そのジンクス、無効につき

三日月

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FIRST GAME

9

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「ど、退けっ」
「うん、うん、荒川先生、いや、遼のこと一生大切にするからな」

夜中の23時にお泊まりセット付きで玄関に現れた若松。
期待に満ちた瞳の輝きより、鼻息の荒さが目立つ。
近所に同僚は住んでいないが、2階建てのアパートは道路からの目隠しもろくに無い。
学年も教科も接点のない若松が一人でやってくるには不自然だし、しかもこんな真夜中とか誰かに見られては困る。

だから、取り敢えず玄関の扉は開けた。
そして中に入れた。
1LDKの独身用の間取り。
家具は、テレビにベットとローテーブル位しか出していないが男二人だと狭いな。

ここからの説得をどうしたものかと悩みつつも、「まぁ、座れ」と言い終わらぬ内にベットに押し倒されていた。
軋むスプリングの上で、ヤル気満々な若松に見下されているこの現状。
合わさった両掌から伝わってくる熱やじっとり滲む汗が、やけに生々しい。

クンクン首筋の匂いを嗅がれ、涎を滴らせたタコ口に襲われる。
力の差がありすぎて若松の下から這い出ることさえ出来ない。

練習で体力を搾り取られてこなかったのかっ
くっ、ここでやっぱりかと、諦めそうになるな俺っ
退けと言っているのに一向に耳を貸さない若松。
一度気を反らして冷静にさせねばと話を振るが。

「そ、卒アル見るんじゃないのか?!」
「んー、後で。
なぁ、聞きそびれてたんだけど彼女とか彼氏とかいないよね?
俺に会うまでだから仕方ないけどさ」

ジッと探るように瞳を覗き込まれ、はたと気付く。
そ、その手があったかっ
彼氏まで聞かれたことには違和感しかないが、二股、三股を嫌がっていたんだから俺に彼女がいるとわかれば。

「居るなら、今から一緒に行って俺と遼が運命の相手だってわかってもらわなきゃ」

わからせるために何をする気だ。
知り合いに彼女のふりも軽々しく頼めないじゃないか。
ボソボソと仕方なく答える。

「い、今はいない」
「そっか、流石運命の相手だなっ
タイミングもバッチリだっ」

これで心置きなくとなったのか、満面の笑みを浮かべた若松にあっという間に服を脱がされた。
来ないだろうと期待を寄せて俺が寝巻きに着替えていたせいもある。
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