ヘタレαにつかまりまして

三日月

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2 幸せにしたい side 倭人

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菊川家の現当主である母さんの機嫌が良いことは、この家の万事がうまく流れている証拠でもある。
まぁ、良いに越したことはないんだろうけど、ここまで外見でわかるくらい良いのはかえって混乱を招く。

俺も戸惑ってるけど、使用人なんかはガチガチに緊張しているのがわかる。
自分がなにかしでかして、機嫌を損ねたときの反動を恐れてるのかも。
俺の前に料理を運んできた手は震えていたし、母さんの前では息も止めてるみたいだった。

母さんのフェロモンに満たされたこの部屋の雰囲気は穏やかなのに、そこには縦横無尽に走る見えない糸がピンと張ってる緊張感がある。
兄貴も遥馬さんの食が進まないと苛ついてるし、これ以上俺から刺激しないようにしないとな。

カトラリーに手を伸ばし、黙々と食事を進めることにした。

俺の家は、女系のα家系だ。
母さんの代までは、菊川の血を代々一人娘が引き継いできた。
菊川家にとっては、姉の飛鳥のあとに生まれた、兄貴や俺はかなりイレギュラーな存在だ。

菊川物産は、100年以上続いている貿易メインの会社でその社長は俺の母さん、菊川 澪(きくかわ みお)。
前髪一本に至るまで隙なくセットされたオールバックに、抑えめな光沢のネイビーなパンツスーツ。
この人は、休日でもスカートを履かない徹底した男装ぶりを貫いている。
女性らしい格好は、ある記念日か限定だ。

経済紙にも、度々インタビュー記事が写真つきで掲載されるくらいには有名人で典型的αの性格でプライドが高い。
裏打ちする実績を積み上げ、更に高みを目指して仕事に邁進しているワーカホリック。
コケにしてくる格下相手には容赦無く報復するし、親戚にも何人か母さんの逆鱗に触れて経済界から追い出された人もいる。
『経済界の麗人』にして『冷酷な女王蜂』と恐れられる母さんだけど、兄貴と一緒で自分の番にはその手を緩めてしまう。

父さんもある意味有名人だ。
菊川 陽太(きくかわ ようた)、Ω風俗で働いていたところをばあさま達の反対を封じ込め、母さんから懇願して番にした相手。
この時点で、二人の関係は世間とズレがあるんだよな。
αがΩに番になって欲しいと頼み込むとか、母さん達が若かった頃は考えられないことだった。
αにとってΩは所有物みたいな感覚で、人間扱いすらしてなかったんだから。

しかも、父さんは菊川家に婿養子に入って正式な夫婦になっている。
αがΩを結婚相手として受け入れるなんて前例が無かった。
それまで、番と結婚相手は別の扱いだったから。

α同士で結ばれ、αしか子どもとして認めない徹底した優生主義者の塊であるα家系なら尚更だ。
菊川家のこの行為は裏切りにしか見えない。
この事実を知れば、父さんを徹底的に排除しようとする。

母さんはそれも見越し、わざわざ記者会見まで開いて二人の馴れ初めから結婚に至るまでの経緯を隅々まで暴露した。
αよりも圧倒的に数で勝るβに、二人の関係を受け入れさせることで手出しできないようにしたんだ。

最悪Ω相手なら殺人までしてきそうなα至上主義者。
でも、黙認する気はなくて菊川物産はかなり危なかったらしい。
けど、今ではすっかり持ち直し、売り上げは結婚前の3倍どころでは収まらない。
二人のことがきっかけでΩの人権が見直されたし、嫌味なマスコミに毅然とした態度で応えていた母さんの好感度が上がって、今まで繋がりの無かったβとの仕事が増えたんだってさ。

そういえば、近々どこかと提携して更に売り上げを伸ばすとか言ってたっけ。

だから、母さんは機嫌が良いのか⋯?

でもそれだけなら。
父さんはともかく、菊川物産営業部でバリバリ働く姉貴も機嫌良くなるんじゃ⋯⋯?
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