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32 挨拶 side 渡
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そのすぐあとで、松野君と麻野君も廊下を歩いて来て。
人数分の缶ジュースを手に抱えてた。
笹部君は、なんか言われる前に「後で」って行ってな。
俺の手を引っ張って、中庭に出てん。
高等部の中庭は、真ん中に噴水があって、それを囲むように花壇やベンチが置かれててな。
天気の良い日は、お昼休みにここでお弁当食べる子もいて賑やかやねん。
けど、今の時間は、花壇の脇に設置されてるガス灯を模したちょっとおしゃれな街灯の光しか無いし、人気もない。
笹部君は、中庭の奥にある時計台に入ろうとしたみたい。
俺の手首を掴んだまま、噴水を通り過ぎて時計台の扉を開けようとしたんやけど鍵が掛かってて開かへんかった。
そこはな。
学園長が行事とか、あと学園にいるときにたまーにチャイムの代わりに鳴らす鐘も中にあんねん。
扉も開けっ放しなことが多いし、ちゃんと戸締まりしてんの初めて知ったかも。
笹部君は舌打ちして、時計台を見上げた。
もう数分で集合時間や。
笹部君、戻らんでえぇの?
俺は、怒られる覚悟はもぅ出来てるしえぇねんけど・・・
笹部君は、時計台から一番近いベンチの前に歩いていってな。
目線と握られてる腕を動かされて、俺に座れって言ってきたしな。
あぁ、もう逃げられへんなぁって、俺も諦めて座ってん。
目の前の噴水は、強弱つけながら水を空中に放って、キラキラ光を浴びながらアーチを描いてく水の線は池の中に消えてく。
部活帰りに、昇降口から綺麗やなぁって目にしたことはあったんやけど、こんなに近くでじっくり見んのは初めてやわ。
頭一つ離れたところに笹部君も腰掛けてな。
二人並んで沈黙。
ちゃんと言えそうに無かったからって、あんなふうに有耶無耶にしようとしたらあかんやんな。
平手も、良くない。
うん、まずは、謝ろう。
隣に座った笹部君の顔を見たら。
もし、怖い顔してたら。
俺、口がきけへんなるかもしれへんしな。
前を向いたまま、口を開いてん。
「あんな・・・」
「あのさ」
え??
タイミングがぴったりで、びっくりしてしもた。
お互いに自然と顔を見てしもて、思ったより近い場所に顔があって、それにもびっくり。
なんや、苦笑いしてしまう。
でも、今度は言葉を譲り合ってしもて、目を合わせたまま気まずい沈黙が流れた。
笹部君は、ちょっと目を逸らして考えて。
自分から口を開いてくれた。
「あのさ、責任て・・・三枝が考えてるような意味じゃねーからな」
俺が怒鳴ってしもたこと、気にしてくれてんの?
「え、えぇて、えぇて。
あんな、笹部君にはな、ちゃんと好きな人と番になって欲しいねん。
せやし、俺のことは気にせんでえぇよ」
ギュッ
手首を掴んでる笹部君の手に、力が入って締め付けられる。
え、え、さ、笹部君、痛い、痛いっ
痛いけど、見開かれた笹部君の目の奥が揺れてて、傷ついてて、胸が痛くなる。
なぁ、なんでそんな顔すんの?
俺、ほんまに願ってんで?
強がりとかやないねん。
ほんまにな。
ほんまに笹部君には・・・
「なんで、お前は・・・」
マスク越しやと、掠れた笹部君の声は本当に小さくてくぐもって聞き取りにくい。
せやけど、それ以上に笹部君の見えへん葛藤まで聞こえてくるみたいな苦しい声やった。
人数分の缶ジュースを手に抱えてた。
笹部君は、なんか言われる前に「後で」って行ってな。
俺の手を引っ張って、中庭に出てん。
高等部の中庭は、真ん中に噴水があって、それを囲むように花壇やベンチが置かれててな。
天気の良い日は、お昼休みにここでお弁当食べる子もいて賑やかやねん。
けど、今の時間は、花壇の脇に設置されてるガス灯を模したちょっとおしゃれな街灯の光しか無いし、人気もない。
笹部君は、中庭の奥にある時計台に入ろうとしたみたい。
俺の手首を掴んだまま、噴水を通り過ぎて時計台の扉を開けようとしたんやけど鍵が掛かってて開かへんかった。
そこはな。
学園長が行事とか、あと学園にいるときにたまーにチャイムの代わりに鳴らす鐘も中にあんねん。
扉も開けっ放しなことが多いし、ちゃんと戸締まりしてんの初めて知ったかも。
笹部君は舌打ちして、時計台を見上げた。
もう数分で集合時間や。
笹部君、戻らんでえぇの?
俺は、怒られる覚悟はもぅ出来てるしえぇねんけど・・・
笹部君は、時計台から一番近いベンチの前に歩いていってな。
目線と握られてる腕を動かされて、俺に座れって言ってきたしな。
あぁ、もう逃げられへんなぁって、俺も諦めて座ってん。
目の前の噴水は、強弱つけながら水を空中に放って、キラキラ光を浴びながらアーチを描いてく水の線は池の中に消えてく。
部活帰りに、昇降口から綺麗やなぁって目にしたことはあったんやけど、こんなに近くでじっくり見んのは初めてやわ。
頭一つ離れたところに笹部君も腰掛けてな。
二人並んで沈黙。
ちゃんと言えそうに無かったからって、あんなふうに有耶無耶にしようとしたらあかんやんな。
平手も、良くない。
うん、まずは、謝ろう。
隣に座った笹部君の顔を見たら。
もし、怖い顔してたら。
俺、口がきけへんなるかもしれへんしな。
前を向いたまま、口を開いてん。
「あんな・・・」
「あのさ」
え??
タイミングがぴったりで、びっくりしてしもた。
お互いに自然と顔を見てしもて、思ったより近い場所に顔があって、それにもびっくり。
なんや、苦笑いしてしまう。
でも、今度は言葉を譲り合ってしもて、目を合わせたまま気まずい沈黙が流れた。
笹部君は、ちょっと目を逸らして考えて。
自分から口を開いてくれた。
「あのさ、責任て・・・三枝が考えてるような意味じゃねーからな」
俺が怒鳴ってしもたこと、気にしてくれてんの?
「え、えぇて、えぇて。
あんな、笹部君にはな、ちゃんと好きな人と番になって欲しいねん。
せやし、俺のことは気にせんでえぇよ」
ギュッ
手首を掴んでる笹部君の手に、力が入って締め付けられる。
え、え、さ、笹部君、痛い、痛いっ
痛いけど、見開かれた笹部君の目の奥が揺れてて、傷ついてて、胸が痛くなる。
なぁ、なんでそんな顔すんの?
俺、ほんまに願ってんで?
強がりとかやないねん。
ほんまにな。
ほんまに笹部君には・・・
「なんで、お前は・・・」
マスク越しやと、掠れた笹部君の声は本当に小さくてくぐもって聞き取りにくい。
せやけど、それ以上に笹部君の見えへん葛藤まで聞こえてくるみたいな苦しい声やった。
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