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28 学園祭準備 side 陸

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逆に、田栗の番、誉は苦手だ。
別に媚びてくるわけじゃねぇが距離感があわねぇ。
あのうさんくせぇ、鼻につく話し方が気持ち悪りぃ。
生理的に好かねぇ。
αにしてはエセ臭いヤツだと思っていたし、Ωだと言われて逆に納得がいったがな。

菊川が、生徒会に入れたついでに誉達も群れに入れるとか言い出さなくて良かったぜ。

一段下で止まっていた田栗は、周りを気にする素振りを見せ俺達の上にも下にも人が居ないことを確認。
俺の肩に手を回して、強引に身体を引き寄せられる。 
そのまま声を潜め、耳元で釘を刺された。


「お前、分かってるとは思うが、学園祭で適当に物を食べるなよ?」

「わかってるって」

「本当かぁ?
妹が入ってきて、気が緩むとか無いだろうな?」


信用がねぇなあと笑ってみせるが、内心は冷や汗もんだ。
去年、うっかり三枝からチョコレート貰って食べてるからな。
田栗が顔を覗き込んで探りを入れてくるから、去年のことがバレないよう、逸らすまいと目に力を込める。

学園関係者で俺達が特異なαだってことは、学園長と田栗には知られている。
厄介な遺伝だから、千里さんが入学願書を書く前に直接相談に行ってくれてたんだ。
公にすることじゃないと渋る親父を、千里さんが押し切ったらしい。
まぁ、αからΩにされてる千里さんの説得力に、親父が敵うわけねぇしな。

差別なく受け入れる校風なんだろうと学園にも迫り、今後の協力までもぎ取って帰ってきた。
おかげで、食堂に出入りする職員は変更前に知らせて貰えるしな。
俺と過去に接点があったか、笹部家で調べやすくなった。
食べ物のやり取りには気をつけてるが、忘れていることがあるかもしれねぇし。
この点に関しては、千里さんは慎重だ。

今のところ、なんの接点もないスタッフしかいねぇから食堂で飯が食えている。
なんで教えなきゃいけねぇんだと、親父と一緒に俺も反対してたんだが。
今は千里さんに感謝してる。
きっと、千里さんのことだ。
中等部の入学希望者や高等部の編入者の中に、柿崎の名前が無いことも事前に調べてくれてたんじゃねぇかな。


「つーか、気が緩んでるのはあんただろ?
生徒になる人間に、入学前に手ぇ出してんだからな」

「おまっ・・・お前ぇなぁ、ソレ、言っときゃ俺が黙ると思ってんなっ」


力任せに首を引っ張られ、危うくバランスを崩しそうになる。
ここ、階段だぜ?
危ねぇって!


「ちゃんと責任取ってるだろう!」


田栗は腕を外すと、俺に左手をズイッと見せてくる。
そこには誉と対の結婚指輪がはめられていて、確かに責任は取ってるなと頷くしかねぇ。
この話じゃ、もうイジれねぇな。

そのとき自然と溜息が漏れたのは、田栗をからかえるネタが無くなった残念な気持ちよりも。
それ以上に、変異種Ωにしたまま、責任も取らずに逃げてる自分の不甲斐なさ。
そっちへの落胆の方が圧倒的に大きかった。

俺にさえ会わなければ、Ωとして発情せずβと変わらない生活が送れるんだと。
そう、わかっていても。
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