ヘタレαにつかまりまして

三日月

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3 お花畑

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「一体なんのつもりだっ」


怒りにまかせ、制服に身を包んだ目の前の背中を思い切り強く蹴飛ばす。
菊川家に遠慮しなければとか、飛鳥さんの前では大人しく気に入られるように動かねばとか、そんなことは一切忘れての一撃。
萩野直伝の蹴りは、そこらのαより威力がある。
揺れた藍色のブレザーにハッキリ残った靴跡を見て、少しは溜飲が下がった。

だが足りない。
まだ残った怒りを吐き出すために、とんでもないことをしやがってと毒づきかけたんだが言葉を紡ぐ前に閉じることになった。
それまで言い争っていた菊川社長と飛鳥さんが、唖然とした表情で俺を見ていたからだ。

しまった!
取り返しがつかないことをしてしまった!
Ωがαに、しかも俺を引き受けてくれた相手の家族の目の前で蹴りを入れるなんて!!
言い逃れなんて一切出来ない。
契約破棄も避けられない。
最悪だっ

菊川のプライドも間違いなく傷つけたよな。
「いってぇ」と顔をしかめながら振り向いた菊川に咄嗟に身構えたけれど、怯えた俺を見た相手はパチパチ瞬き。
「ごめん、驚かせたよな」と逆に詫びられ、ポンポンと俺の頭に触れた掌に優しく宥められてしまった。


「桜宮、悪いようにはしないから俺を信じて」


教室では見せたことがない、真剣な声と表情。
真摯な眼差しに、不覚にもドキリとさせられる。
くそっ、いつも寝てるかヘラヘラしてるかのどちらかのくせに。
αらしくない緩い態度も合わせて、眠り王子と揶揄されているくせに。

菊川は俺の肩に手を回し、菊川社長に向き直った。


「母さん、業務提携前提の番なら相手は俺でも良いはずだ」

「倭人は黙っていなさい。
今回の話は、飛鳥に番が必要だから受けたんだ」

「姉貴は納得してるのかよ?
勝手な思惑に巻き込まれる相手のことも考えろよっ」


部屋に満ちたフェロモンが、動く。
場を支配する社長のフェロモンに、菊川のフェロモンが牙をむき掻き乱そうと膨れ上がった。
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