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2 幸せにしたい side 倭人
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今朝は、あの母さんが見てわかるほどに上機嫌だった。
普段の母さんは、表情筋が死んでるんじゃないかと思うくらい口元さえ滅多に動かない。
なのに、俺が食堂に入って来たときには、唇の両端が上がり、目元にもいつものキツさは無くて俺の斜め前に座っていた。
流石に動揺して使用人が引いてくれた椅子に座るのがワンテンポ遅れてしまった。
今もクロワッサンをお代わりしたあと、いつになくゆっくりと紅茶を飲んでいる。
これにも驚くよな。
菊川物産社長の母さんは、何かと忙しくしていて家で顔を合わせる時間が少なくて、こんなにくつろぐ姿は滅多に見ない。
この前ここで一緒に食べてから、半月は経ってるよな?
そうだ、俺の高等部の入学式以来だ。
今日は、一体何の行事があってまだここにいるんだろう。
「なぁ、なんであんなにニコニコしてんの?」
隣に座ってる兄貴に身を寄せボソボソ聞いてみる。
俺の一回り上の兄、清人(きよと)、28歳。
肩より長く伸びた髪を無造作に後ろに束ね、無地の白シャツを着て黙々と食べている。
目の前の親の異変には、全く興味が無いんだろうな。
黒ぶちの伊達眼鏡を覆い隠す前髪で、ここからじゃ機嫌が良いのか悪いかもわからないけど。
俺より先に来ていたんだから、なにか事情を知っているかもしれない。
まぁ、顔が見えたとしてもなぁ。
この人の場合、たった一人の例外を除けば母さんに似て無表情が基本仕様。
その人以外には塩対応だから、不機嫌に当たればフェロモンで威嚇までしてくる。
タイミングが悪くないことを祈るしかない。
俺よりでかいのに、わざと猫背を作って少しでも小さく見せる努力をしているから顔の高さは若干低い位置にある。
似合わない無精ひげまで生やしていた時期もあったけど、今は毎日剃っているみたいだ。
大学卒業後に留学して、そこから帰ってきてからは無職。
極力敷地から出ようとせず、屋敷とは別の南の離れに住んでいるから食事以外で会うことが無い。
年が離れているせいもあるんだろうけど、正直兄貴と一緒に楽しく何かをした記憶が無いんだよな。
「アホか。
飛鳥と陽太さんがその分イライラしてるんだから、察しろ」
面倒だと滲ませながら、溜息混じりに声を潜めた返しが来た。
機嫌はまだ良い方らしい。
前をちゃんと見ろと言われて⋯⋯あ、本当だ。
母さんが不気味なくらい機嫌がいいから、気付いてなかった。
その両隣にいる父さんと姉貴の眉間には、くっきりと深い皺が寄っていた。
父さんは、隣の母さんを睨みつけながらバリバリ音を立ててウィンナーに齧りついている。
しかも、立膝だ。
姉さんは、黙々と皿の上を片付けているけど無言。
目が、死んでる⋯
「ハルが怯えて、食事にも手をつけていない」
兄貴が忌々しいと不穏に漏らすが、よっぽど今の兄貴の方が怯えさせてるんじゃないか?
間にいる兄貴の身体が邪魔して、遙馬(はるま)さんの姿は横並びで全然見えないけど。
兄貴の向こう側、座っているはずのその前には料理が並んだまま。
ハルは、兄貴の番、梅田 遥馬(うめだ はるま)さんのことだ。
俺がハルと呼ぶには、この場で即死する覚悟が必要なくらい兄貴の特別な人。
兄貴にとって、この世に存在するたった一人の例外だ。
カトラリーを握った形跡も無く、兄貴と同じタイミングで出される料理を次々置かれてその前は溢れそうになっている。
遥馬さんは、俺達と比べると元々食が細いみたいだけど。
一皿も減ってないのは、この異常事態に確かに怯えてるんだろな。
普段の母さんは、表情筋が死んでるんじゃないかと思うくらい口元さえ滅多に動かない。
なのに、俺が食堂に入って来たときには、唇の両端が上がり、目元にもいつものキツさは無くて俺の斜め前に座っていた。
流石に動揺して使用人が引いてくれた椅子に座るのがワンテンポ遅れてしまった。
今もクロワッサンをお代わりしたあと、いつになくゆっくりと紅茶を飲んでいる。
これにも驚くよな。
菊川物産社長の母さんは、何かと忙しくしていて家で顔を合わせる時間が少なくて、こんなにくつろぐ姿は滅多に見ない。
この前ここで一緒に食べてから、半月は経ってるよな?
そうだ、俺の高等部の入学式以来だ。
今日は、一体何の行事があってまだここにいるんだろう。
「なぁ、なんであんなにニコニコしてんの?」
隣に座ってる兄貴に身を寄せボソボソ聞いてみる。
俺の一回り上の兄、清人(きよと)、28歳。
肩より長く伸びた髪を無造作に後ろに束ね、無地の白シャツを着て黙々と食べている。
目の前の親の異変には、全く興味が無いんだろうな。
黒ぶちの伊達眼鏡を覆い隠す前髪で、ここからじゃ機嫌が良いのか悪いかもわからないけど。
俺より先に来ていたんだから、なにか事情を知っているかもしれない。
まぁ、顔が見えたとしてもなぁ。
この人の場合、たった一人の例外を除けば母さんに似て無表情が基本仕様。
その人以外には塩対応だから、不機嫌に当たればフェロモンで威嚇までしてくる。
タイミングが悪くないことを祈るしかない。
俺よりでかいのに、わざと猫背を作って少しでも小さく見せる努力をしているから顔の高さは若干低い位置にある。
似合わない無精ひげまで生やしていた時期もあったけど、今は毎日剃っているみたいだ。
大学卒業後に留学して、そこから帰ってきてからは無職。
極力敷地から出ようとせず、屋敷とは別の南の離れに住んでいるから食事以外で会うことが無い。
年が離れているせいもあるんだろうけど、正直兄貴と一緒に楽しく何かをした記憶が無いんだよな。
「アホか。
飛鳥と陽太さんがその分イライラしてるんだから、察しろ」
面倒だと滲ませながら、溜息混じりに声を潜めた返しが来た。
機嫌はまだ良い方らしい。
前をちゃんと見ろと言われて⋯⋯あ、本当だ。
母さんが不気味なくらい機嫌がいいから、気付いてなかった。
その両隣にいる父さんと姉貴の眉間には、くっきりと深い皺が寄っていた。
父さんは、隣の母さんを睨みつけながらバリバリ音を立ててウィンナーに齧りついている。
しかも、立膝だ。
姉さんは、黙々と皿の上を片付けているけど無言。
目が、死んでる⋯
「ハルが怯えて、食事にも手をつけていない」
兄貴が忌々しいと不穏に漏らすが、よっぽど今の兄貴の方が怯えさせてるんじゃないか?
間にいる兄貴の身体が邪魔して、遙馬(はるま)さんの姿は横並びで全然見えないけど。
兄貴の向こう側、座っているはずのその前には料理が並んだまま。
ハルは、兄貴の番、梅田 遥馬(うめだ はるま)さんのことだ。
俺がハルと呼ぶには、この場で即死する覚悟が必要なくらい兄貴の特別な人。
兄貴にとって、この世に存在するたった一人の例外だ。
カトラリーを握った形跡も無く、兄貴と同じタイミングで出される料理を次々置かれてその前は溢れそうになっている。
遥馬さんは、俺達と比べると元々食が細いみたいだけど。
一皿も減ってないのは、この異常事態に確かに怯えてるんだろな。
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