧などをどうするか決めようとしていたので、しばらく東の部屋にいます」
そう、あれやこれやとやってくたびれてしまう前に国芳さんに見せに来た。
そして私は知っている。
国芳さんの機嫌が良い時の口角はきゅ、と上がっていて耳が少し横になって、瞳も優しく細められていることを。たまちゃんと黒光さんがいる手前、言葉にはしていないけれど私の突然の長くなった髪も気に入ってくれているようだった。
そんな中で私も、現世から離れる支度を進めていた。
両親にはとりあえず、良い人がいるとだけ……伝えた。
その人の仕事場に近い所に移り住むから、と同棲とははっきりとは言わずに濁してしまったけれど私もいい歳だし、言及はされなかった。変えた仕事も、神社の事務職と偽ってしまったけれどあまりそこは間違ってはいない。
ただ私の想う相手は、人ではない。
そして私も、きっとこの先。
「お早うございます」
「ああ、今日はやけに早い……な、」
自分の部屋で一人寝をしていた私は朝の支度を終え、たまちゃんと一緒に国芳さんの執務室に顔を出した。昨夜「おやすみなさい」と交わした後から随分と様変わりしてしまった私の姿に普段は凛々しい目元をしている人が瞼を見開き、深緑の目を丸くさせている。丁度、居合わせた黒光さんもまるで同じ表情で固まってしまった。
「重いですね」
扱うのに楽だったセミロングの私の髪が、お尻の下あたりまで長く伸びてしまっていた。
朝、何だか起きにくいと思って頭をもたげたらずるりと肩に掛かった長い髪。一瞬、怪奇現象か何かだと思って悲鳴を上げそうになった私は黒光さんの言葉を思い出す。
そして普段、一人で寝る時は枕元の手ぬぐいの上に国芳さんから贈られた首飾りを置いているのだけれどそこに小さな白い菊の花が一輪だけ置いてあった事が何よりの証拠だった。
そんな小さな花を持ってくるのは一匹、と言うかお一人しかいない。
とても尊く、大切なものなのでたまちゃんに頼んで用意して貰った盃に水を張って浮かべて、今は部屋に飾っている。
流石に不揃いだった毛先はたまちゃんに切り揃えて貰って、そのまま後ろに流していた。
お披露目の時には“かもじ”と言う昔の付け毛を付けましょう、と言っていたたまちゃんも「この長さなら本格的なおすべらかしになりますね」と言って、どこから引っ張り出して来たのか鮮やかな色調の絵巻物を見せて説明してくれた。
後ろに流した地毛を背中の中間あたりでゆったりと結んで、その根元に長い付け毛をすると床に綺麗に広がる、と言う古来の髪形に対する指南書のような絵巻物。今みたいに後ろに流したままでも正装なのだそうだけど結んでいた方が可愛い、とのたまちゃんの意見。
「神は、俺がすず子と寝ていない所を見計らって……」
朝から恥ずかしい事を言わないでください、とも言えず。
でも、神様は私が現世での粗方の用事を済ましてしまったのをご存じのようだった。暫くは現世に行かなくても、行ったとしても宮司さんからお借りしている神社の目の前のアパートくらいだった。
「神は気に入った者にはとことん手を掛けるが……黒、すず子の衣装に髪を結う紐を追加だ。玉とも相談して、早めに頼む」
「畏まりました」
「あの、今日はすず子さまに小袿をはおって頂いてお化粧などをどうするか決めようとしていたので、しばらく東の部屋にいます」
そう、あれやこれやとやってくたびれてしまう前に国芳さんに見せに来た。
そして私は知っている。
国芳さんの機嫌が良い時の口角はきゅ、と上がっていて耳が少し横になって、瞳も優しく細められていることを。たまちゃんと黒光さんがいる手前、言葉にはしていないけれど私の突然の長くなった髪も気に入ってくれているようだった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる