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第1話
誰も触れてはならぬ花 (5)
車を呼ぶためにスマートフォンを取り出す宗一郎。そして撫子も帰りはタクシーではなく宗一郎の車で帰ると自分の家の控えの者にメッセージを送る。
暫くバーカウンターに並んでいた二人は他愛もない話をして、それから連れ立ってクラブの外に出た。
まだ有象無象が多い夜の時間帯、もう間もなく到着する筈の宗一郎の車を待つ間も彼はずっと撫子を守るように立っていた。
「撫子さんが先に」
目の前に滑り込んでくるラグジュアリー仕様の黒塗りのSUV車は宗一郎の体のサイズに見合った外車だった。ドライバーが降りるよりも先に、さも当たり前のように彼は撫子をエスコートする。大きな体を少し屈め、舎弟がするように撫子がフレームに頭をぶつけないように腕でガードをしながらゆったりと座れる独立シートに彼女が着席をしてから自らも乗り込む。
ここは六本木。その辺で援助交際をしている女性に施されるエスコートとは格が違っていた。クラブの外にたむろしていた国見組や博堂会の者も二人の帰宅に気が付いて浅く頭を下げている風景がある。
「やっぱり俺はクラブってのには慣れませんが……」
撫子の体では余ってしまうような後部座席のシートにどっしりと座った宗一郎は「たまには寄ってみるもんですね」と話しかける。
たまたま通りかかり、関本に寄って行かないかと呼び止められなければ撫子とは随分と会っていなかったのだ。
「その様子だと宗君も流石に忙しいでしょ」
「ええ、ここ最近どうにも」
「それだけ、宗君も博堂会の重要な幹部だと思われている」
「そうかなあ……」
ここで宗一郎が自分との『許婚の関係だから』と話を持ち出さない事に撫子は気づいていた。彼が意図して口にしないのか、やはり今どき許婚で婿入りが決まっているだなんて茶番だと思っているのか。
いずれ、撫子の父親は博堂会会長になる。それよりも前に宗一郎を婿入りさせて龍堂会の筆頭、あるいは筆頭代行にさせようとしている。
辿る道が、親たちの手によって勝手に決められている。そうして何事も無くコトが進めば彼もいつか博堂会の会長に、関東の極道の頂点に立つ。
撫子は自分と言う存在がただの出世の為の足掛かりだけに使われた方がまだマシだと心のどこかで思っていた。それなのに宗一郎が嬉しそうに隣で話をしてくれる姿がどうしても撫子の胸をぎゅっと強く締め付ける。
自分は年上だから。慕ってくれているのも姉のような感覚なのだといつも言い聞かせてしまう。彼と恋仲になったって別に誰からも咎められないし、むしろ歓迎されるのは分かっている。
――でも、だって。
自分はいい大人だ。それだと言うのに宗一郎の好意を受け止めない言い訳をいくつも心の中で考えてしまう。どうにかなだめすかしていた親たちもそろそろ痺れを切らしてくる頃合い、だから。
それに宗一郎は自らが結構モテていると気づいているのだろうか。彼の地位に取り付こうとしているだけじゃない。中には彼の事を本当に恋愛対象に見ている女性だっている。
(宗君は格好よくて、優しいから)
流行りのツーブロックに甘めのルックスが体の大きさとギャップがあって、素直で……撫子は隣にいる宗一郎の“良いところ”を心の中でいくつも挙げては少し、俯いてしまう。
「撫子さん、眠い?」
優しい宗一郎の声に切なくなってしまう。
「うん……少し、お酒が入ってるから」
「掛ける物が無くて……あ、俺のジャケット」
ごそごそと大きな体を器用に捩って着ていたダークスーツのジャケットを脱いでしまう宗一郎はそれを隣の撫子の膝にばさりと掛ける。
裾や袖が下に付いてしまう、と撫子は慌てて胸元まで引き上げるが宗一郎の纏っている薄い男性物の香水がふいに香る。ジャケットには彼の体温が僅かに残っているから多分、そのせい。
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