R18 『逆、猫吸い譚 ~雄の三毛猫三条国芳は今日もすず子の匂いを吸う~』

緑野かえる

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最終話、重なる匂いに酔わされて

(五)※

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 私は国芳さんの手が好き。
 そして国芳さんも私の手が好きなようで……今夜の私たちはそれぞれの手を、指先を絡め、静かに交わり合っていた。
 癖っ毛が少し揺れるくらい、私も少し肩を竦めるくらい。

 またたびのお酒で体がぽかぽかしているのか、はたまた二人でこうしているから温かいのか。
 強く交われば熱くなるけれどこうしてゆっくりするのも私は好きだった。

 優しくしてくれる人に私も返すように首元に額を押し付けるとふ、と笑って頬を寄せてくれるのが好き。
 そうしていると、お腹の所がじわじわと感覚が……国芳さんと繋がっている所が溶けて、不思議な感覚を覚える。夫婦としての純粋な欲に疼くのも心地いい。

「すず子、寝るなよ」
「そんな、ふふっ……でも、それくらい気持ちいいです」

 私の言葉にちょっと反応している国芳さんもきっと私と同じ気分なのかもしれない。気持ちよさと心地よさが一緒に混ざって、ふわふわとした不思議な気分になっている。

 するとふさ、と柔らかい毛の質感を太ももに感じた。

「ん……っ」

 国芳さんの持つ中毛癖っ毛のしっぽが私の足を撫でてくれる……と言うか、私がそれに“弱い”のをちゃんと覚えていた。私は彼の猫の毛並も好きだけれど今、それをされてしまうとお腹がきゅ、となってしまう。
 切なさが伝わってしまったらしく悪戯に、ふさふさと撫でられ続けてしまう。

「は、う……ッ、もう……あなたはすぐそう言うことを、するんですから……っ」
「俺の癖毛は妻のお気に入りだからな」

 素のままの足を撫でる柔らかい癖っ毛の質感に感じてしまう。

「んん、っ」
「ッ、すず子お前、それは……やめ、ろ」

 私だって、とお返しにぐっとお腹に力を入れれば苦しそうにする国芳さんがいる。ただ、緩めた途端に国芳さんにした快楽が全部私に返って来てしまってひくひくと足が震えてしまった。

「全くお前は……無理をするな」

 仕方なさそうな表情に合わせて耳も少し横になる。
 きっと私、今ならもう国芳さんのお顔を見なくても耳の仕草だけでどんな感情なのか分かるかもしれない。

「すず子、苦しくは無いか」

 頷けば安心したようにまた腰を揺らめかせる国芳さんからもたらされる切なくなる程の愛情と快楽。交わって、擦れる場所の気持ちよさに二人で言葉も無く没頭する。

 国芳さんの低くて甘い吐息が荒くなってくる頃には私ももう駄目、と漏れ出る喘ぎを何とか引き寄せた寝間着で塞いでずりずりと激しく布団の上で絶え間なく揺らされ、翻弄されていた。

「すまない……すず子、っ」

 謝らなくたっていいのに。

「お前を前にすると、抑えが、利かない」

 いいんじゃないですか、今日くらい。
 そう伝えたいのに口元が上手く動かないから、と国芳さんの腕を掴んで私の胸元に手を当てて欲しいと誘導する。多分、国芳さんは意図的にしか心を読まない。自らが読もうと思わない限り、心は覗かない。

「すず子……」

 私のして欲しい事が分かったらしく、国芳さんはそのままするりと私の胸から輪郭に手を滑らせて額を撫でてくれた。

「愛している」
「っ、んぅ……ッ!!」

 喉から振り絞ったような国芳さんの声に私は体ぎゅっと縮ませてしまった。
 ぐ、と呻いて揺り動かしていた腰を緩めようとした国芳さんに私は愛することをやめないで欲しいと欲深くねだれば互いに強く体を震わせて、爆ぜてしまった。

 ひゅう、ひゅう、と整わない呼吸に大きく胸を上下させていれば国芳さんが抱き寄せてくれる。
 繋がり合ったままで、ごろんと私を抱いて頭に頬ずりをする国芳さんがあまりにもすりすりしてくれると言うか……まるで匂いを染みつかせているような気がした。

 気の済むまで好きなだけさせておこうかな、と私もされるがままにしていたけれど……ふと、気が付く。

「ん、ん……っ」

 絡めている足、繋がり合ったままの私たち。
 情熱的にすりすりをしてくれる人の熱はまだ、冷めていなかった。


 ちゅくちゅくと私の首筋を舐め、吸っている音。
 座って足を寛げている上に私が向かい合わせにしなだれかかってぺったりと体をくっつけながら未だ冷めない熱を受け入れていた。

 私の腰と背中を抱いて、丹念に首筋を舐めている国芳さんの背中の向こう……人が足を投げ出すように癖っ毛のしっぽが後ろにあって、私はゆらゆらと感情のままに動いているそれを眺めている。
 時折、私に感じているみたいでびびび、と動くのがちょっと面白い。

「これが本当の毛繕いですね……ふふ、くすぐったい」

 私の言葉にご機嫌に揺れるしっぽ。

「お前と番になれて本当に良かった」
「危うく、嫌われちゃいそうになってましたからね」
「ああ、そうだな」

 ちゅ、と首筋を吸う音。

「妻の心の方がいつも数段上……俺もすず子を前にしては猫王の名も形無しのただの雄猫」

 はあ、と深く溜め息を吐いた国芳さんの吐息が私の耳を刺激してしまって肩がびく、と竦んでしまった。そんな私の反応に国芳さんは腕の力を強めて私を抱き締めてくれる。

「美しく、可愛い俺だけの番……」

 ぐ、と動かされる腰に合わせるように――と言っても体は勝手に愛している人の事を締め付けてしまうので私は国芳さんの呻る声をじかに耳に聞くことになってしまう。
 私に感じる人の声に気持ちは切なくなるばかりだった。

 強く擦られて生じる快楽じゃなくて心がすごく、感じている。

「ひ、あ、あ……ッ」
「すず子」
「んん……、もっと……して」
「ああ」

 分かった、と吐息交じりに腰を揺らしてくれる国芳さんが何を思ったのか、それとも初めからこの交わり方をしたいと体を引き寄せてくれた時から企てていたのか三角の耳の先が私の頬を掠めた。

「――っ、あ……にゃ、う!!」

 国芳さんの歯の先が、丹念舐めていた私の首筋に食い込む。

「にゃ、あ゛……っあ、あ、や……い、く……ッ」

 心の奥深くから感じて、体が勝手に震えていた。
 何度も小さく甘く果てて、国芳さんのこと以外もう何も考えられなくなる。きっと今、私は夫である国芳さんにしか見せられないすごく恥ずかしい状態になっているけれど、いい。
 あなたになら私の全てを見せていい。

「ひ、あ……にゃ、あ…ッあ、あ」

 意識が白く、上り詰める。

「い……く、いく……にゃ、あああああ!!」

 喘ぎ果てる私の首筋を噛んだまま大きな獣のように喉から低く呻る国芳さんも腰をぶる、と震わせたけれど最後の最後まで性愛に噴き出す白濁を私に注ぎ込もうとしていた。

「や、あ……っ、ん、んッ」

 ぎり、と強く噛んだままどくどくしている国芳さんの熱。
 涙が滲むほど昇りつめた熱さに浮かされた私たちの意識はなんだかぐちゃぐちゃで、抱き合ったまま暫く放心状態になってしまっていた。
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