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第3話
腹ペコ貪欲モンスター (3) ※
しおりを挟む棗の、藤堂の息が掛かっている所だからと言ってもこの待遇は……と思ってしまうような持て成しを受ける。一応、人の前に立つ前は私も化ける。この藤堂棗の私設秘書として存在する架空の女を演じる為に二日間連続してエステを受けた。どれもこれも全部、棗が手配をしたこと。爪もドレスの色合いに合うよう、長く整えられた。
「翠ちゃん、つやつやですべすべだね」
「人間の体って一定以上カネをかけるとこうなるんですね」
自分でもびっくりするくらい手触りのよくなった皮膚を堪能している棗はさっきからずっと私の体を抱いて、ご機嫌だった。
まだ挿入もして間も無いと言うのにいつもより、デカい。いや、棗は元からデカいのだけど……それだからか、僅かな違いが分かる。
「エステスタッフは翠ちゃんの体の事は絶対に外へ口外しない……たまにはどう?疲れた時とかさ」
「ん゛……う」
「翠ちゃん?」
最初からこの質量。
棗は確かに遅漏気味だったけれどなんか、最近は普通寄りになって来たような気がする。それでも、長い事に変わりはない。
終盤、棗の攻めにうんざりしはじめてしまうようなセックスじゃなくなってきていた。
「ナツメは、い゛た、くないの」
「え……」
するり、と私の体から手を離して驚いた表情を見せる。
「さっきから、ずっと」
「ごめん。痛かった?」
急では無く、傷つけないようにゆっくりと身を引こうとする男の腕を掴んで首を横に振る。それでも棗は私の下半身と顔を交互に見て様子を伺ってくれているようだった。
「……前よりデカい」
「やっぱりそれって翠ちゃんにとっては痛いんじゃ」
「ナツメのせいで、広がった」
「あらら……」
大丈夫だから、と掴んだ腕を自分に引き寄せれば体勢を崩した棗が私の体の上にのし掛かってしまった。私はどうやったら相手を引き倒せるかを知っているから、こんな状態でも自分より体の大きい男なんてどうにでもなる。
「ッ、く」
「ふ……っ、これでもプロですから、ね。暗殺ならこのまま寝首を掻いて……ナツメ?」
私の上にべったりとのし掛かったままで棗が動かない。
「翠ちゃんはさ」
いつもこんなことシてたの?と問われる。
「私が“あなた”にそうだと言って一体、何になるの」
私は今、藤堂棗に買い上げられているだけの存在。
たまたま、恐ろしい偶然で私の推しが棗だっただけで、棗もまた私を仕事として必要としていた。体の関係だって、相場より少し多く貰っているからオプションに含まれているだけ。
必中の射手でもあるけれど、女としての体も使っていた。使えるものはなんでも使って生きて来た。
だから、この藤堂棗の事だって。
「翠ちゃんごめんね、ごめん……」
「え、あ゛……っ?!」
ごり、と腹の奥に当たった棗の熱。
「もう翠ちゃんの事、全部買い上げて……ずっと私が」
どうしてその話になるんだ。
これはビジネスなんだから、そうなのだと私も言い聞かせていたんだから。
「ひ、ッあ、や……め゛、ナツメ、それや、だ」
「こうしてしまえば、翠ちゃんだって……逃げられない、よね」
「ん゛ぅ、や……や、だ、奥……くる、し」
棗の持つ質量に入り口も、奥も、ぎちぎちにされる。
「翠ちゃん……このまま私の事を、愛して」
「な、に言って」
ヤバい、と思った。
この男は今から、私を壊そうとしている。
当初からの私の読みは半分、当たっていた。
藤堂棗は女の事を壊す。
そこは合っている、けれど残りの半分はハズレもハズレ。これは私の読みが甘かった。
「にゃ、あ゛……っ、あ゛」
「翠ちゃんもっと、私の為に啼いて。ぎゅってして」
「やだ、明日、しご、と……ッ」
「こんな事で足腰立たなくなっちゃう翠ちゃんじゃ、ない、でしょ?」
棗を引き寄せていた筈の私は今、ベッドがもう沈まないくらいに身動きを取らせないよう深くホールドされたまま、腰を打ち付けられ始めていた。これでは流石の私も逃げられない。
私に逃走の意思を見て、本気で逃がさないようにしている男は執拗に腰を揺すって、抱え込んだ私の頭上で吐息を漏らす。
「翠ちゃん、どこにも行かないで。私のお嫁さんになって、さ……二人で、ずっと……」
お腹が、熱い。
この男に覚え込まされた、お腹の奥が。
「ひ、あっ、あ」
女をとことん甘やかして、破壊するのではない。
「翠ちゃん、翠ちゃん」
私は見た事がある。
――藤堂棗の、底なしの孤独を。
その孤独を埋める手段として女を持て成し、そして自分にもそうするようにと仕向けている。
共依存を、強制させようとしている。
ああ、とんだヤツに捕まってしまった。
甘いお菓子で女を誘って、懐に引き込んで、自らに依存させようとして。
「気持ちいいね。翠ちゃんは頑丈だから、こんな事しても」
壊れない。
そう、棗は確かに言った。
私は普通のオンナじゃないからね、ちっとやそっとじゃ壊れたりなんかしない。
「ナ、ツメ」
「うん?もうさっきからナカ凄いけど、イキそ?」
「キスして、良いよ」
これは賭けだ。
「ん、ぐ……ん゛ぅ……っ」
許した途端に棗は圧し潰していた私の背と頭を抱き上げて遠慮なしに舌まで挿れてくる。
上も下も、ぐちゃぐちゃに蹂躙される。
棗も苦しそうに、喘ぎながら私の心まで全部、喰らい尽くそうとしていたけれど。
イク、と棗にいつもより長い爪を立てると余計に腰を深く、早く、私を狂わせようと攻めて来て……爪先まで、痺れるような快楽に私の両膝は棗の体を締め付けて。
「ひ……あ……っ」
解放されて、引き抜かれた時には棗もすっかり萎えていた。
それくらい長い間、射精をした後も抱き締められていたけれど……多分、棗もいつもの調子に戻ったのだろう。
明日、と言うか今日の夜に仕事があると言うのに肝心の用心棒を自ら抱き潰して、破壊しようとしていた事実に動揺を隠せないでいた。
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