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30 学園祭 side 陸

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買った和菓子を適当な紙袋に入れさせ、廊下に出る。
今朝、騒がせた詫びも兼ねて、菊川かかなちゃんから四組に配ってもらおうと思ったんだ。
一度俺より上位の菊川か、Ωの番持ちなかなちゃんを経由すれば変異種Ωに変えることもねぇしな。

出入り口までの、数メートル。
一分もかからねぇ、扉を出て、曲がって、歩いて、扉をくぐればすぐそこの距離。
指に引っ掛けた紙袋を持ち上げ、前を向いて歩くだけの僅かな時間。

扉から出た俺の視界。
ぶつからねぇように左右を見渡した視界に、渡り廊下の角を曲がり、一組の教室の前を通りこちらへ連れ立って歩いてくる、桂木と。
避けていた三枝、の、二人が入った。

衣装らしい緑のジャケットを羽織った桂木に、アリス姿の三枝。
笑いながら、桂木が持っているポップコーンを分け合って歩いてる姿。

俺のΩの発情フェロモンを嗅いだときから、あれだけカッキーのことしか考えられなくなっていたってぇのに。
頭ん中が、三枝一色に埋まった衝撃で息が詰まった。
詰まって、苦しくて、慌てて背を向け、四組の教室へ逃げ込んでいた。

俺達求愛給餌特化型は、手に入れたり作った食べもんを好意がある人間に食べて貰えることが何より嬉しい。
その好意の程度に多少の違いはあるが、友情だろーがなんだろーが見ていて気持ちが満たされる。

それが、相手をΩに変える第一段階になるとわかっていても見たくなる。

親父は、一切好意をもつ人間からお返しを貰わねぇように気をつけ、代わりに、周りに食べもんを配って歩き気持ちを満たしていたらしい。
まぁ、それが結果的に守れず、俺の孕親の千里さんはαから変異種Ωになったわけだが。

千里さんは、当事者だからな。
俺や海と空には、食べもんのやり取りは対象にならない兄妹間や親子間とかに限定するよう言い含めていた。

けど、あの夏。

俺は、我慢出来ず、自分がカッキーに食べもんを渡したくて。

変異種Ωにしてしまった。

あれからは、二度と同じ過ちを繰り返さねぇように、海と空、あとは動物園で発散。
他人へ与えねぇように戒めていて。

なのに、三枝には飯を奢っていた。

俺さえ気をつけていれば大丈夫だと。
そんな言い訳ひとつ考えようともせずに。
当たり前みてぇに、奢ってしまっていた。

今回も、詫びと言いながら間接的に三枝にこれが渡るだろうなと無意識に考えていた。
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