R18『東京くらくら享楽心中』

緑野かえる

文字の大きさ
35 / 81
第7話

二人の朝 (4)

しおりを挟む
 考えすぎても二人の関係は変わりはしない。
 舎弟は舎弟らしく、手元のスマートフォンで検索を掛け始める大崎も次第にラグの上に胡坐をかいて真剣に今日の二人の予定の為にあれやこれやと行先を絞り始める。

 そんな背中をちら、と扉が開けっぱなしの寝室の出入り口から見た櫻子は恭次郎がシャワーを浴びている間に仕事用のスマートフォンを取り出して手早くメッセージを確認し始めた。

 送られてきていたメッセージの内容にきゅ、と寄せられる薄化粧の眉。

 大崎は扉が開いていようが必ず手前で声を掛けて入室を伺ってくれるが櫻子はベッドサイドに立ったまま暫くバスルームの物音に聞き耳を立てながら幾つかメッセージのやり取りをこなす。

 恭次郎が出掛けたいと言ったから、駄目とは言えなかった。

(私もまだまだ甘いな)

 連絡をしていたのは櫻子が使っている諜報部。
 白昼堂々、コトは起きないだろうけど手が空いている者を警備として一時間以内に集めて欲しいと送るとすぐに承諾の簡素な返事が一つ、送られてくる。
 使用する車は自分が普段乗っている物、ドライバーは大崎。
 行先と変更があったらまた連絡する、と櫻子は送る。

 車の位置情報は常に諜報部によって監視されており、櫻子も外出で一人になる事は先ず無い。必ず大崎か他のドライバーがいる時しか最近は出掛けたりなど……そもそも、買い物すらしていない。

 大崎に任せきりだ。

 そうこうしていれば恭次郎が浴び終わったようで入れ違いで櫻子もシャワーを浴びにバスルームへ向かう。

 櫻子が今一度、外出用に身支度を整えた頃には恭次郎と大崎が仲良くソファーに並んでスマートフォンを覗き込んでいる姿が伺え、思わずこっそり笑ってしまった。何だかんだ言って、二人は良い上下関係を築いているのだ。
 以前、櫻子の付き人にさせる為に恭次郎と足立のもとで修行させたがすっかり大崎も恭次郎の扱いに慣れている様子。

 普通、こんな筋骨隆々な大男――極道者だと知らない一般人が見ても恭次郎には威圧感がある。きっと、自分の父親である誠一がそう躾けたのかもしれない。覇気と言う目に見えない気配。それを鋭くさせるにはそれ相応の研鑽も必要だったがその努力は永遠だ。

 櫻子も、きっと自分が死ぬまで、そうあり続けなければならないのだと覚悟をしていた。

「あ、会長。恭次郎さんが行ってみたいって言うのでちょっと遠いですが流行りのココに行ってみようかと」
「予約無しで入れてビジネスチェアが揃ってる場所なら新宿にもあるけど……まあ、いっか」
「湾岸ドライブなら任せて下さい」

 大崎が示した場所は新宿どころか都内ですらなく千葉の店舗。新宿からスムーズに行けば一時間掛からない程度の距離にある大衆家具の大型店舗。都内は土地が確保できない分、こうした都心から高速に乗って一時間圏内に大きな店舗が増えて来ていた。

 確かに櫻子も行った事は無いと言うかそもそも持ち物が少ない。
 同年代の女性が気軽に入る都内の店舗にもあまり……本当に必要に迫られた時くらいしか家具や生活雑貨を扱っている店に行く事はなかったので興味はある。

「たまには良いじゃねえか、三人でドライブってのも」

 昨晩の表情からは一転してすっかり乗り気になっている恭次郎を見た櫻子は「早めに出ましょうか」と提案する。

(彼が楽しそうならそれで良い)

 今だけは。
 暗い影の中に身を潜めすぎていると身も心も壊す。
 かつての櫻子の母、章子がそうであったように……世の中で一握りもないとても特殊な事情だ。彼女とて極道者の頂点に立つ男の妻になる度胸はあったが一人娘の母と成り、それは変わった。

 人は変わる。
 子を持つ親となって――子はその親を失って。

「先に車、回してきますね」
「おう」

 楽しみね、と言葉にすれば笑う恭次郎がいる。
 彼の脳裏に浮かんでいた便宜上の義理の父の誠一と暮らした子供時代の光景と、櫻子が思い出していた母と二人暮らしの記憶はどうしたって交われない。

「昨日のスーツどうする?」

 忘れ物は無いかと確認しながら交わす“何でもない”会話。
 恭次郎の返事も「クリーニングに出しといてくれ。流石に着られねえ」とだけ返って来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

ヤクザの組長は随分と暇らしい

海野 月
恋愛
キャバクラでバイトするリカ 店に来たヤクザの組長である中井律希のテーブルにつかされた 目当ての女の接客じゃないことに面倒くさそうな態度だったこの男。それがどうして―― 「リカちゃん。俺の女になって」 初めての彼氏がヤクザなんて絶対にごめんだ! 汚い手も使いながらあの手この手で迫ってくる中井を躱し、平和な日常を取り戻そうとあがくストーリー

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
非道でどこか虚無感を纏わせる男が、優しく温和な彼女のごはんと笑顔に癒され、恋に落ちる。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...